強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第三話「相談の結果」

「故郷に向かうという話だが、同行させて貰うことは可能か?」

 

 とりあえず、それだけは聞いておかなければ、ならない。

 

「別に問題はないが」

 

「そうか、それはいい」

 

 ひょっとしたら同行させて貰うかも知れないと言う旨をオッサンに伝えると、予定がつくかどうかを仲間と話し合ってまた来ると言い残し、俺はその場を去る。

 

(エピちゃんからすれば俺とトイレの組み合わせはなぁ)

 

 嫌な記憶を思い起こさせるシチュエーションなど避けるに越したことはない。

 

(さてと、部屋に戻るか。カナメさんには相談に乗って貰いたいし)

 

 他のクシナタ隊への伝言を頼む必要もある。

 

「ん?」

 

 ただ、不意に何か引っかかりを覚え、俺の足は止まる。

 

(あれ? 何か忘れてるような……)

 

 変態娘のロープは解いたし、鍵探ししてたオッサンにも話はした。

 

(おっかしいなぁ、何だろうこの漠然とした不安にも似た感覚は)

 

 何か見落としがあると訴えかけてくるような感覚だというのに、心当たりが無く。

 

(思い出せ、こういう時に忘れてる事ってだいたい惨事の引き金になる)

 

 額に掌を押しつけるようにして自分に語りかけてみること数秒。

 

「いかん、やはり思い出せん。……が、こんな所で立ち止まっているのも問題か」

 

 宿の廊下を塞いでしまうのは問題だし、部屋にカナメさんだって待たせて居るのだ。

 

(気になるけど、思い出すのは後にしよう)

 

 世界各地のクシナタ隊に指示を伝えて貰うのも早いのに越したことはない。

 

(相談して、結論を出し伝言を頼めば、カナメさんが指示を伝えて戻ってくるまで時間が出来るはず)

 

 同行者は今バハラタに居る面々で見繕い、能力などの理由でシャルロット側に同行して欲しい者や同行させられる実力がない者を中心に伝令に動いて貰えればカナメさんは町の中のメンバーに伝言を伝えるだけで良い。

 

「ふむ、だいたいそんなところだろうな」

 

 とりあえずの方針は定まった。方針を決めるための方針というしょーもないものではあるが、これでとりあえずは動き出せる。俺は立ち止まった分のロスを取り戻すべく、早足で部屋に戻り。

 

「今戻った」

 

「あ、お帰りなさいぴょん」

 

 ドアを開けると、カナメさんが出迎えてくれ。

 

「スー様、トロワさんから色々聞いたぴょんよ?」

 

「え゛? あ゛」

 

 続いた言葉に、俺は忘れていたことを思い出した。と言うか、気づかされた。

 

(しまったぁぁぁぁ)

 

 カナメさんの待つ部屋に残していったのは、人目も憚らず胸を押しつけたりしてくるレベルの変態娘である。

 

(カナメさんにあること無いこと吹き込まれる可能性をどうして考えなかった、俺ぇ!)

 

 そも、記憶を掘り起こせばカナメさんとあのマザコン変態はこれが初対面。

 

(暫く一緒にいれば「ああ、またあの変態が何か言ってる」で済んだかもしれないのに)

 

 初めてあったばかりでは大きく話が変わってくる。

 

(しかも、とろわ には たぶん しばられた あと が のこって いたり しますよね、きっと)

 

 貞操を守るための措置が変態行為やってましたぜって状況証拠になりかねない。

 

(ぎゃあああっ、カナメさんからの信頼とか信用とか社会的地位とかがぁぁぁぁっ)

 

 聞けない、色々って何を聞いたと言いたいところだけれど、怖くて聞けない。

 

(けど、けどさ……こっちが話を振るのを避けたらそれはそれで「え? トロワの言ったこと? もちろん本当ですよ? 昨晩もお子様には見せられない、人前で言うのも憚るような想像を絶する変態行為三昧をお楽しみしました」とか言ってるようなものだよね)

 

 あの変態娘が望んでいるのは、子供。そして、曲がりなりにもバラモスの軍師を任されていたことのある変態だ。既成事実の作成なんて企んでも俺は驚かない。

 

(いや、待てよ? そのレベルで済むのか? お腹を幸せそうにさすって子供の名前をどうしようか考えてます的な事を言っていたって不思議は――)

 

 まずい、恐ろしく拙い事態だ。

 

(か、考えろ、俺。どうする、どうすれば誤解が解ける?)

 

 普通に考えれば、一番シンプルなのはトロワと俺の行動を見て、トロワの異常性に気づいて貰い、あの変態の言葉に疑問を抱いて貰うことだ、ただ。

 

(まいばん しばって ねてる こと まで しられそう ですよ。 その ばあい)

 

 だめだ、やはり ぼつ に するしかない。

 

(何か対策は……ああ、こんな時に限って浮かばない)

 

 と言うか、追いつめられた時っていつもだいたいこうだった気もする。

 

「スー様も大変ぴょんね。気持ちはよくわかるぴょん」

 

 そんな感じで焦っている時だった、意外な言葉がカナメさんの口から飛び出してきたのは。

 

「えっ? あ」

 

 そして、遅れて気づく。カナメさんが俺に同情の言葉と視線を投げた理由が。

 

「エピニア、か」

 

「そう、形は若干違うけれどこちらが引くレベルで慕ってくると言うところは同じぴょんよ」

 

 お姉様と慕うカナメさんに自分のパンツを送りつけたエビルマージの名をあげると、カナメさんは何とも言えない表情で俺の言葉を肯定してみせる。

 

(あー、そっか。取り越し苦労か)

 

 変態的な慕われ方をしていたカナメさんはきっとトロワの話を聞いて理解したのだろう。こいつはエピちゃんのお仲間だと。

 

「それで、寝る時縛るってのは一見良いアイデアに思えるけれど、そのうち喜ぶようになるから諸刃の剣ぴょんよ? 人前でロープを持ってきて『はぁはぁはぁ……いつもみたいに縛って下さいお姉様』とかやられたらそこで終わりぴょんし」

 

「成る程……って、やったことあるのか」

 

「縛るのは遊び人の得意分野ぴょん。腕が鈍るのを防ぐためにも定期的に何かを縛るように教官には指示されていたから、丁度良い練習台だと思った時期もあったけれど、間違いに気づいた時には遅かったぴょんよ」

 

 くろうしてるんですね、かなめさん。

 

「それはそれとして、聞いたぴょんよ、バラモスを倒したと。と言うことはいよいよ始めるぴょんね?」

 

「っ、ああ。シャルロット達が大魔王ゾーマを倒す支援をしつつ、こちらは神竜に挑み願いを叶えて貰う。以前打ち明けたとおり……と、言いたいところだが、シャルロットが俺を捜している可能性があってな。にもかかわらず、昨日の騒ぎだ」

 

 早々にこの町から退散しなくてはいけないことと、今後の方針で迷っていることを事情等を諸々含めて俺はカナメさんに話し、尋ねる。

 

「どちらに向かうのが良いだろうか」

 

 と。

 

「そうぴょんね……勇者様一行から離れるなら、その男性の帰郷に同行させて貰うのが良いと思うぴょん。一応、最初にあった時一緒に勇者様が居たことがちょっとだけ不安要素ぴょんけど、話の中に目的地は出てこなかったようだし」

 

「ああ、そうか。あれを思い出して探しに来る可能性もあるか」

 

 失念していた事実を指摘され、流石はカナメさんと唸りつつも俺達は話を続け、やがて方針を定めた。

 




経験者、変態ストカーについて語る。

カナメさんにエピちゃんが居なければ、変態の烙印を押されていたのはきっと主人公だったはず。

いやー、危なかった。ありがとうエピちゃん。

次回、第四話「バハラタ出立」

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