強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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ちなみに、この村の位置ですが、原作だとギアガの大穴の東かつガイアの剣放り投げた火山の南にある高山のどこかになります。
割とどうでも良い設定ですが。





第二十八話「待ち受けるもの」

(こっちか)

 

 カンテラに照らし出された店内、積もる埃の上に付けられた足跡を見て声には出さず呟く。

 

(しかし、思ったより何というか……)

 

 棚に残る商品を見てしまうと、俺は複雑な心境にならざるを得ない。

 

(多分、戻ってくるつもりだったんだろうな。村の入り口が封印されていて盗まれる恐れがないってのもあったのかも知れないけれど……)

 

 日持ちしない商品はなくなっているが、傷まない商品がほぼ丸ごと残されている所に、この店の主人だった人物の意思を感じる。

 

(ただ、そうなってくるとこの先にある地下にも商品が眠ってる可能性がある訳で――)

 

 人の物だ、欲しいとは思わない。だが、腐乱死体達が入り込んで居るのに商品が無事とも思えず、顔は苦々しいモノへと自ずと変わった。

 

(無事であって欲しいと思うことと、実際無事かどうかは別問題、けど)

 

 出来れば無事であって欲しいとも思う。シャルロット達が大魔王を倒してくれれば、村の人々がこの地に戻ってきて生活することだって出来るはずなのだから。

 

(まぁ、その前にまずは地下墓地から出てきたらしいこの村のご先祖様方に眠って貰わないといけない訳で)

 

 鍵を探したり、同行者のオッサンの奥さんの亡骸をこの地に葬るには、その役目は俺達がやらざるを得ないものの、それについては、もう文句もない。

 

(誰だって……故郷がよい場所なら、帰りたいと思って当然だし)

 

 還れない身の上なのは俺も同じなのだから。

 

(感傷かもしれないけれど、多少は気持ちもわかるもんな)

 

 何せ、故郷にはあの世界には、即座に通報したくなるような変態は居ない、せくしーぎゃるなんていなかったのだ。

 

(そりゃ、責任がとれる身の上なら、ちょっとぐらいは……て気持ちもあるけどさ)

 

 人様の身体でどうのこうの出来る程の厚顔さを持ち合わせては居ない。

 

(トロワが本気ってとこだけは解ってる……ただ、解っててどうにか出来る問題なら、今頃とっくにどうにかしてるってのも事実だから……)

 

 俺に出来ることは、村をうろつく魔物を片付け、変態が少しでも直りますようにと聖水をぶっかけることぐらいなのだ。

 

(もちろん、直らなかったら……折檻開始だけどね?)

 

 あれは、もし駄目なら俺の胃の安寧の為にも自重するよう教育しておく必要がある。天才的アイテム作りの腕前を見せられたばかりの今なら尚更だ。

 

(とりあえず、あの変態娘に誘惑の剣だけは絶対に見せられないな)

 

 執念で刀身を見せられるとそれを持った相手に惚れる剣とかを作りかねないし。

 

(正気に戻ったら、剣を持った変態娘と結婚していて子供も居ました何て事になってたら嫌すぎる)

 

 パンツにバターは塗らない、塗らないんだ。

 

(って、何考えてるの、俺)

 

 もうあの悪夢は良いというのに。

 

(止めよう止めよう、今するべきは魔物退治だ)

 

 頭を振り、地下からの声を頼りに俺は進む。

 

(たぶん、ここだな)

 

 そうして、辿り着いたのは、木箱が積まれた石造りの倉庫らしき部屋。壁のようにそびえ立つ木箱は幾つかが破損し、中身が零れてしまっている。

 

(これもあのくさったしたい達の仕業かぁ)

 

 無事であって欲しいと思った後にこれである。世界の悪意は俺に恨みでも有るのだろう。

 

(声は木箱の向こうからってことは、奥に地下への入り口があると)

 

 木箱の裏側に魔物の気配はない。回り込んですぐに襲われると言うことも無いはずだ。

 

(……行こう)

 

 俺は忍び歩きで木箱の壁を回り込み。

 

(あった)

 

 すぐに下へ降りる石段を見つけると、そのまま石段を降り始め。

 

「フォオオオッ……これは……渡さん」

 

(っ)

 

 下から聞こえた声に、足をとめた。

 

(今の、空気の漏れるような音……)

 

 聞き覚えがあった。死体の漏らす声ではなく、同時にかなり嫌な相手のモノでもあり。

 

「マホカンタ」

 

 声が出てしまうことを承知で、呪文を唱える。

 

「オォォ……何、者?」

 

「っ、やはり気づかれたか」

 

 カンテラの明かりを頼りにしている上、呪文も唱えてしまっては忍び足も無駄と言うことだろう。

 

「くっ」

 

「お゛ぉぉ」

 

 ならば先手必勝と階段を駆け下りると、蝙蝠の翼を持つシルエットの前に立つ青白い肌をした死体達が咆吼を上げる。

 

「くさったしたいじゃない……だと?」

 

 髪も真っ白なそれは原作だと悪霊に操られた死体であり、くさったしたいと同じグラフィックを持つ魔物では最強とされた魔物。

 

「成る程、後ろに居るソレに操られて変質した、か」

 

 地下に留まっていたのは、落ちて出られなくなったなんて残念な理由ではなく、この地下室に納められた品に執着を見せる魔物に操られたから、とすれば説明もつく。

 

「説明はつく……が」

 

「フォオオ……このがーたーべるとはわたさんんッ」

 

 いまわしいアレを大事そうに腕に抱えた悪霊が待ち受けてたとか。

 

(おれ としては ぜんげんてっかい して、このみせ ごと とろわ きんせい の だいばくはつ する こんぼう で けしとばしたい のですが)

 

(いいよね? もう、やっちゃっていいよね?)

 

 おそらくだが、あの悪霊は店主とは別人、何代か前のこの店の人だと思う。少なくとも帰ってくる気でこの店を出た人とは別人だと思いたい。思いたい、けど。

 

「寄こせ、と言う気はさらさらない。だが……俺に喧嘩を売ったのなら覚悟して貰おう」

 

 がーたーべると好きの変態だとか思われたなら、この上ない侮辱である。宣戦布告も辞さないし、バイキルトかけての最終奥義ぶちかましても許されると思う。

 

「楽に死ねると思うなよと言いたいところだが、死んでる相手には陳腐すぎる」

 

 俺は、とりあえずまじゅうのつめを装備した。もはや、目の前の変態ゴーストを許す気など微塵もなかった。

 




魔物の群れが現れた!


 グール 3ひき

 へんたいホロゴースト 1ひき


次回、第二十九話「怒りと嘆きと悲しみのォ」

えっちなほんとどっちを抱えさせようか迷ったのは秘密。

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