強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第三十七話「なぁにこれぇ」

「い、いや……無事で何より、と言うか……無事、でいいのだな?」

 

 トロワの態度に引っ張られたことは認める。ポーカーフェイスはかろうじて仕事をしてくれたが、口から絞り出した言葉に俺の困惑と混乱はだだ漏れであり。

 

「はっ、はい……マイ・ロードが助けて下さいましたし」

 

「っ」

 

 モジモジしつつ返してきた答えに俺は絶句する。

 

(たすけてくださいましたし?)

 

 ひょっとして それ は あれ ですか。

 

(あの変態ホロゴースト、コイツの身体を完全に掌握したって言ったのに……あのとき とろわ にも いしき が あったと?)

 

 自称次期村長を引きずり出したあとは痙攣してたし、そのあとの魘されてたのも狸寝入りとは思えないことからするに、意識があったとすれば、変態ホロゴーストがトロワの身体を動かせるようになってから、引きずり出されるまでって事になる。

 

(おれ、なに したっけ? なに いったっけ? ええと……あ)

 

 じっとりと出てきた変な汗で身体を濡らしつつ、同時に思い返して少しだけ安堵する。

 

(良かったぁ……あの時勢いで変なこと口走らなくて)

 

 意識がある可能性を考慮したあの時の自分を少しだけ褒めたい。

 

(それでも、しりあすもーど で とろわ の からだ で すきかってやったこと には ぶちぎれたような き も するけれどね)

 

 じぶん の ため に ほんき で おこって くれたから、こうかんど じょうしょうですね、わかります。

 

(って、それだけでこうなるとは思えない……とすると、あれですか? 聖水が本当にトロワのアレな所まで浄化しちゃったとか?)

 

 もしくはあの変態ゴーストを引きずり出した時に変態性分がゴーストの方に持って行かれた、か。

 

(両方という可能性もあるなぁ……じゃない!)

 

 まともになったなら、それは喜ばしいことだと思う。魔物で貞操を狙ってきそうだからって、何も好き好んで毎晩若い女の子を縛ってた訳じゃないのだ。

 

(常識をわきまえてくれるならこれからは毎晩ゆっくり眠れるって事だし)

 

 あの態度なら、逆セクハラをしてくることだってもう無いと思う。

 

(安心出来る要素だらけの筈……なんだけどなぁ)

 

 何故だろう、状況が悪化したような気がするのは。

 

「……マイ・ロード?」

 

「いや、何でもない。それより、流石にその格好は拙かろう。着替えの服はあるか?」

 

 黙って考えていたからだろうか、変た、もとい綺麗なトロワに呼ばれ我に返った俺は汚れたローブを見て当初の予定を思い出し、尋ね。

 

「えっ、あ……も、申し訳ありません。お見苦しいものを」

 

 トロワは顔を更に赤くして自分を抱きしめるように縮こまった。

 

(いや、だから まって)

 

 なに、このはんのう。ものすごく、ちょうしくるうんですけど。

 

「あっ、い、いや……あれはまぁ、仕方があるまい。悪いのはホロゴーストだ」

 

 ちくしょう、あの変態村内ナンバーワン、とんでもない結果(もの)を残して行きやがって。

 

「す、すみません。私にお手を煩わせたのに……急いで着替えますから」

 

「ま、待て。せめて俺が背を向いてからに」

 

「あ、も、申し訳――」

 

 助けて貰ったことを恩に感じて居るのだろう。

 

(そして、もと の ちゅうせいしん も そのまま、はじらい と りょうしき が ぷらすされた とろわ は あるいみ で さいきょう に おもえる)

 

 どうじ に やりづらさ も さいきょうだよ、やったね。

 

(って、「やったね」じゃねぇぇっ!)

 

 元バニーさんとキャラかぶりしてるんじゃねとかそういう問題でもない。明確な立ち位置とか接し方とかを確立させないと下手なラブコメもどきの展開がエンドレスしてしまう。

 

(それだけでも問題だけど、一番に気になるのは……あれ、だ)

 

 今まで孫の顔を見せ母親に喜んで貰うためという理由で、俺の子供が欲しいと逆セクハラに余念がなかった部分がどうなっているかである。

 

(変態じゃなくなったなら、あの話もナシになってて欲しいところだけれど)

 

 この世界には、奴が存在する。そう、世界の悪意という俺の敵が。

 

(うん、全力で俺があって欲しくないと思ってる結果が待ってる気がしてきた)

 

 このネガティブがただの気のせいならいいのに。

 

(いや、気のせいだ、気のせいであるべきだ)

 

 そもそもトロワ自身に聞いた訳でもないじゃないか。

 

(じゃあ今すぐ聞けって言われても聞けないけど)

 

 今の俺は急にまともになったトロワの相手でもういっぱいいっぱいだ。

 

「マイ・ロード……お待たせしました」

 

「っ、もういいの……か?」

 

 その一例を見せつけられた、とでも言うべきだろうか。着替えが終わったらしいトロワの声に振り返ると、立っていたのは、きっちり覆面まで付けた、由緒正しきアークマージ姿のトロワであり。

 

「トロワ?」

 

「も、申し訳ありません……まだ顔が真っ赤で」

 

「あ、あー。謝ることはない」

 

 今まで全力で痴女をやっていた反動と言う事なら仕方ない。

 

(ある意味、中二病だった自分を思い出した様なものだしなぁ)

 

 顔を隠すだけで耐えているのは、むしろ気丈と言えるだろう。だから、咎める気なんて欠片もない。

 

「言いたいことはあるかもしれん。が、それは後だ。他の者達も班に分かれ村を徘徊する魔物の駆除に当たっている今、俺も為すべき事を為さねばならんからな」

 

 ただしお前は体調が思わしくないならここで待っていても構わない、と俺は続け。

 

「いえ、お供させて下さい。どうかお側に」

 

「そうか」

 

 ある意味想定通りの答えに俺は言う、辛くなったらいつでも言えよと。

 

 




変態村内ナンバーワンでどこかの小学校教師が主人公のアニメの主題歌を思い出したのは秘密。

更にそこから腰簑つけたオヤジな踊り子さんを連想したのも。

何だか思い出すと曲って脳内でエンドレスにかかり続けますよね?

次回、第三十八話「現実逃避をしたいお年頃なんだよ、察してくれ」

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