「事情はそこのトロワから聞いて居る。世界を渡りこのアレフガルドに訪れたこともな。されど、異なる世界と行き来出来るということはこの世界の人間共には知らせられぬ。世界を渡ってきたと言うだけで騒ぎになることは目に見えて居るし、かってこの地には異界へ先兵を差し向けた者も居たのでな」
話を続けつつ竜王と名乗った人物がちらりとトロワさんを見たことで、全てではないだろうが俺は目の前の人物が言わんとすることを察した。
(そっか、こっちの人にとって異世界に渡るとか繋げるってのは、どうしてもゾーマを連想することになるもんな)
この地に常闇をもたらした大魔王、トロワさんのかつての主でもあったはずだが、アレフガルドの人にとっては世界を渡る存在がどういうイメージになるのかを想像するのは難くない。
「そなたの母シャルロットもアレフガルドの人間からすれば、異世界よりやって来た者だが、その辺りは差し引くにしても唐突に町中に人が現れては騒ぎになるし、今まで何の接触もなかった異世界の存在を知れば良からぬ事を企む人間も出てくるやもしれぬ」
その辺りのことを俺に認識させる理由もあって、トロワさんは人の住む町ではなくこの地へ俺を連れてきたのだと竜王は言う。
「直接ラダトームに行ってはこの世界の人々とすぐ接触すると言うことになります。それでは心の準備もままならないでしょう? この地ならば住む人間は限られます。しかも内何人かはあちらの事情を知る方」
「成る程……アレフガルドの人達と交流するにもワンクッション置く方が良いと判断してのことでもあったんですね」
ありがとうございますと俺はトロワさんに礼を述べる。本当にこの人には世話になってばっかりだ。
「礼には及びません、私はマイ・ロードの従者、あなたはマイ・ロードのお子であらせられるのですから」
だが、トロワさんは頭を振って微笑むだけであり。
「そなたの父母にはわしもわしの義両親も世話になった。こちらの生活に慣れるまで逗留して行くとよかろう」
後を継いだ竜王はそう言ってくるりとこちらに背を向ける。何というか、至れり尽くせりだが、そこはいい。わからないのは、別のこと。
「りょうしん?」
原作で俺も竜王の母であると推測出来る竜の女王の事は知っていた。だが、竜王は両親と言ったのだ。
「竜王様の育ての親のことですよ。子を残し逝くことを憂いた竜の女王様が以前打診されたのです、とある方と結婚し竜王様の育ての親になってはくれませんかと」
「え゛? 何それ? 俺聞いてないんだけど?」
「それは、そうでしょう。お父上がシャルロット様以外の方と結婚されている可能性があった等という話は聞いて楽しいものではないでしょうし……」
ひきつる おれ に とろわさん の いうこと は もっとも だった。
(けど、納得出来るかは別問題というか……)
そもそも父と一緒になるかも知れなかったという女性とは誰だったのか。
「ほう、来客かえ?」
「これは義母上――」
思考の海に没しかけていた俺が聞き覚えのない女性の声と竜王の声を拾ったのはたまたまだったと思う、ただ。
(竜王が義母って呼ぶことは……)
その相手はひょっとしたら父と結ばれたかも知れない相手だ。気づけば俺は声の方を振り返っており。
「トロワが共にいると言うことは……お前がシャルロットの子かえ?」
「へ?」
ふりかえった さき に いた のは はだか の おんなのひと でした。
「えーっと……」
何故裸なのかという問題もある。それと同時に何処かで見た記憶のある髪型をその女性はしており。
「義母上、お召し物を。客人の前ですぞ」
「おっと、これはすまぬ」
口調の変わった竜王に窘められた全裸の女性が謝るも悪びれた様子はなく。
「つい今し方まで本来の姿で夫とむつみ合うておったのじゃ、許せよ」
さら に なんか とんでもない ばくだんはつげん を してきやがったのだった。
(なに、これ?)
ここは許すと言えばいいのか、それともこんなぶっとんだ義理の母親を持ってることについて竜王に何か言った方が良いのか。
(いや、それよりも……)
あなたは誰かと問うべきか。
「ふむ、そう言えばまだ名乗って居らなんだかえ? わらわはお前の母がおろちちゃんと呼ぶ者。かつてジパングの地ではやまたのおろちと呼ばれ、恐れられておった」
「ああ、それで本来のすが……え゛?」
語られた単語がきっかけで俺は理解した。髪型を見た記憶がある理由を。
「ヒミ――」
「わぷっ」
あのジパングの偽女王にしてずんぐりむっくりした身体を持つ多頭のドラゴン、その痴女がどなたかを理解しジパングで呼ばれていたであろうもう一つの名を俺が最後まで言い終えるより早く、
「何をやってるんですか、客人の前で……すみません、妻が」
直後に痴女の布包み越しに聞こえた呆れを含む声は後半で俺への謝罪に変わり。
「あー、いえそんなこ……えっ、はい?」
頭を振りつつ視線を動かし、声の主を見つけて固まる。金ぴかのフード付きローブから目だけを覗かせた見た目の魔物を俺はゲームで知っていたのだから。
「大魔導……」
時系列で見るなら母が出てきたⅢより後の作品で登場した魔物だが、手にした杖と言い、俺の認識ではどう見てもそれであり。
「ああ、トロワさんの旦那さんも言ってましたっけ。一応、言っておきますが、僕は人間ですよ」
「へ?」
ほら、とフードを取った痴女の旦那さんは褐色の肌はしていたもののごく普通な人間の顔で俺に苦笑する。
「マリク様は元々イシスの王族で」
「イシスの王族ぅ?!」
「妻に一目惚れしてしまって、あなたのお父さんのお陰で一緒になることが出来たんですよ」
わかっていた事かも知れないが、何というか。
「おれ の しってる どらくえすりー と ちがう」
イシスにいたのは女王の筈だし、原作ではやまたのおろちもきっちり倒されていたはずだ。
(原作改変しすぎだろ父さん?!)
いや、竜王に養父母が居たのだから今更かも知れないが。
(ああ、止めどなく砂糖吐きそうだからって母さんの話聞き流すんじゃなかった)
きっちり聞いていたら、こんな衝撃の連続にならずに済んだかも知れないというのに。
「……どうしたんでしょうか?」
「よくわかりませんが、ショックを受ける様なことがあったのかと」
思わず崩れ落ちた俺の耳がヒソヒソ声でかわされるトロワさん達の会話を拾う。
(やめて、冷静に考察しないで!)
ただでさえ逃げ出したい気持ちで一杯だというのに、かけられる追い打ち。
(と言うか、せめてそう言うのは俺に聞こえない声量でやってくれませんかねぇ)
足下に敷かれた豪華な絨毯を見つめたまま、声には出さずぼやいた俺は、流石にこのまま俯いている訳にも行かず、トロワさん達の方を盗み見る。
「落ち着いたら言って下さいね、部屋に案内しますから」
こちらの心境を知ってか知らずか、かけられた言葉に俺は弱々しくはいと返すことしかできなかった。
うん、やっぱりミルザさん出す所まで行けなかった。
と言う訳で、久々におろちを出してみた。
けど、おろちもマリクとくっついてなかったらコピー主人公配布して貰えてた可能性があるんですよね。
次回、IF・C→A7「そして色々ありまして(Chalotteルート・???視点)」