強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第四話「バハラタ出立」

「以前、封印した故郷に妻の亡骸を弔う為にどんな扉でも開けてしまう鍵を探していた男に会ったことがあってな」

 

 一度関わった手前、同行させて貰ってその結末を見届けることになったと俺はトイレから戻ってきたトロワに説明する。

 

「……そうですか。マイ・ロードがお決めになったことに否はありません」

 

「すまんな。シャルロット達の方にも知り合いに合流して貰うつもりで居る。そちらがうまく行けばアンを含むあちらの近況も知ることが出来るようにはなると思う」

 

 度を超したマザコンのトロワにとって母親と離ればなれは辛いに違いないが、側に侍ると誓ったトロワをあちらに行かせる事も出来ず、アンをこちらに呼び寄せてしまった場合、アンの息子を説得するための手段をあちら側が失ってしまうことになる。

 

(こっちがアンの息子さんと接触する可能性なんてアレフガルドに足を運びでもしない限り相当低……やめよう、この思考はどう考えてもフラグだ)

 

 そもそも、おばちゃんの息子が姉であるトロワや母親当人を捜しにこっちに来た時に鉢合わせるという可能性も存在すると言うのに。こんな所でフラグをおっ立てるのは、厄介ごとに向かって手招きするようなモノでしかない。

 

「……ママンの? ありがとうございますっ、マイ・ロード!」

 

「気にするな……と言うか寧ろもっと別の所を気にしろ」

 

 俺が返した言葉の意味を理解するなり後ろから抱きついてきたトロワに俺がした指摘は相応のモノだったと思う。

 

(おもいっきり、あたってるんですけど、むね が)

 

 変態は今日も変態だったと言うことか。

 

(カナメさんが部屋を出た後で良かった)

 

 部屋を出たからこそ、押しつけてきているのかもしれないけれど。

 

「別のことを気に? 解りました布が邪魔だから脱げと仰るのですね?」

 

「……わかっていてやってるな?」

 

 そうでなければ寝ている時以外も縛っておかないといけないんじゃないだろうか、コレ。

 

笑劇(コント)はいい。とにかく、他者について行くという形になる。出立のタイミングを始め主導権はあちらにある。そのつもりで、出来るだけ早くここを引き払う準備をしておけ」

 

 実際の出発までにはカナメさんや他の同行組のクシナタ隊と合流した後になると思うものの、今の内にしておけることもあるのだ。

 

(荷造りとあのオッサンへの連絡。それから、不足してる品があるなら買い足しもかな)

 

 重さと容量を無視したふくろはシャルロット達が持っているため、消耗品を以前程大量に買い込んでおくことは出来なくなった。

 

(そう言う意味ではトロワの存在は大きかったかもなぁ)

 

 しつこく押しつけていた質量兵器を消してしまえる袋をこの変態娘は開発していたのだ。重量を無視して何でも入る袋の再現を目指した結果の失敗作だったが、作成して入れたモノの体積を縮小させるだけの袋だとしても持てる荷物の量が増えるのは紛れもない事実なのだから。

 

(前に入っていたモノを考えると下着同然だから持つことに若干の抵抗は覚えるけどさ)

 

 下手なリアクションをしようものなら妙な誤解をされかねないというのは問題だ。

 

(そもそもトロワの中古じゃなくて出来れば新品がつくって貰えると良いんだけどなぁ)

 

 こちらで作ることが出来るか解らないし、我が儘な要求だとも思う。

 

(が、トロワに出来ることを把握しておいた方が良いのも確かだよね)

 

 アイテム制作者として天才的な能力があるなら、遊ばせておく理由はない。

 

(ジパングに連れて行って、神秘のビキニの開発に携わった元バニーさんのおじさまと引き合わせたらとんでもないモノが出来るんじゃないだろうか、うん)

 

 優れた武器防具が開発され、神竜と戦う助けになってくれるなら、試してみる価値はある。

 

(まぁ、その前にあのオッサンの帰郷を見届けないといけないし、今は出発の準備だな)

 

 使ったモノを鞄にしまうため手を伸ばしつつ、俺は敢えてトロワに背を向けた。

 

(あざといと言うか、何というか)

 

 こちらの視界にしまおうとする下着を入れようとしてくるのだから、是非もない。

 

「とりあえず、荷造りが終わったら件の男の所へ行くぞ?」

 

「はい、マイ・ロード。ところで、ムラムラしませんか?」

 

「そうだな、少しイライラならし始めているかもな」

 

 だから、ふざけた返答には絶対零度の視線とエアアイアンクローでお答えするのが礼儀だろう。

 

(こういう時、カナメさんはどうしてるんだろう? あとで聞いておこうか)

 

 思わず天井を仰いだ俺は最後の荷物を鞄に押し込み。

 

「同行を希望されるか、承知した」

 

「すまんな。こちらは多くて六人ぐらいになると思うのだが」

 

「そうか。うむ、それぐらいなら物資も足りよう」

 

 部屋を出たところで見かけたオッサンとの話しはあっさり終わる、ただ。

 

「出発は明後日だ」

 

「え」

 

 俺はもう一つ大切なことを忘れていたらしい。このポカによるタイムロスで見つからなかったのは、幸運だった。

 

(物事ってさ、やっぱりきっちり確認してから挑まないと駄目だね、本当に)

 

 二日後、晴れ渡る空を仰ぎつつ船上の人となった俺を乗せ、船が動き出す。こうして俺達は、バハラタを後にしたのだ。

 




次回、第五話「そう言えばそうでしたね」

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