強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百七十八話「たいした奴だ」

「丁度良いな」

 

 観客席の方が湧く様子をたまたま目にした俺は口元を綻ばせる。

 

「どうやら試合の方が盛り上がっているらしい。今の内に通り抜けるぞ?」

 

「「はい」」

 

 声をハモらせた二人を連れて、俺は観客席とは別方向へ進む。

 

(けど、運が良かった。シャルロットはこの国でも有名人だからなぁ)

 

 客の感心が試合の方に行っていなければ、注目を集めて居たかも知れない。

 

(そこは思いつきで動いたツケ、か)

 

 シャルロットの前でなければ透明化呪文で切り抜ける手もあったのだが、それでは肝心のシャルロットが隠せない。幸運な偶然が起きなかったら、物影で今と同じ状況が起きるまで待つ必要があっただろう。

 

「あ、ここだ。それじゃお師匠様、ボク達はここで着替えてきますね?」

 

「ああ」

 

 やがて一つの部屋の前で足を止めたシャルロットは断りを入れてから、部屋の中に消え。

 

「では、マイ・ロード……行って参ります」

 

「初めて身につける防具だ。慌てて着る必要はない。着て動くことを考え、しっかり、な?」

 

 トロワを見送りつつ釘を刺したのは、戦闘中にローブがずり落ちてトロワの胸が露出なんてオチを避けるため。

 

(形状からするとまずあり得なさそうだけど、世界の悪意が何かやらかす可能性は充分にあるからなぁ)

 

 他のローブと比べると露出度は低く、首元も殆ど見えないデザインであり、前で合わせるタイプではなく下着のシャツなどのように頭を通して外に出すタイプの衣服に見えたそれでポロリは相当難易度が高そうだったが、油断すればしっぺ返しをくらうのは俺とトロワだ。

 

(妙なハプニングとかやらかしちゃったら、自分がどれだけ腕を上げたのか俺に伝えたいシャルロットにも悪いしなぁ)

 

 大魔王討伐を控えてるシャルロットのモチベーションは下げたくない。実力を見せるのを邪魔する事になるだけでも充分、やる気は減退しそうだが、これから着るトロワが着るローブはシャルロットが苦労して手に入れてきたモノでもある。

 

(実際、入手してきたのはミリーかも知れないけどそれはさておき、自分の持ってきたローブで惨事が起きたりすればなぁ)

 

 シャルロットが豆腐メンタルな女の子だとは思わない。思わないが、十六歳と言えばそれなりに多感な時期だ。

 

(まして母娘家庭の出身な上、過酷な冒険の旅をしてるんだ)

 

 精神面でちょっとぐらい過保護になっても仕方ないと思う。ゾーマを倒す旅には同行してやれない訳でもあるし。

 

(とりあえず、シャルロットが成長していた場合の褒め文句でも考えておくかな……「あれだけの短期間、しかも、目的は別にある旅でこれほど実力を上げているとは……たいした奴だ」いや、「たいしたやつ」じゃなくて「流石俺の弟子だ」とかの方が良いかな?)

 

 わざわざ自分の弟子とするのは弟子を褒めるのに自己顕示してるようでちょっと首を傾げるところもあるが、単に凄いとか言うよりもシャルロットと俺の繋がりという意味で口に出した方がよいかと思ってのこと。

 

「ふむ」

 

「お師匠様ぁ、お待たせしました!」

 

 ドアが開いたのは、更に何か考えようとした時だった。

 

「どう……ですか?」

 

 なんて口にして、シャルロットがくるっと回ってみせる展開はなかった。ただ、マントを脱いだだけなのだ。

 

「未だ着用してると言うことは、あちらにもそれを越える防具は存在しない、と言うことか」

 

「あはは……呪文やブレスの威力を削ぐような特別な効果は無いですから、総合的に見るなら候補になりそうな防具はあったんですけどね」

 

 ビキニ姿でシャルロットは視線を逸らす。

 

「ならばお前が持ってきた防具も選考の余地有り、か」

 

 ゾーマにしろ神竜にしろブレスは吐いてきた筈だし、攻撃呪文も使ってきた筈だ。

 

「呪文やブレスを防ぐ効果は盾に頼るというのも一つの手だが、盾は装備者を選ぶからな」

 

「ですね。重い盾だとサラみたいに魔法使いとかは持てないでしょうし……」

 

「ミリーのおじさまに頼むには時間がかかりすぎるからな」

 

 シャルロットの着ているビキニの性能を鑑みれば、相応のモノを作ってくれそうな気はするが、今のところ最高傑作であるあのビキニは作成にかなりの月日を要した。

 

「やはり、天才の方か……」

 

 だから、頼るとしたら元バニーさんのおじさまではなく、先程まで着替えていたもう一人。

 

「お待たせしました、マイ・ロード」

 

 胸元にあしらわれた龍の顔の様な刺繍を内側から膨張させて現れた女賢者の名は、トロワ。

 

「これが、ドラゴンローブか」

 

「はい。着るのに少々手伝って頂きましたが」

 

 頷き視線を向けた先にいたのはシャルロット。まぁ、マントを脱ぐだけであれほど時間がかかるはずもない。手伝っていたと言われても驚きはなかった。

 

「えっと……大丈夫だった? 胸とかきつくない?」

 

「お気遣い、ありがとうございます。確かに昔のローブの方がゆったり目ではありましたが、ローブは着慣れていますから」

 

「そ、そう」

 

 他意はないのだろう、頭を下げて見せたトロワの胸でふくれっ面のけしからんドラゴンがたゆんと揺れるとシャルロットは顔をひきつらせる。

 

(うん、何となく気持ちはわかったよ、シャルロット)

 

 だけど、君も充分大きいと俺は思う。

 

 




あるぇ、着替えだけで終わっちゃった?

次回、第百七十九話「もう君は一人前だシャルロット、ゾーマ大魔王を倒す日も近いな~」

主人公「我が弟子シャルロットぉ、がぁんばれよぉぉぉ~~」

シャル「お師匠様?!」



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