強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百八十九話「アナザーディメンジョンかな?」

「さて……」

 

 入ってすぐの小部屋を抜けると、突き当たりに揺れるは燭台の火。

 

「明かりがあるのはありがたいが」

 

 誰かが手入れをしなければ、普通ああいったものは消えてしまうはずであり。探れば洞窟内にはあちこちに気配があった。

 

「あちこちに先住者が居るようだな。まぁ、人間ではあるまい」

 

「へぇ、じゃあ話にあったバラモスそっくりの魔物ってやつも居るってことかい」

 

「ふっ、どうだろうな……」

 

 後ろから聞こえた元女戦士の声に肩をすくめると、俺が指さしたのは突き当たりの右。

 

「一番近い気配はこっちだが、気配だけで魔物の種類までは特定できん」

 

 言外に目視で確認するしかないと言いつつ、忍び足で歩き始め。

 

「……あれだな」

 

「スー様、初めて見る魔物ですが」

 

 突き当たりから数えて右に二回、左に一回曲がった先、小部屋の中に認めた暗緑色の肌を持つそれを俺の肩越しに見たのか、後方からもクシナタ隊のお姉さんの声がした。

 

(うーん)

 

 先端が尖った耳、隠す事さえしない片乳を含む1mなんて簡単に越えて居るであろう胸囲。

 

(「まともな相手でありますように」って願ったおかげかなぁ)

 

 胸の大きなお姉さんなんかでは当然ない。それは棍棒を片手に持つ巨人。

 

(謎のデジャヴを感じるけど、きっと気にしちゃ駄目だ)

 

 せっかく人語を解するかも知れない魔物と遭遇したのだ。

 

「トロワ、頼めるか? それと、誰かスクルトとバイキルトを頼む。いきなり襲ってきた場合に備えておきたい」

 

「はい」

 

「あいよ。あんたに教えて貰ったアレを披露するのに良い機会さね、スクルト! ……バイキルト!」

 

 要請に応じたトロワが俺の横を通り抜け、直後にかかった二つの呪文は元女戦士からのもの。

 

「ほう、やるな」

 

 トロワにも呪文がかかる様に守備力を増加させる呪文を先に使った元女戦士に賛辞を送り。

 

「ぐふ? おぉ、この辺じゃ見ねぇ種族だな。ひょっっどして、挑戦者が?」

 

「挑戦者、ですか?」

 

 前方では、先んじて話しかけてきた禿頭巨人に先へトロワは問い返す。

 

「お前いい゛女だから教えてやる゛。ここ、神竜に挑むモノが通る。だから、試練どじて立ち塞がる魔物いる゛」

 

「それでは、あなたも?」

 

 再び尋ねたトロワに、巨人はげへげへ笑いつつ秘密だと答えた。

 

「どにかく、ごこ襲ってくる魔物多い゛。迷い込んだなら、悪いことは言わな゛い、引き返せ」

 

 見た目に反して良い奴だったのか、それともトロワがあの巨人からすると美人だったからなのか。

 

(まぁ、どっちにしても神竜の元まで向かおうとするなら襲ってくる魔物が居るってのは、原作通りか)

 

 あの巨人へ話しかけたのがトロワでなく俺だったら、そのまま戦闘になっていた可能性もある。

 

(その辺も確認してみるべきだよなぁ)

 

 襲いかかってきたとしてもこの洞窟の敵の強さを知る指標になるし、話が通じるなら情報源になるのだから。

 

「トロワ、ご苦労だった。話の続きは俺が」

 

「な゛っ、人間だど? ぞうが、坊主でね゛ぇどこを見るにやっば挑戦者が」

 

 俺がしようと続けるまでもなかった。巨人は棍棒を構え明らかに戦う姿勢を見せたのだから。

 

「……まぁ、一体ならこの程度か」

 

「え゛っ? ご、がっ、ふ、げっ」

 

 もっともすれ違いざまに四回程斬りつけたらあっさり崩れ落ちたけれど。

 

「今の化け物をあっさり……あたいの居る意味あるのかい?」

 

「それを言うなら私なんてお城に来る時、ルーラ使っただけですよ?」

 

 後ろでボソボソ話し合ってる声も聞こえていたが、ただ、トロワだけはお見事ですと褒めてくれた。

 

「とりあえず、今のは序の口だからな? 流石にあれが数匹出れば俺の手にも余るかもしれん」

 

 原作で言うところのクリア後ダンジョンを甘く見る気なんて毛頭無い。それどころか通常組めるパーティの人数を超えた数の人間に元アークマージを加えた編成でダンジョンを攻略し始めているのだ。

 

「消耗も避け、可能なら中継点まで生きたいところでもあるな。確か――」

 

 このダンジョンは既存ダンジョンのマップをつなぎ合わせた使い回しダンジョンだったはずだ。

 

(なんか原作では人の手が加わらない自然の洞窟から明らかに人の手が加わったピラミッドっぽい場所に飛んだりとか「異空間をねじ曲げていくつものダンジョンを繋ぎました」感があったけど、まぁ、攻略する側からすると使い回しって言うのは都合良いんだよね。他のダンジョンでの記憶とかマップが活かせるか……あ)

 

 そう、本来ならここはそう言うダンジョンであった。本来なら。

 

「マイ・ロード、どうされました?」

 

「いや、少しな……」

 

 例えば、魔物に変身して空を飛んでスルーしたとか、直接攻略せず他人に行って貰ったとかした場合、内部地形を覚えているはずがない。

 

(げんさくちしき? さすが に だんじょん まっぷ まで おぼえてませんよ?)

 

 原作プレイの方で記憶が残ってる場所があるとすれば、そこはレベル上げだとか魔物の落とすアイテム目当てにひたすらうろついた場所ぐらいだ。

 

「とにかく今は出来るだけ戦闘を避けつつ先に進もう。こんな場所なら魔物が外に迷い出てくることもなさそうだからな」

 

 よって、怖いのはエピちゃんポジションの魔物と遭遇することだけだ。更に詳しい情報を得ると言うなら、情報源はあった方が良いが、このままこのダンジョンを完全攻略してしまう訳ではない。

 

(戻った時に連れてる女の子が増えてたら、なぁ)

 

 何しに行っていたんだという類の非難を帯びた視線は避けられない。

 

(大丈夫。最初のエンカウントだって女の子じゃなかったんだから――)

 

 加えて、俺は足音や気配を殺している。

 

(大丈夫だ、うん)

 

 己を信じ、俺は再び歩き出す、ダンジョンの奥へと向かって。

 




と言う訳で、遭遇したのはダークトロルでした。

うん、いつぞやと同じオチでごめんなさい。

次回、第百九十話「知っているのか、トロワ?」


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