強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第二百三話「制裁と出立」

「そろそろ着地の体勢を整えておけ」

 

 眼下に広がる砂漠の中、近づいてくるオアシスを見据え、俺は周囲に警告しつつ自分も着地のための姿勢を作った。

 

(ようやくイシスか……)

 

 到着すれば、この背中にむにっと柔らかいモノを押しつけてくる明らかに確信犯の荷物も降ろすことが出来るだろう。

 

「お前もイシスに着いたら降り……って、何でちゃっかりと俺の背中にのってるんだ! あ……」

 

 相手にしたらからかわれるとスルーしていたのをツッコんだ直後に思い出したが、後の祭り。

 

「んー、もうすぐ到着だしお構いなく?」

 

「はぁ……」

 

 背中の方から聞こえてきたスミレさんの声に嘆息した俺は、膝を曲げ、身体を少しだけ屈める。

 

「っ」

 

 着地にはそれだけで充分だった。

 

「わぁ、何だあれはっ?!」

 

「ひぃっ」

 

「あー」

 

 むしろ、そんなことより遅れて降りてくる金の無職(グレゴリック)へ驚いたり腰を抜かすイシス住民の方々への説明をしなければならず。

 

「着いて早々で悪いが、誰か先に帰った筈のあいつを呼んできて貰えるか?」

 

 振り返り、元女戦士を呼んできて貰うよう頼んでから、へたり込んでいる町人の所へ歩き出す。

 

「……と言う訳で、罪人への制裁をすべく連れてきたという訳だ。まぁ、連れてきたと言っても、被害者がここに滞在しているから連れてきただけで城下町の中まで連れて行く気もない」

 

「へ、へぇ……そ、そういうことでしたか」

 

「ああ、驚かせてすまんな。ん。来たか……」

 

 近づいてくる気配を感じて視線をやったのは、目撃者への説明が終わり軽く謝罪していた時のこと。

 

「話は聞いたよ。あの本の落とし主が見つかったんだってね?」

 

「ああ、あいつだ」

 

 呼び出すだけでなく事情まで説明してくれた様子に呼びに行ってくれたお姉さんへ密かに感謝しつつ、元女戦士の言葉に頷いた俺は顎をしゃくって後方の金色無職(グレゴリック)を示して見せた。

 

「『てんのもんばん』と言う強力なモンスターだ。見てくれの通り、頑丈で撃たれ強い他にもあの本の犠牲者が存在するから殺してしまうのは拙いが、回復呪文で何とかなる所までだったら問題ない。好きにするがいい」

 

「あいよ」

 

 次の被害者がジパングにいるので気が済んだらそちらに運んで欲しいと付け加えれば、やりとりはほぼ終わりだ。あの罪人(グレゴリック)がどんな目に遭おうと知ったことではないし、知りたくもない。と言うか、さっさと立ち去りたりたかった。

 

「しっかし、あんたにゃあ本当に世話になっちまったね。借りばっかりが増えて参っちまうよ」

 

「気にするな」

 

「とは言ってもねぇ」

 

 そう、こんな具合に元女戦士が借り分を気にし出すのは目に見えていたから。

 

「そも、留守中のことを仲間に聞いておかねばならんしな。罪人のことは頼むぞ?」

 

 別に口実というだけでもなく、確認すべき事があったのは良かったと思う。

 

(ルーラでの行き帰りとダンジョンの攻略で少なくともあれから二日、ルーラを使っての連絡は移動時間を鑑みると一日遅れになるし、この段階でシャルロット達がゾーマを倒したという報告が来るとは思いがたいけど……報告の有無は確認しておかないとな)

 

 ゾーマを倒したなんて直接の情報でなくても何らかの報告が来ていれば、決戦の行われる日を推測する材料にはなる。

 

「……と思って宿屋まで来たが、まぁ、そうなるな」

 

 宿屋に居たクシナタ隊のお姉さんから話を聞いた俺は、モンスター格闘場へ続く道を歩きつつ苦笑する。

 

(攻略自体は進んでるみたいなんだけどなぁ)

 

 シャルロットがマイラに住んでいるジパング人から王者の剣を購入したと言うのが最新の情報であり、報告してくれたクシナタ隊のお姉さんはゾーマの城に一番近いリムルダールへ向かうと告げ、再びアレフガルドに旅立っていった。

 

(アレフガルドに行くって言うから「やみのころも」の事も伝えておいたけど、明日か明後日ぐらいになれば、「まじゅうのつめ」か「けんじゃのいし」のどちらかの現物は届くかな?)

 

 情報を待つ形だからこそ遠出は出来ない。俺に訪れたのは、トロワ達に付き合い、格闘場に通う日々。あの格闘場から連れてきた発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)は仲間扱いになってるからか、模擬戦で倒してもトロワ達への経験値とはならないようだったが、同族と一緒にいられるのが嬉しいのだろう。模擬戦とは言え戦いに駆り出されているというのに、毎日姿を見せていた。

 

「ピキーッ」

 

 そして、今日も元気に模擬戦に加わっており。

 

「……うーむ」

 

「どうされました、マイ・ロード?」

 

「いや、あのはぐれメタルだが……以前と比べて動きが良い様な気がして、な」

 

「ああ、きっと模擬戦を経て強くなったのでしょう」

 

 俺の視線に気づいたらしいトロワに白状すれば、返ってきたのは驚きの事実だった。

 

「強く?」

 

「ええ」

 

 考えれば、あの発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)はこちら側。その上で、模擬戦に加わっているなら、確かに強くなっても不思議はない。不思議はない、が。

 

(そう言うつもりでつれてきた訳じゃないんだけどなぁ)

 

 俺としては複雑だった。もちろん、幾ら強くなっても戦力として神竜戦に連れて行く気はサラサラ無い。

 

(もう戦力は揃ってるしな)

 

 幾日かが経過して、金ぴか無職に何をしたのか知らないが、つきものが落ちたかの様な清々しい顔で元女戦士はジパングから戻ってきたし、アイテムの回収に赴いた面々も全員が戻ってきた。

 

「スー様、ギアガの大穴が――」

 

 だから、予想はしていた。いつか、この日が訪れることは。

 




シャルロット、遂にゾーマを倒す。

次回、第二百四話「塔を上へ」

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