強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第七十一話「結局別の出口は出来てるのかどうか」

「とりあえず、あの分岐までは戻って来られたな」

 

 ポツリと呟く俺の視界に入るのは、少したりとも動いた様子のない通路を塞ぐ家具。

 

(そして把握出来る限りに敵の気配もなし……っと)

 

 うようよ居て時間をとられるよりはマシだし、村を彷徨っていた分の動く屍を吐き出したからこその状況と考えれば、おかしい所は何もない。

 

(むしろこっちとしては都合が良すぎるくらいだよなぁ、うん)

 

 敵が居ないのであれば、少々無理をして多めに家具を担ぐことだって出来るのだ。

 

(同行者の殆どが女性だし、やっぱ力仕事となると、ねぇ)

 

 女性陣へ負担を強いるのは抵抗がある。

 

(もっとも、全ての家具を自分で持てる訳じゃないからいくらかは結局負担して貰わざるを得ないんだけど)

 

 それでも後方警戒要員のエピちゃんや、そもそもが非力なクシナタ隊所属の魔法使いのお姉さんに家具を持って貰うのは無理というもので、持ち運んでいる数の総数は俺がもっている家具の倍と言ったところなのだが。

 

「モシャスの効果時間がもっと長かったらスー様に変身して運ぶという手も有るのですが」

 

 なんて魔法使いのお姉さんは申し訳なさそうな顔をしたが、そこは諦めてくれて良かったと思う。

 

(中身が女の人の自分とかね)

 

 想像しただけでも「うわぁ」とか声が出そうなんですけれど。

 

(創作モノでたまに見る「元男とか中身が男の女の子」はあんまり抵抗ないのに逆パターンだと抵抗を感じるのは俺が男だからなのかなぁ)

 

 女性陣に聞けば解る気もするが、そんな事より今は優先すべき事がある。

 

「っ、これでいい。荷物が増えた故に機敏な動作はし辛くなったが問題は無かろう」

 

 設置されていた家具の上に担いでいたニフラム家具を乗せ、一緒に持ち上げた俺は担ぐ家具の位置を調整し。

 

「さて、行くとしよう」

 

「はい」

 

「うん」

 

 かけた声に応じた二人と共に封鎖していた通路を奥へと歩き出す。

 

「ムール、この先はどうなっている?」

 

「えーと、真っ直ぐ進むと二股の分岐。とは言っても、平行に二本の通路が延びてもう少し行った先で合流してるだけだから、封鎖もいらないと思うよ。壁隔てて向こう側の通路にくさったしたいとかが居ればまず気づくだろうし」

 

「成る程な。何故そんな構造にしたのかは気になるところだが……」

 

 おおよその想像も付く。

 

「片方の通路は予備、か?」

 

「かなぁ? オイラ達が村を出る前に地下墓地で崩落が起きたことが有ったらしくて、たぶんそれに備えてたんじゃないかって言われてる。一方が塞がっても閉じこめられないようにって」

 

「そうか」

 

 逆に言うとそんな備えをしているからこそ崩落がありそうで怖かったり厄介だったりするが、悪い方に悪い方に考えても仕方ない。

 

「ならば双方が崩落で塞がっていることはないな」

 

 フラグっぽい独り言だとは思う。ただ、もし塞がっていたなら外に出られなかった魔物達が外に出られずその気配を俺かムール君が察知している頃なのだ。

 

(それに、空気の流れも有るみたいだし)

 

 行き止まりになっていたら、そんなことはない。

 

「それで、その先は?」

 

「ええっと、また分岐してて片方は開けた空間に繋がってたかなぁ。もう一方は上に伸びてて通気口があったと思う」

 

「ほう」

 

 だとすれば俺の感じる空気の流れはそこへ向かうものなのか。

 

「もし、他に外へ出る場所が出来てるとしたら、この通気口の方だよ、多分。普通の人じゃ無理だけどオイラ達みたいな盗賊なら壁を登って通気口から外に出ることも出来るかも知れないし」

 

 内部で何かあった場合、上からロープを垂らし、途中にある格子を外せば緊急時の脱出路に早変わりするのだとムール君は言った。

 

「つまり、崩落で壁が斜面のようになっていれば出られるかも知れぬ、と?」

 

「うん」

 

「ならば先に調べるべきは、通気口がある側だな」

 

 他に出口があるのでは、バリケードが意味をなして居なかったも同異義語。

 

(最悪、もう一度村を回って魔物が居ないか確認しないといけないしなぁ)

 

 残してきたオッサンの事も気にかかる。

 

(出血で弱った状態のオッサンが、別の出口から外に出た魔物と遭遇でもした日には――)

 

 もう一方の分岐を塞ぎ、全速力で引き返す必要があるだろう。

 

「少し、急ぐか」

 

「えっ? あ、そっか。うん」

 

 俺の独言を聞いて危惧したことを悟ったらしく、ムール君は頷き。トロワが否と言う筈もない。

 

「っ、これは」

 

 少し足を速め、二本の平行通路へと別れる分岐に辿り着くと、少し先で右手側の通路が塞がっている様が明かりに照らし出されており。

 

(半分当たりで半分ハズレって感じかなぁ)

 

 両方塞がっていなくて良かったと思いつつ、無事だった方の通路を通り抜ける。

 

「問題の分岐は、この更に先……」

 

 気持ちは急ぐが、注意を疎かにする気はない。

 

「っ」

 

「あ」

 

 だからこそ、気づいた。声を上げる辺り、ムール君も察知したようだが。

 

「確認より先にすることが出来てしまったようだな」

 

 感じたのは、魔物の気配。しかも寄りによって複数、だった。

 

 




次回、第七十二話「地下墓地はまだ奥へと続く」

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