強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百七十一話「とある伝承の一説に」

「どういう根拠があってそうなった?」

 

 集まる視線を受けつつ、俺はそう返した。表情もポーカーフェイスを駆使した平然としたモノではなく、半ば呆れたようなもので。

 

「ワタシなりに考えたモノ良かったら話すヨ」

 

 だが、青年は動じなかった。

 

「まず、大魔王倒された言うのに妙な話聞いたアル。イシスでおかしな苦行に挑む女の子居ると。それだけならただの変態さん言うコトもあるネ」

 

 だが、そうでは無かったと話は続く。

 

「この情報手に入れる、ホント苦労したヨ。イシスのモンスター格闘場に入り浸る黒髪の女の子達居る言う話。だけど、その女の子達、闘技場の観客席で見た人殆ど居ないって話アル」

 

「っ」

 

 俺はそこまで話を聞いて己の失敗を悟った。クシナタ隊のお姉さん達を修行させるところまでは問題なかった、ただひたすら格闘場に通うという点については隠蔽工作を図っておくべきだったのだ。

 

「得た情報から推測出来たのは、平和になったはずの世界で強さ求めて隠れて修行する黒髪の女の子達居る言うコト」

 

「それが、どう根拠に結びつく?」

 

「平和になった世界で強さ求める、不自然ヨ。大魔王まだ生きてるなら話わかるネ、けどそんな話は聞かないアル。そこで、ワタシ調べ物したね。何処かの国が武術大会でも開く予定があるかとか、その女の子達が強さ求める理由を」

 

 話が見えないという態を装って首を傾げて見るも、青年は表情一つ変えることなく棚に歩み寄るとボロボロのスクロールを示した。

 

「これ、古い言い伝えの書かれた巻物。内容胡散臭くて、いつものワタシなら取り合いもしなかったヨ」

 

「言い伝え?」

 

 嫌な予感がした。常識的に考えればピンポイントで真相を探し当てられることなど、考えにくい。だが、世界の悪意が嫌がらせに青年へアタリを掴ませたとしたら。

 

「誰もが死ぬことも老いることもなく楽しく暮らせる楽園アル言う話ヨ。ただし、その楽園行くには、恐ろしい門番と戦って力示す必要あるらしいネ。そこを目指してるとすれば、平和になった世界で強さ求める意味説明つくヨ」

 

「は?」

 

 全力のドヤ顔で言い放った青年を前に俺はぼうぜんとした。

 

「なっ、その話、詳しく!」

 

 女盗賊は早速食いついていたが、それはそれ。

 

(なに、それ?)

 

 まったく聞き覚えも何もない。つーか、原作にもそんな場所は登場していないと思った。

 

「え? なんでそんな表情するネ? まさか、ワタシの推測間違てた? いや、そんなはずないネ! だったら、女の子達強くなろうとしていた理由、説明つかないヨ!」

 

 青年は予期せぬ展開にパニックになっているようだが、俺からすれば退散する好機だった。

 

「ともあれ、書の件については助かった。これは代金だ。ではな」

 

 言いたいことだけ言って財布から金貨を取り出しカウンターに置き、踵を返す。

 

「なぁ、その楽園って」

 

「ちょ、放すね? お客さんワタシの好み、ちょっと嬉しいけど、苦」

 

 青年達は絶賛取り込み中のようだし、そう言う意味でも邪魔したら悪いだろう。

 

「とりあえず、次は転職だな」

 

「そ、そうですね」

 

 密かに神竜の話にならずに済んだことに安堵しつつ呟けば、お姉さんの一人が相づちを打ち、俺達は来た道を引き返す。目的地は、転職の祭壇。

 

「ところで、名声を使って転職の順番待ちを免除して貰ったと聞いたが、その詳しい方法については誰か聞いているか?」

 

(な ぜ お ま え が て を あ げ る)

 

 条件反射で口から出てしまいそうなツッコミを胸の中で叫ぶのみになんとか押さえ込み、視線で先を促せば、トラブル回避の為にか、祭壇の側に増やされた神殿の人に事情を説明すればいい、とのこと。

 

「なるほどな」

 

 配備されてる人員が増えているというのは外にテント群まで出来てる盛況っぷりを見れば充分あり得る話だ。

 

「なら、カナメ達に倣えばいいな」

 

「そうっすね。知名度から言っても、スー様が直接交渉した方が話は早いと思うっすけど」

 

「そんなことでマイ・ロードのお手を煩わせる訳にはいきません」

 

 頷くごーいんぐまいうぇーさんの提案に頭を振ったトロワは、早足で俺の前に進み出。

 

「マイ・ロード、交渉は私にお任せ下さい」

 

「ふむ……」

 

 自分が矢面に立つというトロワに俺は唸る。

 

(気持ちは嬉しいし、トロワの交渉力を疑うつもりは無いんだけど、ネームバリューを考えると俺が出た方が早いってのも一理あるんだよなぁ)

 

 考えた末、出した結論は、俺自身もトロワにくっついて行くというモノ。

 

「勇者の師匠である俺がすぐ後ろにいれば、相応の効果はあるだろうからな」

 

 それで居て、交渉はトロワに任せてるのだから、俺を思っての提案を無碍に蹴った訳でもない。

 

「何だか二人羽織みたいっすね」

 

 だから、何故そう余計なことを言うのだ、ごーいんぐまいうぇーさん。

 

「成る程、我々はあなたの主人にもそのお弟子さんにも恩義有る身。わかりました、掛け合ってきましょう。少々お待ち下さい」

 

 ともあれ、トロワが交渉すれば話はあっさり纏まり、祭壇の脇にいた神官っぽい人は転職を終えた人が降りてくるのを待ってから祭壇を登り始める。

 

「上手くいったな」

 

「はい」

 

 これでようやくトロワ達を転職させられる。まだやる事は残っているが、気づけばふぅと息を漏らしていた。

 

 




幾ら有能でも毎回毎回真相を言い当てるとは限らない。

次回、第百七十二話「変わるもの、変わらないもの」

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