「やあっ」
振り下ろされた棍棒がめり込み、
「張り切ってるな……」
久しぶりに師の前で戦うというシチュエーションだからか、果敢に攻めるシャルロットを眺める俺は感心半分、残りの半分はあの調子で動いてバテないかという不安半分だった。
「夜の分まで体力が残っていれば良いんだが……」
シャルロットと一緒にいられる時間にも限りがある。今晩は貴重な奥義伝授可能な機会なのだ。
「え」
ただ、少々声が大きかったらしい。
「わ、わ、わあぁぁぁっ?!」
「ぴぎゅっ」
シャルロットにも聞こえてしまったようで、無理な体勢からこっちを振り向こうとしたシャルロットはバランスを崩して転倒した。
(とりあえず、お尻の下辺りから漏れた断末魔的な何かは、聞かなかったことにしよう)
別にヒップアタックでトドメを刺されようが、羨ましくなんてない。ないのだ。
「うー、いたた……」
「すまん、シャルロット。邪魔してしまったようだな」
師にあるまじき失態に俺は謝罪し、横目でちらりとトロワを見る。
(回復呪文はもう覚えてるし、
無言のままただ頷いたトロワはお尻を払って立ち上がるシャルロットの側まで行くと、胸のふくれっ面ドラゴンをたゆんと弾ませつつしゃがみ込み、目を回している
(よし、あっちはあれでいいな)
後は、シャルロットだ。
「それで、その……だな、シャルロット。模擬戦が終わって宿に帰ったら俺の部屋に着て貰えるか? そうだな、食事の後で良い。食べてすぐは拙いだろうが……」
「お、お師匠様? それって……」
「続きは後だ。まだ模擬戦中だし、な」
言いつつちらりと元女戦士へ視線をやる。俺なりの部外者もいるからと言う言外のメッセージだ。
「あ、そ、そうですね。それじゃ、お師匠様、お話の続きは宿に行ってからで」
「ああ。そうしよう」
どうやら伝わったようで、同意が返って来れば俺も頷きで応じて再び見学者に戻る。
「ふぅ、お疲れさまでしたー」
それから何度
「ええ、結構汗かいちゃいましたし」
「そうですね。マイ・ロード、その」
「水浴びだろう? ドアの前までついて行く、それで良いな?」
と言うか、中までついてきて下さいと言う奴も居ないか。
「はん? もうおしまいかい?」
いや、すっごく みぢか に こころあたり が いらっしゃいましたね。
(うん。よくよく考えてみればこの
もちろん応じる気はサラサラ無い訳だが、何事にも例外というか断りづらそうな相手はいる。
(それでも断らなきゃ社会的に俺が死ぬんだけどね)
そもそも、そんなあり得ない事態について今考えること自体が無駄だ。
「外に出るぞ、忘れ物はないな?」
「「はい」」
気を取り直して確認すれば、二人分の返事が返ってきたので、俺は部屋の外へ出る。
「他に修行してる者も水場は使うだろうし、かち合わんといいな」
なんてフラグもどきな台詞を口にする気もない。
(後は俺が社会的に死ぬようなハプニングがないことを祈るのみ、かぁ)
考えられるのは、水場に女性が苦手とするような虫か何かが出てパニックになった利用者は飛び出してくるパターン。
(ベタと言えばベタだよなぁ)
そして、身構えているとハプニングってモノは起きなかったりもする訳で。
「ふぅ……」
気が付けば宿の自室。結局水場では何もなく肩すかしをくらった俺はさっぱりしたシャルロット達と共に宿まで戻ってきて、夕飯までの時間を持て余す形で天井を見上げていた。
(飯の後って言ったからな。シャルロットも飯は宿のモノを食べるだろうから、食堂で会って、そこで説明すればいいよな)
とりあえず、下着は複数持ってきて貰わないと困る。
「変身後に着る下着と……モシャス出来ることに関するいい訳、こいつはトロワが居るからいい」
トロワの作ったビックリ使い捨てアイテムの効果でモシャス出来るとかでっち上げれば問題ない。
(頼めば本当に作ってしまいそうだし)
強いて言うなら口裏合わせを今の内にしておく必要があると言うことぐらいか。
「トロワ、少し良いか?」
全ては夕飯の後、この部屋ですることのため。
「なんでしょう、マイ・ロード?」
「頼みがある」
こちらを見るトロワへ俺は切り出した。
次回、第百八十一話「まぁ、そうなるな」