強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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IF・C→A8「であい(Chalotteルート・???視点)」

 

「どちらさまですか?」

 

 なんて言葉は俺の口からは飛び出さなかった。

 

「見なかったことにしよう」

 

「ちょ」

 

 抗議の声があがりかけた様な気もするが、敢えてスルーしてタンスを閉めた。

 

「まったく、どうやって忍び込んだんだか」

 

 そもそも、引き出しの中に入り込んだのかにツッコミを入れないと行けない気もするが。

 

「ごく普通に考えれば、協力者がこの部屋に潜んでるってのが、一番あり得るよな」

 

 そして、その心当たりも俺にはあった。タンスに隠れていたのは、耳の尖った見た目は幼児。つまり、トロワさんのとこのお子さんの一人なのだが、もう一人セットになって悪戯をやらかす人物に心当たりがあったからだ。

 

「リーロ」

 

『あっちゃぁ、やっぱりわかっちゃいましたか……』

 

 名を口にするとベッドの下から這い出てきたのは小振りな三つ首のドラゴン。マリクさんとやまたのおろちの娘の一人だ。テレパシーの様なモノで返事をしたのは、ドラゴンの姿だからか。

 

「ロックを連れて帰って貰えるか?」

 

『はーい』

 

 リーロちゃん出してと言う声のするタンスを小突きつつ言えば、三つ首竜はタンスに向けて歩み寄り、首の一つをタンスの取っ手に向けて伸ばし、口で取っ手をくわえて引く。

 

「はー、酷い目に遭った」

 

「自分で隠れておいて何を言う」

 

 残る首に抱きつく形で救助される見た目幼児にジト目を向けたってきっと非難される謂われはないだろう。

 

「まぁまぁ、僕達もただ悪戯のために忍び込んだ訳じゃ無いんだよ。タンスに潜んでたのはホンのついで。本命は別にあるのサ。リーロちゃん、あれを」

 

『はいはい、まったくドラゴン使い荒いなぁロック君ってば。あーえっと、なんと言いましょうか、あたし達姉妹からの餞別の品を持ってきたんですよ』

 

「餞別?」

 

『はい、こう、抜け落ちた鱗を集めて作ったお守りです。人間の感覚だと切った爪の欠片とか髪の毛で作った小物になるので、良いのかなぁ~とは思ったんですけどね。ただ、ヘイルおじさまが仰るには、人間の街では普通に市販されてるそうですし、おかしいモノではないと仰るので』

 

「あー、確かに。と言うか、説明されなきゃ普通に受け取れたんだけどなぁ」

 

 一言多いというか、何というか。

 

「けど、ヘイルおじさま、ね」

 

 何でもこの世界には、一人の人間を元に複製された人達が多数存在しているらしい。

 

「確か、慕っていた女の人達に行き渡る様に複製して分配したんだっけ?」

 

『らしいですね~。このお城のヘイルおじさまは、トロワおばさまの旦那さんだけみたいですけど』

 

 リーロちゃん曰く、他のヘイルさんに会ったことは無いらしいが、会ったことのある人達は全く見分けがつかないと口を揃えて言うのだとか。例外はそんなヘイルさん達を夫に持つ女の人達ぐらいだとも。

 

「ラダトームには何人も居る、のか」

 

 場所によっては同じ国や町に複数居ると聞いた時は、大丈夫なのかと思わず質問してしまった。

 

(流石に一箇所に固まりすぎるのは拙いっていくらかはばらけたらしいけど)

 

 ラダトーム、ガライ、マイラ、メルキド、リムルダール、ドムドーラ、そしてここ竜王の城。アレフガルドだけでも聞いたことのある地名全てにヘイルさんは居るらしく。

 

(もう一つの世界は更に洒落にならなかった)

 

 原作には登場しなかったような場所にも住んでいると言うが、それはまだいい。

 

(神竜に願いを叶えて貰って人間になった魔物と結婚したとか……どういうことなの?)

 

 トロワさんの事があるからエビルマージとか人型の魔物というか魔族なら驚かなかった。

 

(が、爆弾岩て)

 

 ひと に なった と きいて も、おれ には とても そうぞう できない。

 

(この世界のこと、色々勉強したはずなんだけどなぁ)

 

 拝啓、母さん。あなたが勇者として魔王を倒した世界は不思議が多すぎます。

 

『それはそれとして、お守り、こっちのテーブルに置いておきますね~? じゃあ、あたし達はそろそろ失礼させて頂きます、おばさまに気づかれないうちに』

 

「あ、ああ」

 

 俺としてもこのままずっと部屋にいて貰うのはよろしくない。頷き、二人が出て行くのを見送ると、とりあえずテーブルの脇にある椅子を引いて腰掛ける。

 

「りゅうのうろこ、か。ゲームでは守備力を上げてくれる装飾品だったっけ」

 

 Ⅲには出てこなかった気もするが、それはそれだ。

 

「せっかく貰ったんだし、スーツのポッケにでも入れておくかな」

 

 その前に今度こそ着替えてサイズ確認をしないといけないが。

 

「餞別貰って、宴まで開いて送り出してもらうんだもんな。世話になった人達に恥をかかせることだけはないようにしないと」

 

 決意も新たに俺は服を脱ぎ始め。

 

「そして、アルトを送り出す為の賑やかな宴が開かれ、誰もが大いに飲み、食べ、笑い、夜は更けゆき……やがて朝になった」

 

 と、ゲームならテロップが流れて一瞬で時が経過すると思う。

 

『ねー、あるっちー、大ニュース!』

 

「うたげ が すきっぷ される どころか、あれから あまり じかん も たたないうち に つぎ の おきゃくさま が きたってのが げんじつ なんですけどね」

 

 俺のズボンを軽く噛んで揺さぶるドラゴンはリーロちゃんのお姉さんで、やはりマリクさんの娘さんだ。

 

『あるっち、聞いてるー?』

 

「聞いている……それで、大ニュースとは?」

 

 個人的にはズボンが破れたり涎まみれにならないかも気になるところではあるが、流石につまらない話で俺の所におしかけても来ないだろう。話を向ければ、ふふんと得意そうに笑ってドラゴンは声に出さず念話で言う。

 

『えーっと、ミルザさんだっけ? そのお父さん、つまり、別のヘイルおじさまが今日の宴やって来るっぽいよ? たぶんあるっちに会いに来たんじゃない?』

 

「な、ちょ」

 

 当人に会ってさえ居ないのに義父様がやって来る、とんでもない爆弾発言に俺は固まり。

 

『わたしらからしてもトロワさんの旦那さん以外で初のヘイルさんじゃん? あ、ミズチ姉とかは違うんだったかな? まぁ、そう言う訳でちょっとワクワクしててさー』

 

 楽しげなドラゴンの声なんて殆ど把握してなかった。

 

「とうにん に おあいする まえ に とんでもない かべ が たちはだかっちゃったんですが」

 

 今日の送別会、一分の粗相も許されなくなった。もちろん、最初からやらかす気なんて欠片もなかったが。

 

(つーか、問題はロックとリーロちゃんとかだ。俺自身が何もしなくても周りがやらかしたら……)

 

 降りかかるアクシデントも想定して心に甲冑を着込んでいなくては拙いだろう。あの悪戯好き共、何もやらかさないなんて保証はない。

 

「……うう、胃が」

 

 時間は流れ、とどまりはしない。爆弾投げてきたリーロちゃんのお姉さんも帰り、世話になった幾人かの所へ足を運んで話をし、戻ってきた俺はスーツに着替え、片手でお腹を押さえつつ窓の外を見ていた。部屋の窓は北を向いていない、見たところでラダトームから来るであろうミルザさんのお父さんの姿など捉えられるはずもないのに。

 

「アルト様、お準備はよろしいでしょうか?」

 

「あ、はーい」

 

 やがて、宴の始まりを知らせにメイドさんがやって来て。

 

「……お前が、シャルロットの息子か」

 

 会場にたどり着いた俺は、出会うべくしてであった。ゲームに出てきた男盗賊に年をとらせたらこうなるだろうなと言う風貌の男はまさにトロワさんの旦那さんと瓜二つ。そう、これが義父さんとの最初の出会いだった。

 




ロックの名の由来は母親も元々数字由来だからと言う理由で「6」から。

リーロちゃんはマリクとおろちから一文字ずつ取ってつけたらしいです。最初は「ロリちゃん」になりそうだったところをトロワの旦那さんが止めて、今の形になったとか。

次回、IF・C→A9「宴で(Chalotteルート・???視点)」


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