「改造が終わったそうだな」
こちらの姿を探していたのだろう、バリケードの内から出た俺は周囲を見回すトロワを先に見つけ、機先を制して声をかける。
「マイ・ロード」
「良くやってくれた。こっちもあと少しだ」
顔を輝かせたトロワへ口元を綻ばせた微笑で応じつつ、バリケードを構成する家具の一つへ手をかける。
「バリケード撤去の続きは任せろ。たいした時間はかからんだろうが、その間休んでいるがいい」
若干動かしたとは言え、家具のバリケードを作ったのは俺だ。結構な数の家具が既に動かされてはいるが、どの家具が中に持ち込むべきものなのかも最初にどれをどかすべきなのかもだいたい解る。
「スー様」
「ちょうどいい。俺はこれを動かす、お前達はこっちをそっちにどけてくれるか?」
「えーと、これは?」
「それは中に運び込む方だ。とは言え他の家具をどかす邪魔にもなる、入り口からあまり離れず、撤去の邪魔にならない場所に置いておいてくれ」
指示を出しつつ自分も動くこと少し。
「こんな所か……やはり人数がいると早いな」
作成は俺とトロワだけで行ったバリケードであり、俺が中で魔物を消したり警戒を続ける間も作業は行われていたのだ。女性が多いもののオッサンの様な力仕事に向いた人材も混じっていたのもあり、作業が終了するのもあっという間だった。
「ムール、明かりを任せて良いか? 俺はニフラム家具でおそらく手が塞がる」
「あ、うん」
「出来ればだが、中の案内も頼む。正式なこの村の住人はお前だけだからな。内部構造には一番詳しかろう? それに、家具で生じる死角の補完も任せたい」
後者については同じ盗賊だからこそ頼める事でもある。
「オイラで良ければいいよ……けど、トロワさんは……いいの?」
「マイ・ロードの仰ることですし、理にはかなっていますから」
トロワとのやりとりからも窺い知れる朝のことを引き摺ってる部分は不安要素だが、ムール少年(仮)が先頭に居なければ村人としての利点が生かせない。
(トロワを中央や後方に配置すると俺の側に侍るって誓いが果たせなくなるからトロワ自身が反対するだろうし)
問題解決するには二人が和解するか俺が二人の間へ物理的に入る以外の方法は思いつかず。
(時間があればそれが解決してくれた可能性もあるんだけどなぁ)
無いモノねだりをしても仕方ない。
「思うところがあるのは解るが、ここは俺の顔を立ててくれ。今日中にこの地下墓地の魔物を全て倒せねばまたこの村で夜を過ごすことになるし、死者が魔物と化してうろつくこの現状を好ましく思っている者はいないだろう?」
「っ、申し訳ありませんマイ・ロード」
「気にするな。お前は良くやってくれている。家具への呪文付与があったからこそ昨晩は皆休むことが出来たし、これから赴く地下墓地内にこいつを設置することも出来るのだ」
諭されて時間をかければトラウマ発祥の地でもう一泊という現実を理解したのか頭を下げるトロワを褒めつつ、俺は肩に担いだニフラム家具改を揺らして見せる。
「マイ・ロード……」
「ふ、理解が出来たならこの話はここで終わり……それでいいな?」
じっと俺の顔を見つめるトロワに確認し。
「そもそもこれが終わらねば元々ここに来た目的も果たせまい?」
「っ、かたじけない」
答えを待たず肩をすくめ、オッサンを一瞥すると、一人の愛妻家は感謝の言葉を口にする。
(そう、そもそもここに来たのはオッサンの奥さんに故郷で眠って貰う為だったんだから――)
村がこんな状況で良いはずがない、だから。
「いくぞ」
「「はい」」
「うん」
「ああ」
促せば、聞こえてきたのはいくつもの返事。
「ムール」
「うん」
名を呼べば、明かりが暗闇に沈んでいた地下墓地の内部を照らし出し。
「カナメ、後方は頼んだ。エピニアのお守りもな」
「任せるぴょん」
まだ外のカナメさんも俺の要請に快く答えてくれて。
「……まだ遠いが、全滅はしていなかったか」
「マイ・ロード?」
魔物の気配を感じ取った俺は、担いだ家具のスイッチとでも言うべき場所に指を添え、トロワに言う。
「大丈夫だ、足音があるし、あの魔物と言うことはない。ムール、気配は前方右手奥だが、お前も感じるか?」
「えっ? あ、うん。言われると気づくってぐらいだけど……と言うか、これが分かったんだ……すご、じゃなくて、えーと、多分この位置なら直進じゃなくて分岐を右の方に入っていかないといけないと思うよ」
「そうか、一本道ではないと思っていたが」
いきなり分岐があることを明かされるが、まだ想定内だ。
(手探りじゃなくて魔物の位置は把握出来るし、ムール君って案内人も居る)
感知した魔物を一体一体仕留めていけば良いだけの話であり、家具トラップの発動で内部の魔物の数は減っている筈。
「ならば、そちらへ向かおう。ムール」
「うん。暫くは真っ直ぐ。分岐に近づいたらオイラ言うから」
「ああ、その時は頼む。ふむ」
言葉を交わしつつ進む地下墓地の壁、ちらりと目に入ってきたのは空っぽの空間とボロボロになった皮の腰巻きに幾枚かの金貨。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
副葬品だけ残っていると言うことは、人が横たわれる程の空間にあった死体は既に魔物となって何処かに行った後なのだろう。
(この空間にも気をつけておかないとな。多分気配として感じ取れると思うけど)
一見ただの死体だと思ったら急に動き出した何てのは、ある意味お約束だ。ムール少年(仮)には頭を振りつつも俺は気を引き締めた。
いよいよ地下墓地に突入した主人公一行。
珍しくシリアスシーンオンリーっぽいが、これは嵐の前の静けさなのか?
次回、第六十五話「ゲームって親切設計なんだなとつくづく思う。ただしカメラに悪意しかないのは除く」
番外編の入れ時に悩む今日このごろ。