「そうですか……ルビスが」
ポツリと呟いた私の言葉をそうと短く肯定したのは、勇者シャルロット。ラダトームの城下町、それも人間の住居としてはかなり上等な部類のモノをゾーマ様討伐の褒賞の一つとして国から贈られたそうで、私はその家の応接間でスーザン様の仰っていた「私がこちらに来たと聞いて居てもたってもいられなくなった者」達及びその配偶者とテーブルを囲んでいた。
「神竜……様、からお話があった時、お師匠様の所に行くことは出来ないかって言うのも実は聞いたんですけど、ゾーマの言い残した、再び闇から現れる何者かの備えの為にボクの血筋をこの地に残して欲しいって反対されて……だけど、神竜に願ってまで元の世界に帰りたかったお師匠様をこちらに呼ぶことなんて、可能だったとしてもボクには出来なかったから……」
挨拶もそこそこにいきなり質問攻めにされたが、ある程度のことを話すと、今度はこちらの番とばかりに集まった人間達は自分達側の経緯を話し始め、今に至る。
「神竜様はそれを見かねてああ言う提案をしてくださったんじゃないかとも、思うんです。最初は困惑もしましたし、これで良いのかなって考えることもありました。ただ、ミリーや、他の人がお師匠様の顔をした人と幸せそうに寄り添ってるところとか見ると、ボクがお師匠様の所に行けたとして、他の人はどうなってたのかって有りもしない仮定を想像しちゃって、その場合、他の人はここでそのままじゃないですか? お母さんやおじいちゃんはアリアハンだからお父さんも独りぼっち、ミリーやサラ、アランさんともお別れだし――」
自分だけが良い思いをしたらきっと後ろめたい。神竜はそんなところまで読んでいたのではないかと勇者シャルロットは語り、そっと自分の腹部に手をやった。
「今、ボクは幸せです。ただ、お父さんが生きていたこと、遠くない未来にお母さんになることをアリアハンのお母さんにも伝えておきたくて……他にもお母さん達を呼び寄せてこっちで一緒に暮らして行けたらとか」
「……シャルロット」
尚も続けようとした勇者の言葉に被さったのは、マイ・ロードに似た、いや、マイ・ロードと寸分変わらぬ顔をした別の方。勇者シャルロットの夫だ。かわりに口を開いたその人は、転送は可能なのだなと私に確認をとった。
「おふくろさんに頭を下げて詫びたりせねばならんのもあるが、あの人に会わなければならんのは俺も同じだ。だが、シャルロットには面白くないことにルビスの課した縛りがあってあちらには行けん。よって、あちらに行くことがあるとすれば、このミリーと俺その2の夫婦及びアランとサラと言うことになる」
「よ、よろしくおねがいします」
紹介されておどおどしつつ頭を下げたのは、一人の女賢者。
「まぁ、それも妊婦が使うのは危険と言うことになれば俺とアランだけで行く事となっただろうがな。欠片でも流産の可能性があるなら妊婦には危険なシロモノなど使わせられん」
「え、えーと……愛されてるね、ミリー」
「しゃ、シャル……」
生温かい目で見る女勇者と恥ずかしそうに顔を伏せた女賢者。確か、友人同士でもあったはずなので、仲が良さそうなのは良いことと言いたいところだが、唯一独身という立ち位置なのでそのやりとりは私にはダメージにしかならない。
(私は間違っていたのでしょうか? あの時首を縦に振っていれ……いいえ!)
そんなはずがない、そんなはずがなかった。確かにあの時マイ・ロードの複製を受け取ることにしていれば、勇者達の様に今頃は自身に宿った新たな命の息吹に幸せを感じていたかも知れないし、こう、ママンに孫が出来ましたと報告出来るという素晴らしいイベントが待っていたかも知れない。
(なにそれ、したい! ……って、落ち着きなさい、私。マイ・ロードの所に向かうと決めた以上、可能性はまだ残されているはずです)
聞けば、私の知っているマイ・ロードのお身体は他者のものらしいですけれど、本来のマイ・ロードが女性だったとか、子供も残せない程私達とかけ離れた種族でない限り、微かであろうと可能性は残るはず。例え、そのお姿が記憶にあるあの姿とかけ離れていたっていい。
(ムールというハーフエルフの故郷で取り憑いた悪霊から私を救ってくださったのは、身体がそうさせたのではなく、あのお方の魂がそうさせたのですから)
見てくれなんて気にするつもりはないのだ。そもそも、こちらに居らした頃のマイ・ロードと私も違う種族だったのだ。
(例え、トロルから筋力を無くしてかわりに贅肉をこれでもかと詰め込んだような容姿だったりしたとしても……き、きっと……あ)
そこまで考えて、ふと気づく。これはマイ・ロードへの冒涜ではないかと。そも、どのようなお姿かわからないと言う部分は正しいが、醜いと決まった訳でもない。最悪を考えて動くことこそ軍事としては正しいが、こんな所で最悪を想定してどうなる。
「トロワさん?」
「あ、な、何でもありません」
声をかけられて我に返った私はかぶりを振り。
「では、あちらの世界のことが知りたいし招きたい人もいるから装置の元まで案内せよ、と言うことでよろしいのですね?」
「「ああ」」
「うん」
「よ、よろしくお願いします」
確認の声に幾つかの肯定が重なった。
と、言う訳であの配布エンドにはルビス様も一枚噛んでいた模様。
勇者一行のメンバーは世界を救ったほうびに地位や家を貰い、平和を満喫してるよう。
装置の開発に時間が経過してますので、いくつかのカップルのところはだいたい子供が出来てるっぽい。
例外はルーラで迎えに来てくれたクシナタ夫妻。一組ぐらい夫婦で動ける者が居ないと何かあった時に問題でありまする、と。シャルロットが出産を済ませ、交替出来るようになるまでは見合わせた方がよいだろうとも言って夫を説き伏せた。
と言うか、この夫婦、夫は妻に逆らえない風味。
名前が出てきただけのムール君は、自分みたいな特殊なケースの者を貰ってくれる人なんて居ないだろうからねとあっさり複製主人公を受領。
その後、腐れ僧侶少女が「これは凄いですぅ」とホイホイされ、還俗し、ムール君に推定不純な動機でプロポーズ。あの趣向はホイミスライム風呂でも修正出来なかったっぽい?
結果として夫と妻の両方が居るってことに。
エルフの里に買い出しに行った時、エルフ娘のハートをゲットしてくるなんて構想は無かったんだ。
次回は弟が神竜に挑むか、省略してトロワ遂に主人公の世界へ、となる予定。
現ロマリア女王とかエリザとか樽の娘とかサイドストーリー補完取りこぼしあるかも知れないけど、割と顔がでてたヒロインは説明出来たと思いたい。