強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第二十四話「これはふういんされるべききんねんまれにみるひどさじゃありませんかね?」

「猿ぐつわさせておいて良かった」

 

 と、俺は心からそう思った。

 

「マイ・ロード、あの絵や像もの凄く興味があるのですが」

 

 なんて変態娘の主張を聞かなくて済んだからだ。

 

「むぅ、しかしムール一人に行かせる訳にもいくまい」

 

 同行するとオッサンが言った。真剣な表情だったし、鼻の下が伸びていたりしなかったので、真面目にムール少年を案じたのだろう。俺は当然許可した。

 

「……はぁ」

 

 そして、今エロ捨て場に背を向けて嘆息する今に至る。もちろん、ただ立ちつくしている訳ではなく後方の警戒をしているのだ。相変わらず魔物の気配もしなければ、溢れてきた水が見えた何て事もない。

 

「スー様……」

 

「言うな。せくしーぎゃる化させる本があるかもしれん場所を通る以上、お前達を行かすことなど出来んだろう」

 

 まかり間違ってクシナタ隊にせくしーぎゃるが広がったら、どうなるかは火を見るより明らかである。

 

(せくしーぎゃるっていないトロワだって持て余してるってのに)

 

 パンツにバターを塗る未来なんてノーサンキューだ。

 

「こうして、ムールの帰還を待つよりほか無い」

 

 ここが洞窟という場所でなければ、せめて可燃物だけでも後方の猥褻物を燃やしてしまうのもアリなんだけれど、空気の逃げ場が限られたこの状況で火をつけるのは自殺行為だ。

 

(呪文はかえってきたオッサンに見られる可能性があるし、まじゅうのつめで引き裂くのは、うっかり混じってた本を見ちゃいましたってオチが待ってそうだし)

 

 結局の所、逃げたとも言える。

 

(いや、ムール君に任せた段階で既に逃げてたと言えば逃げてたんだけどさ)

 

 だからこそだろう、感じる居心地の悪さと後ろめたさは。

 

「しかし……誰があんなモノを遺棄したんだろうな」

 

 酷い量だった。

 

(ちらっと見ただけだが内容も……うん)

 

 そっちはノーコメントでいいか。

 

「ムール達が戻ってきたら……意図的にここは崩落させて封印するか」

 

 処分出来ないにしても、あのままにはしたくない。

 

「スー様……」

 

「いや、すまんな……恥ずかしいところを見せてしまった」

 

 うん、思い返すと俺って何やってるんだろうな。猥褻物に振り回されて、逃げて。

 

(くっ、こんな破廉恥ゾーン作った奴さえ判明すればたっぷりお返しをしてやるのに)

 

 ムール少年やあのオッサンなら心当たりは有るだろうか。

 

「……スー様、元気出すぴょん?」

 

「そうですよ。私達は気にしてませんから」

 

「え」

 

 おそらく考え込んでいたのを凹んでいたと勘違いしたのだろう声に顔を上げると心配そうな目や生温かい眼差しが俺を見ていて、俺はすまんと再び頭を下げた。

 

「……そう、だな。ここで鍵が手に入ってもただ鍵が手に入っただけ。目的地まではまだ距離がある。こんな所で落ち込んでいる暇などない、か」

 

 とりあえず、今回は勘違いに乗せて貰うことにしよう。

 

「復活、ぴょんね。丁度良かったぴょん」

 

「ん? 丁度良い?」

 

 そして、カナメさんの言葉に首を傾げた直後だった。

 

「待たせたか、戻って参った」

 

 後ろからオッサンの声がしたのは。

 

「戻ったか、それで、鍵は?」

 

「それが……なんと言うべきか、錆びていてそのままでは使い物になりそうもないようでな」

 

 振り返り尋ねれば、オッサンは頭を振ってそう答え。

 

「そうか、では呪文で開けるしかないか……ん?」

 

 そこまで言ってからようやく俺は気づく。

 

「ムールはどうした?」

 

 そう、ムール少年の姿が無いことに。

 

「それが……着ていた服が破れてしまってな」

 

「あ」

 

 そして気まずげなオッサンの声でもう一つ気づいた。

 

(ムール君にマント渡すの忘れてた)

 

 動揺した上、予定とは違う流れになったとは言えポカをやらかしていた事実に。

 

(俺のあほぉぉぉぉっ)

 

 ボロボロで時間経過した服をよりにもよってオッサンに気づかれてしまった。

 

「ここに来た時、くさったしたいと遭遇して服を破かれ、染みを付けられてしまったと言っていたが」 

 

「……そうか」

 

 ただ、ムール君は何とかオッサンに不審がられず誤魔化すことには成功していたらしい。

 

(良かった……じゃないな、後でムール君に謝っておかないと)

 

 しかし、これで丁度いい口実が出来たとも思う。

 

「なら……この布を使ってくれ。流石にこの場で服は手に入らないだろうが、一時破れた部分を隠すぐらいには使えるだろう」

 

「かたじけない、ではお借りして行こう。流石にあの格好では人前に出せんと当人だけでなく私も思っていたところだ。だが、この布が有ればもう大丈夫だろう」

 

 オッサンは鞄から俺が取り出した布を受け取ると再び猥褻物放地帯を抜けて去っていった。

 

「……はぁ」

 

 失敗した。

 

(これだけ女の子居ればそりゃ、出てこられないよなぁ)

 

 変態娘はノーカウントにしたいところだが、見られる側からすれば気になっても不思議はない。

 

(俺はクシナタ隊のみんなに色々見られたけどね)

 

 うん、現実逃避ぐらい許して欲しいと思う。

 




やっぱりやらかした主人公。

次回、第二十五話「名誉挽回」

挽回って聞くと卍解を思い出す。

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