強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百七十四話「残り物には本当に福があるんだろうか?」

「各班の成果を確認する意味もあるからな、気にする必要はない」

 

 ついでに言うなら、二人っきりという訳ではなく、いつものようにトロワがついてきている。

 

(もう少しの辛抱……ただそれだけだもんな)

 

 配属してしまえばしめたもの。賢者程ではないが、僧侶や魔法使いは全ての呪文を習得するまでに時間がかかる。

 

(修行が始まれば、呪文を覚えきるまでは模擬戦用の部屋と宿屋の往復になるだろうし)

 

 俺もトロワに付き合い、別の部屋に籠もる事となるのだ。遭う機会は殆どなくなると見ていい。

 

(まぁ、習得が完了する前にトロワが転職可能になる域にまで達してまたダーマに行くことになるだろうから、そうなったら行きと帰りで最短二日間は顔を見なくもなるしなぁ)

 

 再びダーマへ旅立つ前にスミレさん達がさいごのかぎを手に入れて戻ってくる事だって考えられるし、その鍵を手に入れるため手に入れたかわきのつぼをくるんでいた紙切れの影響が消えたのかそのままかの確認もまだ俺はしていないことを鑑みれば、だからと言って油断して良い理由にはならないのだが。

 

(と言うか、こんな事考えてること自体がそもそもフラグっぽいし)

 

 ごーいんぐまいうぇーさんを送り届けた後、トロワと模擬戦用の部屋に向かうところでスミレさんと鉢合わせしても、俺は驚かない。

 

(こっちはアリアハンで見送って、イシスまでルーラ、そしてダーマに行って戻ってきた。……うーん、原作程浅瀬が分かり易くなくて探してるとすれば、まだ想定内かな)

 

 イシスに戻ってくるとしたら、今日明日辺りではないかと思う。

 

(スミレさんが戻ってきたなら、さいごのかぎを受け取って、装備を持ってきてくれるであろうシャルロットか元バニーさんへ渡す)

 

 原作の続編には使い捨ての鍵が登場するのだが、その鍵は異界から訪れたオルテガの子、つまりこの世界で言うところのシャルロット達が持ち込んだ鍵を参考にして作られたモノだった。

 

(原作同様あちらで鍵が開発されるには、シャルロットに鍵を持ってて貰う必要があるからなぁ)

 

 無事勇者一向にさいごのかぎを渡すところまで完遂すれば、この世界でのやり残しが一つ消える。

 

(スーの東に興る町は人材を送っておいたし、原作で革命が起きたのは宝珠(オーブ)を入手する為、ぼったくりとかまでやって金を稼ごうとしたからだから……んー、歴史の修正力とはちょっと違うけど、似通った結果にならないようにレギュラーメンバー落ちしたクシナタ隊のお姉さんで魔法使いの呪文を覚えきった人を念のため派遣しておく、かな)

 

 透明化呪文(レムオル)解錠呪文(アバカム)のコンボが有れば、仮に革命が起き、送っておいた商人が牢屋にぶち込まれていても救出出来る。

 

(ダーマの転職希望者殺到騒動は一過性のモノだと思うけど……まぁ、あれについてはダーマで働きたい人がクシナタ隊にいるか、まずアンケートしてみて、そこからだな)

 

 アレフガルドで活動してる勇者クシナタ一行、さいごのかぎ回収班の他にクシナタ隊はこの地で修行してるお姉さんが、古参新参合わせれば数パーティー分は居る。

 

(確実に何人かは余るし、ゾーマが倒され、俺も願いを叶えた後のことを考えると、幾人かが就職するってのは悪くないんだよね)

 

 無論、無理強いする気はない。

 

(けど、世界が平和になったら、クシナタ隊って過剰戦力だからなぁ。世界の脅威になりうるレベルの)

 

 シャルロット達勇者一行より多くの人員で構成され、個々の実力面でも上位陣なら互角かそれ以上に戦えるとも思う。

 

(解散して各地に散らばって貰わないとパワーバランス的に……って、目的も果たしてないのに後のこととか鬼が笑うか)

 

 レベル上げも終わり、神竜に挑むパーティーが結成されてからでも案じるのは遅くない。

 

「マイ・ロード、何か懸念がおありですか?」

 

「あ……いや、目的を果たした後のことを考え――っ」

 

 ただ、失念していたこともあったのだ。かけられた声に答えようとして気づいた、一つの問題。

 

(トロワ……か、あー、一番厄介な問題を忘れてた)

 

 常に俺の側に侍ると言った元アークマージ。今は遊び人だが、問題はそこにない。

 

(もし、俺が神竜に願い事で元の世界へ帰して貰うことになったら……)

 

 トロワはどうするのだろうか。

 

(余り物は福……どころじゃない)

 

 残っていたのは、パンドラの箱だ。開けなきゃ良かったと後悔するような。

 

(このまま残る、のはあり得ない)

 

 この身体は借り物なのだ。神竜に元の世界に戻る術はないと言われた訳でもないのに、その選択肢は選べ酔うはずもない。

 

(だいたいそれが出来るなら、俺は――)

 

 シャルロットから逃げ回りなどしなかった。

 

(だけど、トロワのことはいつか聞かないといけないことだから……)

 

 俺は拳を握り締め。

 

「トロワ、これは仮定の話だが……」

 

 切り出した。

 

「はい、何でしょう?」

 

「ゾーマが倒されれば、アレフガルドとこちらの境目は塞がってしまうのではないかと思ったのだが……トロワは、アンと俺、どちらかと別れなくてはならないとなったら、どうする?」

 

 意地の悪い質問だとは自分でも思う。だが、少なくとも何処かで聞いておかなければいけない問いだったのだ。

 




次回、第百七十五話「選択」

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