強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第二十話「世界の悪意が悪いんだと容疑者は意味不明の供述を続けており――」

「……最後に一人でこれだけの数の魔物を相手にしたのはいつだったか」

 

 辺りには屍が散乱し、骨付き肉を焼くための炎に突っ込んだトロルの骸が燃え出し、嫌な匂いが漂い始めている。

 

(派手にやっちゃったよなぁ、本当に)

 

 最後尾がムール少年になることを考えると、後ろに生きたトロルを残して行く訳にも行かない。もっとも、あれほど沢山のトロルが居た場所を通過しようとすれば、最終的に全ての敵を殲滅しないといけなくなったと思う。

 

(一体に気づかれれば他のトロルにも気づかれる。これが人間相手ならレムオルの呪文で透明化してやり過ごすと言う手もあったかもしれないけれど)

 

 原作だと透明化呪文を使っても魔物は襲ってきたので、試してみる訳にもゆかず。

 

(割り切るしか、ないか)

 

 嘆息と共に足元を見ればそこにあったのは何本もの棍棒。

 

(習慣って怖いよね)

 

 多分戦ってる最中、無意識のうちに褐色巨人達から盗んでいたのだろう。足下の分と死体が握ったり側に落ちてる棍棒の数を合わせるとパッと見でもトロルの骸より棍棒の方が多いので、俺が盗んだのは予備の棍棒だったと思われる。

 

「とは言え、ただの棍棒ではな」

 

 武器としてはムール君と変態娘を除くほぼ全員がもっとマシな装備をしているし、持っていったとしても荷物になる割には大した値段で売れない。

 

(アイテム作成の天才っぽい変態がすぐ後ろにいるから、改良を頼むってのも選択肢の一つではある……けどなぁ)

 

 完成したのが変態発明だった何てオチになったら笑えない。

 

(そもそも、そんな猶予もないか)

 

 のんびりアイテム改良やってる暇があるなら、大暴れして褐色巨人達を殲滅などしなかった。殲滅速度優先と言うことで俺が片付けたが、油断してくれていたのだからクシナタ隊やムール少年に経験を積ませる良い機会だったのだ。

 

「さて、敵は片づいた。皆を呼びに戻るぞ」

 

 だからこそ俺は引き返すべく変態娘に呼びかけ。

 

「……マイ・ロード。その棍棒、使わないのでしたら私に使わせて頂けませんか?」

 

「えっ」

 

 俺は別の質問を返されてようやく失敗を悟った。

 

(俺の馬鹿ーっ、世界の悪意の仕事の速さはさっき見たばっかじゃないですかー)

 

 確かに、棍棒には利用価値がないと思っていた。だが、譲ってしまった後日どんな変態兵器として出現するか解ったようなモンじゃない。

 

(とは言え、駄目だと言うにしても納得させられるような理由がないし)

 

 ここは釘を刺しつつ妥協するべきか、それとも。

 

(って、迷ってる時間もないな。しかたない)

 

 覚悟を決め、徐に転がってる棍棒の一本を拾い上げると、口を開く。

 

「構わん、と言いたいところだが……何に使う気だ?」

 

「丈夫な木を使っているようですし、削って魔力を込めれば道具として使っても効果のある短杖が作れないかと思いまして」

 

「短杖?」

 

「はい」

 

 まともすぎる回答に思わずオウム返しをしてしまった俺にトロワは頷き。

 

(っ、俺は何を……)

 

 密かに己を恥じる。確かに変態発明として活用してるモノもあったが、乳袋にしても元は何でも入る袋を目指して再現しようとしたモノだとトロワは言っていたはずなのに。

 

「許可しよう」

 

「ありがとうございます。それから、そちらも使わせて頂いてよろしいですか?」

 

 俺の許可に喜色を浮かべ礼を口にした変態娘(トロワ)は俺の股間を指さす。

 

「……やれやれ」

 

 どうやら恥じたのが間違いだったらしい。どさくさ紛れに何を言うかと思えば。

 

「ま、マイ・ロード? も、申し訳ありません、言葉を間違えました。わた、んぐっ」

 

 とりあえず、誤解を生みそうな発言をしそうだったので、鞄から取り出した布を口に突っ込む。

 

(ふざけるなら場所を選べと言ったはずなんだけどなぁ)

 

 それでもやらかしたと言うことは、追求した場合、何を言い出すかは解っている。ふざけていない、本気だとか言い出すつもりなんだろう。そして、前回の様に意図的に間違えられぬよう直接指をさすときっちり反省点まで活かしてやがる。

 

(もっと他の場所に活かせよ、その賢さ)

 

 どうしてエピちゃんのお姉さんといい、エピちゃんといい、こいつといい、覆面ローブの女性モンスターは変態道を全力疾走してる奴ばっかりなんだ。

 

(うん、今の言い方は語弊がある。全体数から見れば一握りなんだろうけど)

 

 何故、こうも目立つ。

 

「ん゛ーっ、んんーっ」

 

「……性格矯正本の入手は急務だな。この先の村に置いてあったら一冊くらい譲って貰いたいところだが」

 

 できれば真っ当な性格になれるモノを。お嬢様でもおてんばでもいい、今のコレよりはマシだろう。

 

「とりあえず、トロワ。お前はあとで折檻だ」

 

 いくらこの変態娘でも今が緊急事態だとはわきまえている筈、だから口約束でもして貰えたらラッキーぐらいの気持ちでだったと思う、思うが、許されることでもない。

 

「では戻るぞ? これ以上時間を無駄に出来ん」

 

 本気で怒っていますよ的なオーラを漂わせつつ後ろも見ずに言うと。俺は他のみんなと合流すべく歩き出した。

 




難産でした。

むぅ、ここまで露骨と言うか下品な展開にするつもりはなかったのになぁ。

清純派の闇谷としては口惜しい限り。

次回、第二十一話「奥へ更に奥へ」

え、村に本があれば? いつものフラグか伏線じゃないっすかね?(放言)

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