強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第二十三話「鍵を求めて」

「可能性の段階だが今は後ろから水に追いかけられて居るかも知れない状況でもある」

 

 どのみち後方は警戒しないといけない訳であり。

 

「今気づいたのだが、問題の鍵を俺がとる必要もあるまい?」

 

「あ」

 

 何でもっと早く気づかなかったのだろうかとも思うが、きっと変態娘の口に突っ込んだ布の一件で俺はまだ動揺していたのだろう。

 

「狭いと言っても、トロルが通れる幅の道なら並び順をかえることは可能だ。岩の近くまで来たら交代するぞ? 村長の一族だというなら鍵とてお前が持つ方が相応しかろう」

 

 更に言うなら、鍵の在処は行き止まり。俺が最後尾に移動していれば隊列の向きを変える必要がないと言うのもある。

 

(しかも俺は鍵入手時に起こるかも知れないアクシデントに巻き込まれずに済むともなれば、ここはムール君に任せる一択だ!)

 

 ボロボロのままの服だけは気になるが、そこは何か理由を付けてマントなり何なりを上に羽織って貰えばいい。

 

(切り出すタイミングは交代の時がベストかな)

 

 洞窟だからもう少し厚着をした方が良いとかそんな助言とセットにすれば不自然さも無いと思う。

 

「……ん、分かれ道か」

 

 考えつつ進んだ先で出くわしたのは、つい先程ムール君との会話で上がった分かれ道。

 

(左が鍵で、右は正解ルートだっけ)

 

 壁面を見てみるとかすれて消えかけた文字がある。

 

「これは?」

 

「あー、壁に文字がある? それはこの先行き止まりって注意書きがあったんだよ。ずっと前に方向音痴な村の人が迷ったことがあったらしくてさ。ただ、先にあるのは行き止まりだけで危険も無かったから――」

 

「なぞり書きされることもなく、今に至った訳か」

 

 ここを使うことのある村の人間なら構造を知っているのでわざわざ書く必要もなく、外部の人間は入ってくる以前にこの洞窟の存在を知らない。なら、消えかけたままでも問題ないと言うことだろう。

 

(「なら、オッサンみたいに村の人と結婚した場合はどうなる?」ってツッコミも可能だけど、やるのは無粋以前に時間の浪費かぁ)

 

 鍵を確保し、封印を解き、オッサンの奥さんの亡骸を村に葬れば終わりの旅であるなら、気になったこと一つ一つ全て聞いてまわるよりも必要なことだけ聞いてさっさと目的達成してしまうべきだ。

 

(部外者が居ると使用出来る呪文にも制限がかかるし、生き返らせたムール君の去就も決めなきゃいけないし)

 

 俺としては盗賊向けの奥義の継承者兼変態娘(トロワ)への盾としてついてきて欲しい所だが。その辺りの説明もきっちりとはしていなかったと思う。

 

(今のところ一番手間だったのは魔物の死体の処理とトロワの変態さだけだったもんなぁ)

 

 油断は禁物だろうが、遭遇した魔物の強さに関しては大したことがなかった。あっさり蹴散らせる相手のみであり、実際それなりの数を倒してきている。

 

「魔物の気配もない。交代するなら岩が見えるところまで来たところででいいな?」

 

「あ、うん」

 

「ふっ、では左だ」

 

 道は解っていて、落盤や崩落が起きていないかと言う一点が気になるものの問題はそれだけ。ムール少年に確認をとった俺は左折して道を進み。

 

「ムール」

 

 目の前に現れたモノを見て、思わず声を発していた。

 

「えっ、どうしたの? 岩はまだ先だよ?」

 

「それは解っている、解っているがな……」

 

 顔がひきつらずには居られなかったのだ。

 

「大量、ぴょんね?」

 

 カナメさんの声までかすれている気がした。

 

「なんだ、この猥褻物の山は」

 

 半開きになった宝箱から顔を出すのは、裸の女性を模った像。他にも一糸纏わぬお姉さんを描いた絵だったと思わしきモノがそこには散らばっていた。

 

(これはあれか、誰も来ないのを見越して誰かがここに捨てたか隠したってことか?)

 

 先に進まないといけないのは解る。解るけど。

 

(めのやりば に こまる と いうか、なんにんか の おんなのひと の まえ なんですけど)

 

 なに、この じょうきょう。

 

(ちくせう、きんのネックレスは囮かぁぁぁぁっ)

 

 なんて酷い二段構え。

 

「そんな訳で夥しい量の淫らがましい絵やら像があってもの凄く通り心地が悪いのだが……」

 

「うぇっ?! や、オイラ知らないよ? そもそもここ、知る人が限られた鍵の隠し場所だからね?」

 

「寧ろ、逆に知られていないからこれ幸いと誰かがこんなモノの隠し場所にした気がするぴょん」

 

 ムールの声は上擦っていた。妙に冷静な推測を口にしたカナメさんの目は据わっていた。

 

「ムール、すまんが俺はここまでのようだ……鍵の在処まで一緒に行ってやれなくて、すまない」

 

「ちょっ、ま、待ってよ?」

 

 すまんが、こんな場所を俺が通ると必然的に俺の側に侍ると宣言していた変態娘もここを通り、目にすることになるのだ、お子様は見ちゃ駄目だよ痴態(もうこっちのじでいいよね)を。

 

(これだけあると本物の性格矯正本が混ざっていたって不思議はない)

 

 防がねばならないのだ、最悪の誕生は。

 

(それにムール君なら、まかり間違って本を見たとしてもせくしーぎゃるにはならないわけだし)

 

 ここはムール少年に託すしかない。他の選択肢はなかった。

 




せかいのあくい「隙を生じぬ二段構え(キリッ)」

せくしーぎゃるトロワ「私の……目覚めの……時は」

こんな展開が待っていたと誰が予想しただろうか?

えっ、バレバレでした? ごめんなさい。

次回、第二十四話「これはふういんされるべききんねんまれにみるひどさじゃありませんかね?」

次回、ムールがエロの道を走る、かも。(意味として間違ってはいないと思う)


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