強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第二百話「中継の地から」

「ここがそうなのですか、マイ・ロード?」

 

 イシスのお城に似ているというクシナタ隊のお姉さんの声も背後でしたような気がするが、使い回しなのだから当然と言えば当然だ。

 

移動呪文(ルーラ)で来られる様にするには地名を認識する必要があったような……)

 

 村や町で「ここは○○の村です」とか現実にはあり得ない事を話す村人の存在意義が原作ではルーラの異動先リストの項目たる場所の名を教えるという一点に集約されているような気がするなぁなどと考えながら鉄色の扉を解錠呪文で開けて進めば見えてきたのは花に囲まれた四角い床が二つ。

 

「とりあえず、情報収集に当たるか」

 

 確かこの城にはなぞなぞと称してそこそこ使える武器や防具そしてアイテムの隠し場所をぼかして教えてくれる吟遊詩人が居たはずだ。俺の愛用してる『まじゅうのつめ』や『やみのころも』は、原作でその吟遊詩人に教えて貰った隠し場所から得たモノでもある。

 

(何というか、こういう時こそ原作知識の使いどころだよなぁ)

 

 まず王に挨拶へ行くべきか迷ったが、別に王は逃げない。

 

「確かゼニス王、だったか……」

 

 朧気な原作の記憶でも、ルーラのリストには「ゼニスのしろ」とかそんな名前で登録されていたような気がするのだ。

 

(そう言えば、あの場所名って何らかの法則性とかあるんだろうか? アリアハンとか国名になってるところがあるかと思えば、竜の女王の城みたいに建物の名前でリストに入ってるのもあるし)

 

 法則性がないところが、以前テレビで見たバス停の名前のフリーダムさを思い起こさせる。

 

(元の世界に戻っても移動呪文が使えたら、移動リストに「木」とか「谷崎さん家前」とか乗ったりするんだろうか)

 

 ある意味「ゼニスのしろ」ってのもこれに近いネーミングな気がするし、分かり易くはあるのだが、他にどうにかならなかったんだろうか。

 

「まあいい、王への挨拶は後だ」

 

 ここでまじゅうのつめの二つ目が手に入れば、盾を外して両手につめを装備して戦うという事も可能になる。

 

(サンプルとしてジパングの刀鍛冶かトロワに渡して量産出来ないか聞いてみるのも良いし)

 

 個人的には、この先にある筈の複数の敵を攻撃出来るのに原作中最高の攻撃力を誇ってたと思う『はかいのてっきゅう』も出来れば量産出来たらなとは思う。

 

(ただ、原作だと範囲攻撃武器は改心の一撃が出ないとかそんな仕様があった気もするけれど)

 

 今はどうでもいい話だ。

 

(まずはあの吟遊詩人に――)

 

 何度か足を運ばされたからか、居る位置をだいたいは覚えていた。

 

(原作通りなら、この城に入ってきた階段のある部屋と王座を挟んで反対側の小部屋に居たよな)

 

 歩きつつ、城の使い回しと言っても謁見の間と周辺の小部屋のみの構成で本当に良かったと思う。

 

(イシスのお城も広かったもんなぁ)

 

 実際、広くなかったら居住性とかいろんな面で問題が出てくるだろうし、むしろ現実ならあれは妥当な広さだった。

 

(まぁ、ここだってイシス攻防戦の戦功表彰みたいなのやるのに相当な数の人をいれたあの謁見の間そのままだからそこそこ広いんだけどさ)

 

 元の世界にあるもので例えるなら運動競技をやるスタジアムぐらいだろうか。お陰でまだ吟遊詩人の元には辿り着いていない。

 

(「まじゅうのつめ」よーし、「やみのころも」よーし)

 

 お題を聞いて取りに行ったと言い張るにはちょっと汚れたり使い込んでしまっているが、それでもすぐ見せられるようにしておくべきだった。

 

「あれか」

 

 そして、俺は遂に扉のない小部屋の入り口の向こうに、弦楽器を抱いた人影を見つけ。

 

「おや? あなたたちは下界からやってきたようですね」

 

「ああ、そ」

 

「ここまで来られたということはかなりうでに自信がある。しかし頭の方はどうですかな?」

 

 話しかければ、肯定する言葉へ被せるように吟遊詩人は言葉を続けた。

 

(こいつ――)

 

 強敵だ、密かに俺は思った。

 

「ひとつ私がなぞをさしあげましょう。ほろびのま」

 

「テドンの教会の十字架の下だな? キラリと光るのは、これと同じまじゅうのつめだっ!」

 

「な」

 

 よく見えるように突き出せば、驚いた顔で吟遊詩人は固まる。勝った。

 

「ただ、敢えて言わせて貰うなら、テドンは『村』だぞ? その出題では見つかるモノも見つからん。そして、二つ目の謎はメルキドの庭園の茂みに隠された、これと同じ、やみのころもっ!」

 

「ちょっ」

 

 更に掟破りの質問前に回答をやってのければ、弦楽器を抱いた男は空いた手をこっちに突き出しかけ。

 

「……そう言う訳だ。誰かテドンへ探しに行って貰えるか? メルキドはアレフガルドにある町だからな。もう一人、アリアハンへ行ってくれ。アレフガルドとの連絡要員があそこなら居るはずだ。シャルロット達に情報をリークする形でも良い」

 

 個人的には、汚れて洗濯する時のため、やみのころもの予備があっても良いとは思うものの、流石にそんな贅沢な使い方をしては罰が当たるだろう。

 

(あっちのパーティーでやみのころもが入り用になるのは、元僧侶のオッサンが賢者の呪文を全部覚えて盗賊になる場合くらいだけど……俺の予備よりよっぽど有効活用だよな)

 

 全く使わないなら共にアレフガルドを攻略してる勇者クシナタ組に回しても良いのだから。

 

「ラストはルザミにある望遠鏡の側、椅子の下。あるのは賢者の石……生憎弟子に渡していて手元にないが……」

 

「な、なぞを言う前に答えるとか、あ、あなた……いったい」

 

 吟遊詩人は呆然としていたが、ぶっちゃけどうでも良かった。

 

「ああ、あえて言っておくが俺達は小さなメダルは集めていないからな。世界に合計何枚あるだとか、今俺達が何枚持ってるとか、そんな情報は不要だ」

 

 むしろ欲しかったのは武器防具とけんじゃのいしのみ。

 

「ではな」

 

 謎の完全勝利を達成した俺はけんじゃのいしをどう回収するかを考えつつ、踵を返した。

 

 




*「ここは『勇者の師匠にトイレを貸すのを渋って殴られた魔王バラモスの元居城跡』だ。奴の行った悪事を考えれば同情などしてはならんのだろうが、このネーミングは何とかならなかったものか……」
(挑戦者終了から数十年後、居城跡に唯一残された仮設トイレの前に立っていた兵士談)

早押しクイズでもこれはないレベルの無慈悲な回答で勝利した主人公。だが、まだ王への謁見が残っていた。

次回、第二百一話「ゼニス王」


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