強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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くりすます の とくべつへん を やろうか とも おもった けれど、かきはじめた ばかり なので、じちょう した。




第一話「さいかい」

「ん……ああ、もう朝か」

 

 目が覚め、ぼやけた視界で窓の向こうに白み始めた空を見つけた俺は軽く目を擦ると身を起こしてまず隣のベッドを見る。

 

(とりあえず、大丈夫そうかな)

 

 縛ってベッドに転がしておいたトロワはまだ寝ているらしい。規則正しく上下する胸を見てもぐっすり眠っているのだから、トイレ的な意味でせっぱ詰まっていると言うことはないだろう。

 

(さて、まずは着替えか。縛られて動けないなら着替えを覗かれる心配もないし、そもそも生理現象はどうしようもないからなぁ)

 

 苦笑しつつ夜着を脱ぎ出すと、まだ温かなそれをベッドの上に置き、ベッドサイドに畳んで置いておいた服をとり、袖に腕を通す。

 

「ふ、こんなところか」

 

 着替えさえ済んでしまえば、後はマザコン変態娘のロープを解き外に出るだけだ。縛ったトロワを放置し、一人でトイレに行った結果、もよおしたトロワがロープを解けずシーツ他諸々を汚してしまうような事態は避けたい。

 

(何て言うか、そもそも縛っておかなきゃいけない状況がまず問題なのであって、トロワがまともになってくれれば縛る必要だってない訳だけど)

 

 今度はまともにすることが出来るのかという問題が持ち上がってくる。

 

「性格の矯正だったら、以前失敗したからな」

 

 対象はトロワで無かったし、主原因は性格を改変する本を渡した相手が溶岩に本を落としてしまったと言う特殊な例ではあるものの、まず最初に性格を強制する本が稀少なのだ。

 

(例外として、特定の本ならアレフガルドで売ってるはずだけど、俺があっちに渡るのは危険すぎる)

 

 そんなにすぐシャルロット達が諸悪の根源の城に到着するとは思えないものの、想定外の出来事やイレギュラーはけっこうあっちこっちに散らばっている。

 

(あの大魔王フットワーク軽いから遭遇戦が起きたって驚きはしないし)

 

 うろ覚えの原作知識を時折頼りにした結果が今に繋がる。良いも悪いも含めてではあるが。

 

(んー、しかし性格を変える本かぁ)

 

 気にはなる、だが。

 

「寄り道して失敗するというのはある意味、そうしなければいけないルールでも有るかと思うぐらいだからな」

 

 判で押したかのようにありきたりな展開、所謂テンプレである。

 

(うん、性格矯正しなくてもトロワが俺以外の異性に惚れてくれれば良い訳でも有るし、問題解決の方法は一つじゃない)

 

 それに問題を解決するのを諦め出来るだけ早く目的を果たして元の世界に戻ってしまうと言う選択肢だってある。

 

「……帰る、か」

 

 呟き、俺は寝ているトロワを縛ったロープを解き始める。

 

「平和な世界への……帰還」

 

 そこにいるのが当然であるのに、シャルロット達から逃げ出してきたのは俺の筈なのに、胸が痛んだ。

 

(っ、けど……借り物のこの身体だって返さないといけない、それに――あ)

 

 帰らなければいけない理由を他にも探そうとして、ふと気づく。

 

(あああぁぁぁぁっ、いつの間にか話が迷走してるっ!)

 

 今すべきはウジウジ悩むことではない。準備を済ませて、クシナタ隊と一刻も早く連絡を付けることだ。

 

「その為にも、まずはトイレに行って用を足す」

 

 ロープを解き終え、空いた手をぐっと握り、格好を付けながら割と酷い宣言をする。ちょっと現実逃避がしたかったんだ、すまない。

 

「スー様ぁ」

 

 コンコンと外からドアをノックする音と共に聞こえてきた懐かしい声。

 

「もう起きてるぴょん?」

 

 聞き覚えのある語尾。

 

(うん、よくよく考えると着地の失敗やらかして街の入り口で人目を集めちゃったもんなぁ、あはは)

 

 先方がこちらに気づいて接触してきても全然おかしくないじゃないですか、やだー。

 

(それどころか、下手したらお師匠様目撃情報として勇者一行に伝わってシャルロット達がここに追いかけて来ちゃう可能性だってあるよね?)

 

 逃亡生活一日であえなく終了とかに鳴ったら、俺の涙とか決意とかその他諸々はどこに行けばいいのか。

 

(うん、冗談抜きでトロワがどうのなんて言ってる場合じゃない)

 

 さっさと話を纏めて逃げ出さなくては。

 

「カナメか。起きてはいる。そして、話したいこともあるが……」

 

 それを許さないモノがあった。

 

「先にトイレに行かせてくれ」

 

 俺の膀胱である。

 

「……何かごめんなさいぴょん」

 

 痛々しい沈黙の中、すれ違い態に元盗賊現遊び人なクシナタ隊のお姉さんがポツリと漏らして頭を下げ。何故だかちょっとだけ泣きたくなった。

 

(涙もろくなったのかなぁ、俺)

 

 そんな訳じゃないのは解っていた。あと公共のトイレはみんなが使うモノだから綺麗に使わないといけないと言うことは知っている。今向かい始めたのは、宿屋の共同トイレだけど。

 

「混んで居ないといいが」

 

 こういう時に限って順番待ちが待っていそうな気がして、気づけば口にしてしまった危惧。

 

「あっ」

 

 誰が聞いてもフラグにしかなって居ないことに気づいたのは、言っちゃった後だった。

 

 




逃亡者は終わったはずなのに逃亡しなきゃいけない雰囲気になっている件。

トイレに向かった主人公は、無事スッキリ出来るのか。

それともエピちゃん(隠語)してしまうのか。

あと、お食事中の型、ごめんなさい。

次回、第二話「選択肢は二つ」

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