強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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番外編2「予期せぬ出会い(ムール視点)」

「……他の人達大丈夫かな」

 

 振り返る事はない、だけどそんな独り言が漏れちゃったのは、オイラに何処か後ろ髪を引かれる思いがあったからだと思う。

 

(気配で魔物が居るのは広間の方だけって分かってるけど、崩れてる場所とか崩れそうな場所はオイラにもわかんないからなぁ)

 

 そう言う意味で危険な場所なのに、あの人達はオイラ達の故郷を何とかしようとしてくれている。

 

(それだけじゃないよね、オイラに関して言えば生き返らせてくれてもいるんだし)

 

 だから、受けた恩は返さなくちゃいけない。

 

(恩返しは当然、だよね……うん)

 

 自分の身体が他人(ひと)とは違うつくりをしている事をオイラは知っていた。最初に認識させられ、父さんや母さんに尋ねると、二人は言った。

 

「ムールはどちらとして生きたい?」

 

 と。

 

「ハーフエルフと言うことは村の皆には隠しようもない。だが、だからこそお前が肌を隠すようなそぶりを見せても皆不審に思うことはないだろう。それに、エルフの血を引くお前は成長が遅い。あまり急ぐ必要はないが――」

 

 決めておくように言われたオイラだったけど、結局決められず。

 

(先延ばしにしたあげく、父さん達の助言でこの格好に落ち着いたんだっけ)

 

 成人すれば髭が生えてくるかもしれないし、胸だけならサラシか何かを巻き付けることで誤魔化せると言うのが、決め手だった。

 

(それでも、オイラが決めたのは服装みたいな上辺だけ)

 

 それ以上のことは考えても居なかった。考える気もなかった。

 

(逃げて居たんだと思う)

 

 そんなさなか、村を出ることになって、家族とも離ればなれになり。

 

(最期はあの洞窟で……)

 

 だから、こんな日が来るとは思っても居なかったのだ。

 

(逃げに逃げたツケ……だよね)

 

 そう思えば、覚悟は決められた。あの人は恩人でもある。

 

「下着、二着……」

 

 ヘイルさんが言っていたことを思い出すと、別の意味があるようには思えない。

 

(思えない、けど……やっぱりあれかな? こういう時って色気のある下着とか選んだ方がいいのかなぁ)

 

 これも性別をどっちつかずにしていた弊害だ。

 

(と言うか、そもそもオイラの下着って男の人から見てどう見えるんだろ)

 

 そもそもよくよく考えると色気のある下着って何だという点にも辿り着いてしまう。

 

(や、相手が男性だとすると女性的な色気ってことなんだろうけどさ)

 

 そもそもオイラの下着は上はいつもサラシで済ませていたから下のみ。

 

(女の人用のを改造した奴の方が良いんだろうけど、あれって収まりがあんま……あっ)

 

 何故か真剣に考え込んでいたオイラは不意に我へ返る。

 

「何考えてるんだろ、オイラ。そもそも今はこんな事考えてる場合じゃないよね?」

 

 今すべきは一刻も早くこの先の状況を確認し、報告を兼ねて引き返す事だというのに。

 

「急がなきゃ」

 

 この先がくさったしたいやがいこつ剣士の出入り出来る場所になっていた場合、ヘイルさんの言うように入り口に残してきたおじさんの身に危険が及ぶ。

 

(大丈夫、崩れそうな様子はないし、魔物の気配もない)

 

 何者かの歩き回った痕跡は残ってるけど、あれだけくさったしたいが村に居たんだからここから抜け出すのに出口を探してこっちに迷い込んだくさったしたいがいても驚かない。

 

(むしろ問題なのはここに来た痕跡が残ってるってことの方だし)

 

 この上、奥に行って出入り口が出来ていた場合、痕跡の主がそこから外に出た可能性があるのだから。

 

「確か、そろそろ通気口のある部屋についても良さそうなんだけど」

 

 住んでいた訳ではないし、そもそもここに来るのはお葬式の時ぐらいだけど、緊急用の出口になりうる場所なんだ。何度か足を運んだ覚えはあった。

 

「あっ」

 

 そんなオイラの記憶は間違っていなかったらしい。正面にカンテラの物とは違う光が注いでいるのが見え。

 

「通気口からの光だ」

 

 ようやくオイラは目的地に後一歩の場所まで来たことを知り、足をはやめた。

 

(まず、通気口の近くの壁とかが崩れてないかを確認して、それから――)

 

 崩れていないなら、崩れそうかどうかの確認もしようと思った、だけど。

 

「えっ」

 

 近寄ってみると通気口の側の壁は崩れていたんだ。

 

「……行き止まりが、ない?」

 

 ただ、通気口へ登れるような崩れ方じゃない、寧ろその逆。最奥の壁と床が崩れ落ち、ぽっかりと口を開けていたのは、漆黒の闇。穴の奥からは水音が聞こえるが、それ自体には驚かない。通気口から流れ込んできた雨水を地下の川に流す設備があったのは知っていたから。

 

「嘆かわしいことじゃ」

 

「えっ」

 

 ただ、急に背後から声が聞こえたのはオイラにも想定外であり。

 

「ほう、お前さんこの村の者じゃな?」

 

 振り向いたオイラを見ていたのは半透明の姿をしたお爺さんだった。

 

「何も言わんでもええ、その鼻の形、村長の嫁さんにどことなく似て居るでな、わかるんじゃよ」

 

「や、オイラが言いたいのは」

 

「ワシはな、この地下墓地を作った者の一人じゃった」

 

 幽霊になったことがあるから、そう言うものが存在することは知ってるし、村の一員だったことを隠す気なんて無かった、ただ。

 

(まるで話が通じない……)

 

 どうして床が抜けてしまったかとか効きたいことはあったのに幽霊のお爺さんはオイラの言葉に欠片も耳を貸さなかったんだ。

 

 




と言う訳で、ムール君視点でした。

男盗賊の格好だったのは、成人後を見越した親のアドバイスを受けた結果だったのです。

もっともエルフの血のおかげか、髭は生えてこなかったようなのですけれどね。

ちなみに、腐った死体が流される原因になった場所がここです。

いやー、出すまでかかったなぁ。

次回、第七十三話「予期せぬ出会い」


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