強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第二十七話「勇者ってだいたい住居不法侵入してる気がする」

「これはひどい……」

 

 長らく放置された空き家がどうなっているかなど予測がつきそうなモノだが、足を踏み入れたそこは想像以上にボロボロだった。

 

「ふむ」

 

 床には穴、天井は一部剥がれ落ち、土壁も一部が崩れ、骨組みが丸見えになっており。

 

「お゛ぉぉ」

 

 土壁の下の方に開いた穴からは腐乱死体の下半身が生えている。

 

「……穴を抜けようとして、つっかえたらしいな」

 

 たぶん、俺が感じた気配の正体がこのくさったしたいなのだろう。

 

「さっさと始末するか」

 

 穴が開いた床は所々腐っているようで、一歩間違えば踏み抜きかねない。

 

(かといって攻撃呪文も一部除いてアウトだよなぁ。建物の方にダメージが行って倒壊しましたじゃギャグにもならないし)

 

 そんな訳で、どうしようもなかったのだ。

 

「さて……これで良いか」

 

 周囲を見回し、朽ちた椅子を見つけると片手で掴み。

 

「そぉいっ」

 

 腐乱死体の尻に投げつけた。

 

(……わかってる、人の家の家具を勝手に武器にするのがいけないことだって事ぐらいは――)

 

 だが、床を踏み抜きたくないし、腐臭のするアレのしかも尻に直接攻撃するなんて嫌だったのだ。

 

(けど、どう見てもあの椅子はもう手の施しようがなかったし)

 

 トロワから渡された棍棒型手榴弾もどきを投げる訳にもいかなかった。その結果が、たった今始まった「動く腐乱死体の尻に物めちゃぶつけゲーム」だ。

 

(や、ゲームじゃないけどね?)

 

 抵抗出来ない相手へ一方的な攻撃を行うという外道な行いは無理矢理ギャグにでもしないと耐えられなかったのだ。

 

(だいたい、相手がアレだしなぁ)

 

 標的が壁に詰まった腐乱死体というシチュエーションも俺の心の一部をふざけさせるのに一役買っていた。

 

「まった、くっ……出ていたのがっ、上半身ならっ、ヘッドショットでっ、終了だというのにっ」

 

 仕留め損なって放置されたこいつが壁の穴を抜け、忘れた頃に出てくるようなことがあっては困る。よって、完全に動かなくなるまで攻撃せねばならず。俺はただくさったしたいのしりにモノを投げ続けた。

 

(投げられる物は、手直しが不可能な程傷んだ家具や剥がれたり崩れ落ちた家の一部とさっき拾った石の残りだけど……そろそろ家具は品切れかぁ)

 

 投げるモノが尽きれば家屋に影響を与えない呪文ぐらいだが、呪文は精神力を消費する。

 

「いざというときの事を考えると温存した方が良いのだがな……」

 

 とりあえずピクリとも動かなくなった死体を見つめつつ、俺は念のため呪文を唱えた。

 

「ニフラムっ」

 

 だが、完全に死体に戻ったそれは光の中に消え去らず。

 

「既に倒れていたか……しかし、解りづらい」

 

 投げた品が朽ちた家具だったことも、倒せたかどうかで微妙に迷った一因だと思う。

 

(ぶつかった端から派手に壊れたもんなぁ)

 

 脆くて大したダメージになってないのか、俺の力が強くてぶっ壊れたのかで迷い、まだ動いた気がしたのでと次を投げ、それでも気になって呪文で確認までしてしまった。

 

「まぁ、いい。ここは終わった。……次に行こう」

 

 出来れば次はこんな事がなければいい、願いながら朽ちかけた民家を後にした俺は、次のお宅へと無断訪問を敢行し。

 

「お゛ぉぉお」

 

「……うわぁ」

 

 二回の床を踏み抜き、シャンデリアからぶら下がった腐乱死体を見て、思わず声が出た。

 

(うん、まぁこっちはちゃんと頭も狙えそうだけどさ)

 

 何とか自由になろうとくさったしたいが動くたびにシャンデリアが揺れ、建物自体も軋む。

 

「沈めっ」

 

「お゛ごっ」

 

 放置して家屋倒壊でも起こったら目も当てられない。投げた石に頭部を砕かれた腐乱死体は即座に動きを止め。

 

「……やっとか、やっとか」

 

 室内を歩き回っていた骨の多腕剣士との遭遇に密かな喜びを感じたのは、三軒目。

 

「ありがとう、そしてさらばだ」

 

 感謝を籠めた手刀で首を刎ねると残った身体を蹴り倒す。

 

「ふぅ……ボロボロだが、この剣も投擲ぐらいには使えるな」

 

 手にしていた剣はスタッフではないが遠慮なく回収させて貰って次の気配がする建物へ向かう。

 

「あっちか……他と比べると一回り大きいが……店、だったのか」

 

 気配を感じた家は先の数軒よりしっかりした作りで、よく見れば朽ちた看板が風に揺れている。

 

(看板からするとよろず屋っぽいけど、うーむ)

 

 感ずる気配は一つとは思えず、位置は半開きになった入り口の扉より、低い。

 

「地下室が地下墓地と繋がってしまったのか、それとも」

 

 今までのオチからすると、地上への階段が崩壊してしまった地下室に落ちた魔物達が登れなくなってたまっているというオチも充分考えられる。

 

「……いや、考える必要はないな。変態だが人を待たせている」

 

 今すべきは、周辺の腐乱死体と骨剣士を一掃することのみ。

 

「明かりは確か……」

 

 鞄を漁ってカンテラを取り出した俺は、それに火をつけ、開け放たれたままの戸をくぐり店内へ足を踏み入れた。

 

「地下室は……カウンターの奥、か」

 

 商品倉庫とかなのかもしれない。

 

「お゛ぉぉ」

 

 その地下から今まさに声が聞こえてきた方へと俺は歩き出す。これまでの流れなら相手はくさったしたい、だが油断する気など微塵もなかった。

 




動けないくさったしたいさんに、主人公さんは朽ちた椅子をプレゼントしてあげたっぽい。

そのほかのも投げるものをぽいぽいぽ~い。

次回、第二十八話「待ち受けるもの」

さぁ、最高に素敵なパーティーしましょ。

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