強くて挑戦者   作:闇谷 紅

185 / 248
第百六十七話「待つ人々と俺」

 

「でしたら、ご一緒しても宜しいですか、スー様?」

 

 結論から言うなら、転職希望者はそこそこ居た。

 

(まぁ、発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)を使った模擬戦による集中訓練だからなぁ)

 

 原作でも発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)狩りでレベルを上げれば、転職可能な20レベルなら割とあっさり到達出来たのだ。あの時は灰色生き物系(メタルけい)の高い守備力及びほぼ完璧に近い呪文耐性の影響を受けない炎のブレスを吐けるようになる竜に変身する呪文、ドラゴラムを使う人員と竜に変身して鈍った素早さを底上げする素早さ上昇呪文(ピオリム)要員がそれぞれ一人居れば事足りたため、賢者もしくは元賢者の合計二名に遊び人二人を連れ回させる形で賢者を量産したので覚えている。

 

(複数の効果の内一つがランダムで発現する呪文、パルプンテの効果の一つ、自分以外の時間が凍結する効果を狙ったパルプンテ要員を入れる事もあったけど……あれは確か賢者なった遊び人のレベル上げをしてる時だったかな?)

 

 ともあれ、原作での体感だが、転職可能な強さに仕上げるだけなら割と簡単だった記憶がある。ただ、移動呪文のルーラで目的地に移動するまでに時間がかかる上、ダーマ神殿が混雑してるという情報もあって気軽に転職へいけなかった者がたまっていたのだろう。

 

「大所帯になりそうだな……いや、なったが正しいか」

 

 内訳は呪文を覚えきるまでが早い商人、盗賊、遊び人が普通なら多くなるところだが、クシナタ隊は僧侶や魔法使いが多い。それでもこんな好環境で修行を続けていれば、覚えられる呪文をコンプリートした僧侶や魔法使いが幾人か居たとしても何の不思議があろう。

 

「やー、だけどこのビキニっていいっすよねー? 転職しても防具で困る必要がないってのが本当に助かるっすよ」

 

 うん、じょうきげん で しんぴのびきに の いち を しゅうせいしてる まほうつかい の おねえさん とか には つっこみ を いれたくて しかたありません けどね。

 

「助かるかどうかはさておき……マントを羽織れ」

 

 キャラが請われても良いなら、通行人の皆さんの視線が集中してるじゃないですかーとか叫んでるところだ。

 

「え? あ、お構いなく。あたしら、この格好で戦う事になる訳っす。こういった視線にも慣れないと。いざというとき『いやーん、恥ずかしぃ』とかやってて魔物の攻撃避けられなかったらダメダメっすからね」

 

「……あー、言わんとすることはわかるが」

 

 町中でそう言うことをされると俺の社会的地位にも関わってきましてね、とエゴ丸出しで説明出来たらどれだけ良かったことか。

 

「スー様、宿に行って参りました」

 

「スー様、ダーマに行くんですよね?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ……わ、私も連れて行って、くだ、さい……」

 

 ゴリゴリと呪文で使う精神力とは違う何かを削られる中、俺の説明を受けて宿へ知らせに走ったお姉さんが転職希望者を連れて戻ってきたのだ。

 

「おー、じゃあ、後は飛ぶだけっすね? 呪文はあたしにお任せ下さい。ルーラっす」

 

「ちょ」

 

 こんなスミレさんレベルのゴーイングマイウェー娘がいったいどこに埋没していたというのか。ちょっと待てと言い切るよりも早く完成したお姉さんの呪文は俺達を纏めて空に浮かび上がらせ。

 

「おおっ」

 

「うおおおおおっ」

 

「生きてて良かったーっ」

 

 足下となった地上から歓声が。

 

「きゃああっ」

 

 すぐ側からは悲鳴が上がった。

 

「なっ」

 

「す、すみません、スー様。この子慌てて着替えたからビキニが――」

 

 いったい何事かと思った俺は、その説明を聞き、急いで目を瞑った。

 

(あー、そう言えば一人、呼吸の荒い娘が居たもんなぁ)

 

 たぶん、知らせに行ったお姉さんからダーマ行きの話を聞いた時、着替えていなかったのだろう。慌てて着替え、俺の元に戻ってくるお姉さんの後を追っかけ、結果としてビキニの装着が不完全だったため、何かがポロリを演出してしまった、と。

 

「スー様ぁ」

 

 泣きそうな声が俺を呼ぶが、いったいどうしろと言うのか。上空だからこそ抱き寄せて頭を撫でるとかそう言ったケアは不可能。出来るのは、言葉で慰めることだけだが、気休めになりそうな言葉さえ出てこない。

 

「ほらほら、泣き止むっすよ。転職すれば雰囲気も変わるっす。戻ってきた時にはあいつら誰もあんたのことは覚えてない筈っすから」

 

「うぅ……」

 

 それどころか、さっき の ごーいんぐまいうぇーさん に さき を こされる しまつ ですよ。

 

「あー、スー様もどんまいっす。まぁ、気に病むならこの子の裸、後で見てあげればいいっすよ。それで嫌な記憶は上書きってことで」

 

「待て、何がどうしたらそうなる?」

 

 加えて破廉恥謎理論まで展開されたら、俺はツッコむしかなかった。

 

「聞きたいっすか?」

 

 だが、ツッコミに返ってきたのは質問であり。

 

「っ」

 

「……じょーだんっすよ」

 

 こちらが言葉に詰まる間に悪びれもせず魔法使いのお姉さんは言ってのけた。

 

「はっはっはっはっは、気分は紛れたっすか? って、サクラちょっと待つっす、それ即死呪文の詠唱っすよね? 流石にそれは洒落に――」

 

 直後にしっかり制裁をされそうな感じだったが。

 

「待て、サクラ。流石にザキは拙い。バギクロスくらいに負けておいてやれ」

 

「スー様ぁ?! って、サクラ、待つっす! スー様のもじょーだん、じょーだんっす! つーか、それスー様直伝のあれの構えっすよね? 無理っ、バギクロス二連とか無理――」

 

 それで、少しはまともになってくれると良いのだが。

 

「……まったく、何故ただダーマに行くだけでこうも振り回されねばならんのだろうな?」

 

「マイ・ロード……」

 

「すまん、忘れてくれ」

 

 気遣わしげなトロワの声に頭を振って見せ。

 

「……これは、聞いていた以上だな」

 

 やがて辿り着いたダーマの神殿。囲んでいたはずの森が一部消失し、そこはテント郡になっていた。

 

 




そう言えば神殿に人が殺到して神殿が崩壊する公式4コママンガありましたね、懐かしいなぁ。

次回、第百六十八話「ピチピチギャル」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。