「うーん、言いたいことは解るけど……」
苦い顔で先に口を開いたのは、ムール少年の方だった。
「どうするかってわざわざ聞くって事は……聖水をかけるなんて対処法じゃ無いんだよね?」
「そうだな、焼いて骨だけにする。つまり火葬だ」
焼けば骨だけになる、それだけで腐乱死体として動き出す可能性は消えるし、衛生面でのメリットも大きい。
「骨だけなら納める場所もとらないからな、地下墓地の中で崩落が起きて居た場合、再利用出来るスペースが減っている事も考えられるが、俺達にもやらねばならんことがある。埋まった部分を掘り起こして使えるようにする作業まではつきあえん」
シャルロット達に捕捉されないよう同行した訳だが、俺の目的はあくまで神竜に願いを叶えて貰うことであり、この村の復興ではない。
(そもそも復興をするなら大魔王ゾーマが倒されてからの方が良いし)
魔王が健在では魔物も活発化したままなのだ。正直、今するのは時期尚早だと思う。
「ふむ、骨だけなら場所をとらぬ、か……」
「……そう言えば」
オッサンの奥さんの亡骸は遺骨の状態だったか。
「臭いがするようでは宿にも泊まれぬからな。病に伏し、『故郷に眠りたい』と最初に口にした時、火葬にする許可は妻から取った」
「……すまん」
「気にされることはない。私一人ではここまで来られたかどうか。それに、村に溢れた魔物を倒す手伝いまでして貰っているのだ」
考え無しな発言だったかと頭を下げた俺にオッサンは頭を振って見せ、この村を荒らすのは先人達にとっても本意では無かろう、と俺の提案に賛成してくれ。
「後は、オイラか……わかってる。この状況じゃ、そうするしかないって事は……」
「……ムール」
「ううん、大丈夫。ここでオイラがだたこねて、地下墓地から魔物になった死体が出てくることを考えたら……やらなくちゃいけないのは解るから」
オッサンと違ってこの村の出身であるからこそムール少年には葛藤が有るのだろう。
「……すまんな」
「いいよ。と言うか、この状況を何とかしようとしてくれるってだけでオイラ達の方こそお礼を言わなきゃいけないくらいだろうし」
「礼など不要だ。同行を望んだのはこちらなのだからな」
それに、この状況下で村まで送り届けはしたからと立ち去れる厚顔無恥さは持ち合わせがないのだ。
「それでも言わせてよ、『ありがとうございます』ってさ」
「ふ、それで気が済むなら礼は受け取ろう、ただし、そこまでだ」
おれい に この からだ を、とか そういう ふじょしさん の よろこびそうな てんかい は だんこ きょひ する。
「そっ、そこまで? まさかあなた、マイロードにお礼と称して『えちー』なことをするつも」
「トロワ……」
なぜ、おわらせようとした はなし に くいつくかな、そこで。
「……ムール、とりあえずこの変態を今晩辺り色々悔い改めさせようと思うので、協力してくれ」
「あー、うん。なんだかオイラまで風評被害に遭いそうな感じだったし……いいよ」
変態娘の頭を鷲掴みにしたままのお願いにムール君は快く応えてくれて、今晩の予定が決定し。
「とりあえず、結論が出た所で魔物退治の続きといくか。まず、班を分ける。俺が倒した魔物の中に即死呪文を使うホロゴーストが混じっていたのでな」
「そんな魔物がいたぴょん?」
「まぁ、な……」
出来れば、反射呪文の使える魔法使い、相手の気配を察知し、先制攻撃を防ぎやすい盗賊は同じ班にならないよう割り振りたいところだ。
「解りました、スー様。そうなってくると私はスー様やそこのムールさんとは別の班と言うことですね?」
「理解が早くて助かる。俺はこの変態娘と一番厄介そうな場所を受け持とうと思うが……ムール、地下墓地はどっちだ?」
「えーと、あそこ」
察しの良いクシナタ隊魔法使いのお姉さんに頷きを返し、そのままムール君に問うと指さしたのは崖に半ば埋まり込む形になったプチ神殿の様なもの。どうやら、そこが地下墓地の入り口らしい。
「ちなみに上にあるのがオイラの……村長の家ね」
「なるほどな」
補足を聞いて視線を上にスクロールさせれば崖の上に他の民家と比べると二回りは立派な家が建っており。
「一応聞いておくが、家の地下が地下墓地と繋がっているなんてことはないな?」
「ないない。直線距離だと結構近いけどあそこに降りて行く道の入り口からはかなり離れてるし……個人的な希望も含むけど、オイラの家には居ないと思うよ、魔物」
俺の確認にムール少年は首を横に振って言う。
(けど、万屋がああだったもんなぁ)
村長の息子とやらが同じ様な救いようもないシロモノになり果てていたとしても不思議はなくて。
「ならば、お前の家は他を掃討後、皆で確認しに行くこととしよう」
「え゛っ」
疑惑から念のために提案するとムール君の顔がひきつった。
「居ないなら問題有るまい? 盗賊のお前が言うなら地下墓地と繋がっていると言うこともないだろうしな」
「け、けど、あそこにはオイラの部屋もあるし……」
「それは、自分の家ならあるだろうな。それに何か問題が?」
やたら焦り出すムール少年だが、俺には理由がわからない。
(ん、待てよ……そう言えばムール君も村長の一族だっけ)
ひょっとして、もの凄くエロいものが自室に隠してあるとかだろうか。
(鍵の隠し場所で他人のコレクションが見つかってるし、その時の反応を見て「あるぇ、オイラのコレクション見られたらドン引きされるんじゃね?」とかなったとしたら)
俺は無意識のうちにムール少年を追いつめてしまったのかもしれない。
(だが、考えようによってはこれはチャンスかも)
ムール君がむっつりスケベだとすれば、変態全開のトロワにはお似合いだと思うのだ。
(そして、二人がくっついてくれれば俺は自由だぁぁぁぁっ、ひゃっはぁぁぁぁっ)
いける、凄くいける気がする。
「まぁ、何だ。俺に良い考えがある。ここは任せて貰おう」
胸中は謎のハイテンションで、俺は自分の胸を力強く叩いたのだった。
たった、この上なくアレなフラグが立った。
次回、第三十二話「ムール君の秘密を知るためにも、この魔物達をさっさと倒さなきゃ」
ムール少年がお宅訪問されそうになって焦る理由とは?
まさか、ムールくんって――