強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第二百一話「ゼニス王」

「さて、俺はこのまま国王に会いに行くつもりだ」

 

 それは、既に視界内に入っている玉座に座る人物へ話しかけ、間接的にこの場所の名を確認するだけの作業でもある。

 

(原作知識で王の名前は知ってるからなぁ)

 

 追確認でしかない訳だし、ぶっちゃけ一人でも事足りる。

 

「さっきの吟遊詩人との一件、誰かアイテムを回収に行ってくれないか? ちなみにルザミはアリアハンの東南東、サマンオサから見ると遙か南、地図だとこの辺りになる」

 

 周囲を見回し、世界地図を広げて指を置くと、挙がった手が一つ。

 

「スー様、私で良ければ行ってきます。アリアハンから行けば『やみのころも』でしたっけ、そっちの方も伝言は出来ると思いますから――」

 

「すまん、では頼むな。この地図でわかると思うが、ルザミに行くには船かラーミアの協力が必須だ。今からポルトガの船の船長に手紙を書く。船を使うなら少し待ってそれを持っていってくれ」

 

 立候補してくれたお姉さんに頭を下げると鞄から羊皮紙を取り出し、ペンを走らせる。

 

「これでいい。ちなみに、ここから引き返す道は確か壁際にいる兵士が知っていたはずだ。では、頼むな」

 

「はい」 

 

 手紙を託したクシナタ隊のお姉さんは頷いてパーティーを離れていった。テドンには別のお姉さんが向かってくれたので、構成メンバーが二人減ったことになる。

 

「けっど、おったまげただなぁ。なして、謎を出される前に答えがわかったんだべ?」

 

「だな。俺も気になった」

 

「んー、それはスー様だから?」

 

 その前に仲間になったデビルヴィザード二人にスミレさんが答えになっていないような答えを返しているのを見て、格闘場で増えた二人と一匹で実際の頭数は減っていないことに気づいたが、それはそれ。

 

(戦力面で見ればダウンしてるのは明らかだし、今回はここまで到達したことで良しとしておくべきだろうな)

 

 この先にあるはかいのてっきゅうだけでも回収してきた方が良いんじゃないかと心の中で囁く声が聞こえた気もしたが、敢えてスルーする。

 

(欲を出して失敗したら元も子もないし、神竜まであとちょっとってとこまで行っちゃったらなぁ)

 

 己を抑えられるのかという疑問もある。

 

(トロワ、カナメさん、スミレさん、そして俺。相応に育ったメンバーが四名居れば原作通りなら攻略は可能だもんな)

 

 なまじ、勝てる可能性があるとわかっているからこそ、誘惑に抗えるかが問題となる。

 

(やはり駄目だな。シャルロットの親父さんの生死がわからず大魔王との戦いの決着もついていないタイミングでは願い事が出来ない)

 

 勇者一行の家族の中で他者に殺された者を蘇生対象とすることで、元バニーさんの親父さんやおばちゃんの夫にしてトロワの父親であるアークマージ、ホロゴーストに魂代わりをして貰ってるスノードラゴン親子の親の方、くさったしたいの群れに殺されたエリザの両親など何人もの人が救えるかも知れないが、早すぎてはオルテガ蘇生の機会を失ってしまう。

 

(子供の事を思うとホロゴーストに肉体を動かして貰ってるあのスノードラゴンは早く元に戻してやりたいところ何だけどなぁ)

 

 薄情かも知れないが、俺にとってシャルロットの親父さんより優先順位は低い。

 

(まぁ、今のシャルロット達ならゾーマを倒すのにそれ程時間はかからないだろうし、むしろ「やみのころも」の回収が間に合うかどうかを考えた方が良いか)

 

 同時に、こちらもいつでも神竜へ挑めるようにしておく必要がある。

 

「よくぞ来た! わしがこの城を治めるゼニス一世じゃっ!」

 

「ん?」

 

 一世と言うことは、後の二世となる世継ぎとかも存在するのだろうか。

 

(原作じゃこのお城には男しか居なかった気がするけど、こっちはあれより広いもんな)

 

 ひょっとしたら目につかない、付きにくい場所に居住スペースが追加されて、そこに妻子を住まわせてるのかも知れない。

 

(追加の部屋があるなら興味は湧くけど、ズカズカ押し入るってのは傍若無人にも程があるし)

 

 そもそも普通に考えたなら、王族の居室に無断で入るとか、捕まって牢屋に入れられて当然の犯罪行為だ。原作の勇者は素でよくやらかすが。

 

「神竜に会えばどんな願いも――」

 

 そんな割とロクでもないことを考える間も、ゼニス一世の話は続いていた。

 

(がんばるのじゃぞ、かぁ)

 

 激励してくれてはいるのだろう、ただ。

 

「いくつか気になった事があるのだが……」

 

「何じゃ?」

 

「『どんな願いもかなうというもの』と言われたが、実際願いを叶えた者に会ったことは?」

 

 言い切っていると言うことは、おそらく是なのだろう。だが、その割には神竜の話を聞かない。

 

「ふむ、尤もな話よな。では、まず一つの事実から話そう」

 

 何故かと問えば、少し唸ってからゼニス一世は話し始めた。

 

「ここまで来るのに、現実ではあり得ぬ構造の道を通って来たじゃろう? まるでいくつものダンジョンを無理矢理繋げたような。それは理由があるのじゃ」

 

「理由?」

 

「左様。神竜のおわすあの塔へは様々な世界と繋がっておるらしい。つまり、次元をねじ曲げることで幾つかの平行世界からの挑戦者が神竜へ会いに行って居るのじゃ。わしが知る願いを叶えて貰ったものは殆どがおぬしの来た世界以外からの者故な。神竜の事が広まって居らぬのも当然じゃろう」

 

「それは……何というか」

 

 とんでもない話だった。つまり、原作の神竜は複数存在するのではなく、全て遠くない未来に挑む一体だけという事なのだろう。

 

「ただ、何故かはわからぬが『えっちなほん』を欲しがる挑戦者がことのほか多くてな。先日下界に件の本を大量に仕入れに行った眷属が何冊か本を落として神竜に大目玉を食らっ」

 

「ちょっと待て」

 

 いま、おもいきり ききずて ならない じょうほう が とびだしたんですけど。

 

「本を落とした?」

 

「うむ」

 

 そうか、元凶はそいつなのか。

 

「その眷属というのは?」

 

「ほうおうと言うモンスターを知っておるか? 何羽かのその魔物に運ばれ旅立ったてんのもんばんで、名をグレゴリックと言う。わしが知るのは、罰として本の回収を命じられた所までじゃな。それっきり行方知れずとも聞く。あまりにアテにならぬので暇を見て神竜本竜が本の回収に赴いたこともあったものの、挑戦者が来ることを考えると長々留守にも出来ぬのでな。回収はいっこうに進んでいないというはな……待て、おぬしどこに行く?」

 

「止めるな。ちょっとふざけた金ぴかの死体を譲って貰いに行くだけだ」

 

 あの金ぴか無職が諸悪の権化と解った以上、放置は出来ない。俺の足は自然とここに来た階段へ向け、動き出していた。

 

 

 




と言う訳で、本をばらまいた犯人は神竜関係者でした。

最初は神竜自身が落っことした設定だったのですが、複数世界から挑戦者受け付けてるのにそんな暇はないだろうなと思い直し、ちょうど良い具合に下界に降りて無職ってた金ぴかさんに全て押しつけてみました。(外道)

次回、第二百二話「イシスへ、そして」

さて、伏線をまた一つ回収出来ましたし、あとは――

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