強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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EX4・番外編T3「アレフガルドを行く(トロワ視点)」

「アレフガルドも久しぶりですね」

 

 ポツリと漏らした私は、かってゾーマ様の城があった島を北へと歩いていた。そう、ラダトームに向かう為だ。

 

「ママンも元気そうでしたし……ただ、よもや父に嫉妬する日が来るなんて」

 

 訓練の為はぐれメタル風呂に押し込んだカトルと別れはや数日。カトルの作った転送装置でアレフガルドに渡った私が出現したのはカトルの実験室だった。そして、物音に気付き現れたママンと父。

 

(久しぶりにママンに甘えられると思ったのに――)

 

 生き返った父にママンはべったりだった。無理はないかも知れない。私とて、表には出さなかったがママンと離れて暮らすのは辛かったのだ。自分で言うのも何だが、聞き分けの良い娘である私は、ママンと父の逢瀬の邪魔はしないというポーズで、かつてのゾーマ様の居城を後にしたのだ。

 

「あらあらあら。今のあなたの話を知りたい人がラダトームにはいっぱい居るんじゃないかしら?」

 

 とかママンが仰られたからとかそれが決め手だったなんて事は別にない。

 

「確か、向こう岸までは水棲の魔物が船を牽引してくれる……のでしたね」

 

 かつてのゾーマ城も勇者に与したやまたのおろちとその夫である人間が主となり、随分雰囲気が変わったように思われる。今、城に住むのは先の戦いの生き残りの中でも穏健派の者が殆ど。私のように早々にゾーマ様の元を離れた魔物以外はゾーマ様が倒された日に選択を迫られた。降伏し、人間達と共存して往く道か、この地を離れ人間が足を踏み入れない辺境で暮らして行くか。

 

「あるいは――」

 

 徹底抗戦。むろん、マイ・ロードの薫陶も熱い勇者が率いる戦力に挑むはただの自殺行為でしかなかった。あのバラモス一族さえほぼ一方的に殲滅した連続広範囲雷撃呪文を前に生き残れるのは、反射呪文の使い手である甲羅を持つ竜の上位種、ガメゴンロードぐらいしか居ないのだ。そして、そう都合良く敗残のしかも徹底抗戦派の魔物にピンポイントで耐えうる魔物が混じっている筈もない。

 

「ある意味罰を受けたのかも知れませんが‥…」

 

 彼らはママンの説得を蹴ったのだ。人間との戦いで夫を失いつつも人と共に生きることを選んだママンは共存派の魔物達からはある種、尊敬の視線を集めていたし、勇者一行と面識があることも相まって多忙でもあった。

 

「そんなさなかにわざわざ時間を作り、説得に赴かれたのですよ……」

 

 全ては同胞の為。

 

「ああ、やはりママンは素晴らしいお方です」

 

 だからこそ、旅立つ前の報告は辛い、ただひたすらに辛いモノだったのだけれど。

 

「ママン……私、トロワは、マイ・ロードの元に……っ」

 

 一息で言うのは、無理があった。自分で決めたことだというのに、このままママンの側で暮らすべきなのではと言う囁きさえ聞こえた気がした、だが。

 

「身体に気をつけて、ヘイルさんに迷惑をかけてはだめよ?」

 

 ママンは私のことなどとうにお見通しだったに違いない。頭を撫でられながら、あのふくよかな胸で少しだけ泣いた。

 

「しかし、私もまだまだですね。よくよく考えれば、ラダトームに行ったことのある者にルーラの呪文で連れて行って貰えばこんな風に歩かなくても良かったものを」

 

 何かを誤魔化すように呟いてみるが、それは出来もしないこと。気持ちを落ち着けたくて、まだ赤い目を見られたくなくて一人を選んだのだから。

 

「とは言え、そろそろの筈ですね……」

 

 ずいぶん歩いたと言うのもあるが、魔物に牽かせると言っても船は大きい。遠目でもそろそろ見えておかしくないと思うのにいっこうに見えてこないのだ。

 

「もしや、何かトラブルでも?」

 

 徹底抗戦派が襲撃したとか、天候が荒れて船の到着が遅れているとか。

 

「いや、そのどちらでもない」

 

「な」

 

 そんな折りだった、突然声をかけられたのは。

 

「ま、マイ――」

 

 振り返ると、そこにあったのはかつて側に侍っていた主の顔。

 

「っ、違う……ここにいらっしゃると言うことは、もしや?」

 

「ああ、複製だ。誰もがみんなヘイルなんで複製同士でも紛らわしいって話になってるんだがな。俺は勇者クシナタの夫で、スーザンと名乗っている。複製仲間内からは『スーザンA』なんてからかわれるが、それはまぁ、こっちの話だな」

 

「そ、そうですか。……それで、スーザン様は、どうしてこちらに?」

 

 見た目も雰囲気も全く同じと言うだけなら、他の複製の方とお会いしたことがあるが、今回はいきなり出くわした訳で、動揺を抑えつつ問えば、スーザン様は、ちょっと待ってくれと言うが早いか、後ろを振り返った。

 

「クシナタ、こっちだ」

 

「はい、スー様。ああ、見つけられたのでありまするな?」

 

 呼び声に応じる声の持ち主は、わざわざ確認するまでもない。名前を口にしているし、その前から誰の夫であるかは説明して貰っている。

 

「紹介しよう、妻のクシナタだ。正直に言うなら、紹介の意味があるのかとも思うが、こういうところに妻はうるさくてな」

 

「スー様?」

 

「っ、いや、待て……用件は手短に分かり易くすべきだろう?」

 

 睨まれて慌てて弁解を始める辺り、中がよいと言うべきか、しっかり掌握されていらっしゃると思うべきか。

 

「と、とにかく……俺達の来た理由はシンプルだ。迎えに来た、ただそれだけのことだ。元の世界、アリアハンのあるあちら側の世界だが、ゾーマの死と共に分かたれた世界を行き来する装置が完成し、あちらからお前が来たと聞いて居てもたってもいられなくなった者が居てな。あちらのことが聞きたいというのもあるが、その装置はどんな事が可能なのか、妊婦が使用しても問題ないのかとか聞きたいこともかなりあるらしい」

 

「成る程」

 

 私はアレフガルドに懐かしさを感じたが、その急かした人物からすればあちらが故郷。私がやって来たと聞けばすぐにでも話が聞きたいと思っても当然だ。

 

「ならば、すぐにでも参りましょう」

 

「助かる。行くぞ、クシナタ?」

 

「はい」

 

 スーザン様の声に勇者クシナタが頷いた、直後。

 

「ルーラっ」

 

 完成した呪文によって私達は大空へ高く舞い上がったのだった。

 

 




とりあえず、アンとトロワの再会シーンをまともに書こうとしたら、旧トロワに戻りすぎてしまったので、今回は回想シーンで触れるだけにしました。

これなら、感動的な再会と別れの範疇で収まりますよね?

流れ的に次回でラダトームの近況を明かし、そのあとトロワが戻って神竜にカトルが挑戦、主人公が元の世界でトロワと出くわして「アイエエエエ、トロワ、トロワ、ナンデ?!」ってなって終了かなぁ、とか闇谷は考えてますが。

果たしてどうなることやら。


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