「ルシアさーん! ヘイルさんがお呼びよー!」
モヤモヤしたし、実際ツッコミはしたものの結局のところ俺は抗えなかった。ルイーダさんに呼びだして貰ってしまったのだ。
(あぁぁぁ、俺って奴はぁぁぁ!)
結局安易な方に流れてしまい。
「はーい、もうちょっとお待ち下さいにゃ! お待たせしました、お料理こちらに置いておきますにゃ」
しかも返事をしたルシアさんが続けた言葉を聞く限り、思いっきり勤務中である。
「すまん、勤務時間中に従業員を」
「あら、良いわよそんなこと。勇者シャルロットのお師匠様に冒険者を斡旋したとなれば、この酒場に箔がつくもの」
流石に俺は謝ったが、ルイーダさんはヒラヒラ手を振りつつ笑顔を絶やさない。
「そ、そうか。しかし、仲間の斡旋ならシャルロットや俺も何度かして貰っていると思うのだが……」
「ふふ、確かにそうね。だけど、それはずいぶん前のことでしょ? そして、バラモスが倒され世界は平和になった……ありがたいことではあるのだけど、第二第三のあの子、ミリーさんにって遊び人になった子達にとっては、夢やぶれたようなモノよ? 勇者様に見いだされ、賢者になって名をあげるなんて機会が消失しちゃった訳だし」
そこまで説明されると、流石に俺もルイーダさんの言いたいことが呑み込めた。
「成る程、今回の呼び出しが残された者達への希望の光になると?」
「ええ。まぁ、あなたがとんでもない好色で、スケベ心からルシアさんを呼んでくれって言ったならお断りしていたけど、何処かの女戦士さんの事があるもの。それはまず無い。だとすれば……戦力として仲間が必要な何かがあるのでしょ?」
「っ」
恐ろしい洞察力だった、そして同時に俺は自分がやらかしたことに気づく。
(うわぁぁぁ、俺の馬鹿ぁぁぁぁ!)
流石に平和ムード漂うこの国で王様と繋がってるルイーダさんにゾーマのことは話せない。
(となると、消去法で神竜の方しかないよなぁ)
ただ、あっちに関しても願い事が叶うって話に食いついて分不相応な野望を抱いた冒険者が命を落とすことも充分考えられる。
「ここではとてもでは無いが話せる内容ではない。そして知ったとしても待機してる女共の希望になるかはわからんぞ?」
それでも良いなら話すがと言えば、ルイーダさんはあっさり良いわよと首を縦に振った。
「なら、せっかくだからルシアさんも交えて、商談用の部屋でお話ししましょうか?」
「……あぁ」
どうしてこうなったと思いつつも、俺は頷き、ルシアさんがやって来るのを待った、そして。
「……それは、確かにあなたの言う通りね。自身を倒し、力を証明すれば願い事を叶えてくれる神の竜……初めて聞く話だけど、割と具体的だし」
「まぁ、な。正直に明かすが、シャルロットから師に請われなければ、俺は魔王討伐に加わることなくただその竜に挑む為の旅に出ていただろうからな。そして、その神竜の強さはあのバラモスなど比べものにならん。単独でバラモスを子供扱い出来る猛者でも単身で挑めば自殺行為、それが俺の見立てだ」
「なんだか、凄すぎて何て言ったらいいかわからないにゃぁ」
ルシアさんがなかば呆然としてるが、無理もない。俺は、商談用の部屋にはいると神竜の存在についてルイーダさん達に明かした。そして、願いを叶えるために要求される力量がかなりぶっ飛んだモノになるとも。
「少なくとも勇者一行と同レベルの戦闘力は必須、そして、挑むことが出来るのにも条件があると聞く。話半分で飛び出せば、たどり着けぬかたどり着いたとしても無惨に屍を晒すだけだろうな。故にこの話はとても人には聞かせられん」
何処かの国王や貴族が兵を率いて挑んで失敗したなんて事にでもなれば、そこの領民が軍事費用の負担なんかで迷惑を被るし、叶わぬ夢を求めて彷徨ったあげくのたれ死にする冒険者を量産しては寝覚めが悪い。
「それに、俺にはこのトロワを始め、仲間は幾人か居る」
一人二人なら問題なくても人数二ケタなどどだい無理だ。
(今でさえクシナタ隊って大所帯だし)
そのクシナタ隊も大半は俺達に何らかの恩を感じるお姉さん達で構成されている。
(言い方は悪いけど、恩義があって他言しないと思うからこそ原作知識とか話せたって点もあるからなぁ)
もしその夢見る遊び人さん達を抱え込んだ場合、原作知識を外に漏らさぬように出来るかと言うと怪しいと思う。
(そもそも遊び人だし)
そう言う意味では、もう一人の俺の方が全力で不安要素だが、あちらは性根をたたき直す事が前提。クシナタ隊に入れるつもりも情報を与えるつもりもない。
「ともあれ、俺はその神竜に挑むつもりで居る。必要な戦力を鍛え揃えた上で、な。そして、足りない人員を探して居るところでルシア、お前を見かけた訳だ。仲間は魔法使いと僧侶、双方の呪文を扱える方が好ましい、となれば求めるのは賢者だが、賢者になるには遊び人として一定の経験を積むか、特殊な書物を手に入れる必要がある」
それが、ルシアさんを誘うための表向きの理由。
「ついてきて……貰えるか?」
「……はいにゃ」
問う俺へ、暫し沈黙を挟んで彼女はそう答えたのだった。
まったく、主人公はいつもやらかすねぇ、うん。あはは。
次回、第百六十四話「回収と出立」