強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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EX7・番外編T6「神竜との(トロワ視点)」

 

「「メラゾーマ!」」

 

 最上階に至ると、既に戦闘は始まっていた。同じ攻撃呪文を全員が唱えている様子を見ると、弟達はマイ・ロードや私達が最初に神竜から勝利した時と同じ戦法をとっているのだろう。

 

「油断するな! 神竜がこれしきで倒されるとは思えない。反撃に備えろ」

 

 炸裂する火球の中に神竜が消えても弟は慢心せず仲間達に警告しつつ自身も身構えた。

 

(順調そうですね)

 

 装備も以前私達が挑んだ時とほぼ同じな上、弟に至ってははぐれメタル風呂で修行させた事もあり、純粋な戦闘力なら私を凌ぐだろう。複製とは言え魔物に配布されたマイ・ロードからの協力もあり、普通の人間が一動作する間に二つの動作をこなす技術も、変身呪文を使うことで伝授されているのだから。

 

「フシュアアアッ!」

 

「そう来ると思っていた……メラゾーマっ!」

 

 火球の生じた爆発を貫いて顔を出した神竜に弟は火球のお代わりをくらわせ。

 

「ギシャァァァ」

 

「ふっ」

 

 怯んだ隙に神竜のアギトから逃れてみせる。

 

「良い奇襲ではあったが、俺には通じん。ロゼ!」

 

 弟がその名を口にした直後。

 

「メラゾーマっ!」

 

「シギャアアアッ」

 

 別方向から飛んできて弾けた火球にあがる神竜の咆吼。

 

「これでここまでに36発、終わりだ」

 

 カウントに続く宣言は、おそらく私達の戦いを聞き取りして算出していたのだろう、神竜がメラゾーマを何発命中させれば倒せるかを。

 

「回復も補助もいらぬ、総員、攻撃呪文を集中させよ」

 

「「はい」」

 

 弟の指示に仲間達が応じた。あの弟がここで凡ミスをするとも思えない。戦いは終わりだろう。

 

「みごとだっ! この私をこれほど短時間で打ち負かしてしまうとは……」

 

 事実、晴れた爆煙の中から現れた神竜は弟達に賛辞を送り。

 

「ふむ……しかし、この戦法、あやつを思い出すな」

 

 唸りつつ漏らしたのは、マイ・ロードや私達のことだろう。

 

「それは、私の主のことですか?」

 

 噂をすれば影という訳ではないが、丁度良い機会ではあった。私は弟と神竜の会話へ口を挟むことにし。

 

「む、そなたは――」

 

「既に面識がおありでしたね。私の願いというのは、この姉の願いを叶えて欲しいというものなのです」

 

 目を見張る神竜に弟が私を紹介する。

 

「ふむ、まあ、願い事を増やす類ではないし、いいだろう。そなたは何を望む?」

 

「はい。以前、自分の世界に戻った我が主のことをご存じでしょう? 私は主の元に参じる為、世界を越える道具を作っておりました」

 

 ここで、マイ・ロードの元に向かいたいなどと口に出せば、勘違いでそちらへ送られてしまう事も考えられる。説明は、慎重を期した。

 

「成る程、移動手段は用意するので移動先の情報とあちらで暮らす為の基盤が欲しい、か。いいだろう。住居、戸籍とパスポートはこちらで何とかしてやろう。当面の生活費も最寄りの銀行に振り込んでおく」

 

「いいのですか?」

 

 挙げられたものの幾つかは聞き覚えの無いモノだったが、複数のものについて手を打ってくれるという意味合いなのは判る。

 

「何『異世界に渡るので当面のサポートをしろ』と言う願い事だとすれば纏めて一つの願い事になるだろう」

 

 笑って言ってのけた神竜は私に問うた。出発は何時にするのかと。

 

「出来るだけ早く立つつもりで居ますが、装置の調整が終わり次第でしょうか。装置は持参していますし」

 

 あまり遅くしては決心が鈍るし、出来ることならマイ・ロードの元には一刻も早くはせ参じたい。

 

「ここに伝言を託されたい方がいらっしゃれば、受け取って……調整自体は半日もかからぬ筈ですが」

 

 ちなみに、弟のパーティーに属していない者からのからの伝言は既に受け取っている。

 

「問題はこの地での調整を許して頂けるか、ですね」

 

 ここをうろつく魔物にとって私達は侵入者だ。一応気配を消すブローチはあるものの敵地で作業をするとなると通常に比べて時間がかかるのは否めないし、そもここでの作業を目の前の神竜が良しとしないことだって考えられた。

 

「ふむ……良いだろう。ここで調整をしたいというならここの番をする魔物達にはお前を襲わぬよう命じておく。私としても暇ではあるのだ。見学も些少の暇つぶしぐらいにはなるだろうしな」

 

「ありがとうございます。……カトル」

 

 そうなるよう話を誘導はしたが、ここまでうまく行くとは思わなかった。許可を得た私は神竜に礼を言うと弟の方を振り返る。

 

「ママンのことは任せましたよ?」

 

「はい……」

 

 ママン、その存在だけが私の後ろ髪を引いていたが、私は弟を信じた、ただ。

 

「話は纏まったようだな。さて、あやつの世界に行くのであれば、覚えて貰わねばならぬモノがある」

 

 そう言うなり何処かから神竜が取り出したのは大量の本。

 

「本? まさか……」

 

「案ずるな、性格を変える類の本ではない」

 

 この神竜とその部下が引き起こした事件を思い出し顔をしかめた私に前足をヒラヒラ振った神竜は続けた。

 

「あちらの世界は法や制約が多くてな。そなたには旅立つ前にこれら全てを学んで貰う必要がある」

 

「これら全て……ですか」

 

 視界を埋めるのは大量の本、本、本。申し訳ありません、マイ・ロード。はせ参じるのはもう暫し後にせざるを得ないようです。

 




至れり尽くせりだったが、めんどくさいことになった模様。

次回、ようやくトロワルート完結、だったらいいなぁ。

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