強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第十六話「ころころ」

「シュゥゥゥゥッ!」

 

 どれ程ぶりだろうか、このかけ声は。

 

(よくよく考えてみれば自然の洞窟がこっちの都合に何て合わせてくれる訳無いのに)

 

 トロル達は最低限自分が通れるように拡張とかぐらいはしてるかもしれないが、それでも細い場所は二体が横になって通れる幅もない。

 

(だからさ、ごり押ししても仕方ないよね?)

 

 二体同時は中々前に転がってくれないが、脇に避けるようなスペースは当分ない。

 

(人目がなかったらバシルーラを試してみるのも一つの手なんだけどさ)

 

 でっかい荷物を蹴り転がす力仕事である以上、呪文を使う隠れ蓑として変態娘を持ってくる訳にもいかない。

 

(まぁ、もう暫くはこの調子だな)

 

 最初に遭遇したところで四体仕留めたからか、未だに追加の褐色巨人も現れず、転がる巨体が前方を塞いでいるため前方から魔物が来てもそれらが武器兼盾になってくれる。

 

(もっとも、転がす数が三体以上に増えたら俺でもこれ以上転がすのは厳しいかもしれないし)

 

 出来れば新手には来て欲しくない。

 

「んだあ?」

 

 まぁ、そう言う時に限って前方に気配を察知したり声がしたりするんですけどね。

 

「うげっ、おま゛えごろ……ぐんなぁっ」

 

 俺の願いが叶ったのか、はたまた巻き込まれるのが嫌なのか。転がるダブルトロルの向こうから聞こえた声は、ドスドスという重量級の足音と共にこちらから逃げ始め。

 

「ばっ、ばっ、ばっ、はぁはぁ……ま、まだ追っでぐるぅ」

 

 これは良いぞと最初は思ったのだが、足が短いからなのか逃げ足は恐ろっしく遅く。

 

「流石にぶつけたら拙い、だろうな」

 

「そうですね、マイ・ロード」

 

 先程の釘刺しが成功したのか、とりあえず逆セクハラは無しで俺の呟きに変態娘が同意し。

 

「拙いというか、まず目の前で起こってることが人間業と思えないんだけど、オイラ」

 

「ふ、褒められても蹴り転がし中だからな、照れるぐらいしかできんぞ?」

 

「しなくて良いよ!」

 

「そうか、でやっ」

 

 ボケに良いテンポで返ってくるムール少年のツッコミで少しだけ口元を綻ばせると、先が緩やかな上り坂になり、戻ってきた死体を蹴る。

 

「ひぃ、ひぃ、ひぃ、お、おで……」

 

 死体の向こうから聞こえる声を聞く限り、逃げるトロルも相当ばててきているようだが、あの巨体で上り坂をかけていれば当然だろう。

 

「もう少しの辛抱……なんだがな」

 

「あー、この先もう少し登るとあと下りだもんね。緩やかだけど」

 

 そして、直進した先は地下水の流れる一段低い川がある。

 

「勢いを付けて転がしてやればっ、後は自重で勝手に川に落ちてくれる寸法だな」

 

「けどさ、あんなデカブツ投げ込まれたら川が詰まっちゃわないかなぁ?」

 

「ふむ」

 

 ムール君の指摘はもっともだったが、俺達が通り終えてから道に引っ張り上げると言う手だってある。

 

「そこは、結果次第と言ったところか。まだ詰まるかどうかもわからんし、なっ!」

 

 今できるのは、トロルを転がすことだけ。

 

「そもそも、俺としてはどちらかというとこうして転がしてる間にこいつらの着てる毛皮のっ! ……毛皮の服が脱げないかの方が余程気にかかる。トロワは良いとしてもカナメ達に転がる猥褻物を見せる訳にはいかんっ」

 

「マイ・ロード、いくら何でもその仰りようは……」

 

 誤解されないように補足すると、変態娘が若干恨めしげな声を出すが、言動を省みればしょーもないことだと俺は思う。

 

「おばっ」

 

「だいたいなっ、あ」

 

 再び蹴り飛ばした死体が、戻ってこなくなったのは、その直後。

 

「ぎゃあぁぁ、がっ、べっ、ぐ、がっ」

 

 前方で上がった悲鳴が遠ざかり始め、自然に転がりだした死体が後を追いかけて行く。

 

「……下り坂に入ったみたいだな」

 

「だね」

 

 更に遠くの方から、悲鳴やら逃げろと言う声やらが聞こえるのは、気のせいだと思いたい。

 

「マイ・ロード、トロルの悲鳴に集まってきた仲間が居たようですが」

 

「うん、オイラの耳が正常ならこの姉ちゃんと同じ意見なんだけど」

 

 転がるトロルにぶつかったにしては先程上がったような気がした悲鳴は早かった。逃げようとして足を取られて転けたとかだろうか。

 

(だとすると、追加の数体も転がって川に落ちると見た方がいいかなぁ)

 

 全部川ポチャしたなら、せき止められてしまったと見ていい。

 

「……問題はない。溢れた水で洞窟が水没する前に鍵を回収して目的地につけば良いだけだ。村は地上、目的を果たした後にキメラの翼かルーラで戻れば来た道を辿る必要も無かろう」

 

 それに船の方にはルーラの使える人員を残していた筈だ。

 

(大丈夫、この程度のアクシデントなんて誤差の範囲さ)

 

 誤差の範囲だと思いたい。

 

「とにかく、川まで行って確認するぞ? 場合によっては生き残りにトドメを刺す必要もあるやもしれん」

 

 俺は後ろに向かって声をかけると転がった死体を追いかけ。

 

「マイ・ロード! あれを!」

 

「……見ない、俺は何も見ていない。毛皮の服など無かった」

 

 出っ張りに引っかかって脱げた毛皮の服の存在を認識から消し去ると、更に奥へと進むのだった。

 

 

 




お約束は起こるべくして起こるのか。

次回、第十七話「時間制限のあるダンジョンって嫌いですか? 俺は嫌いです。アイテム取りこぼしたりしそうで」


闇谷的にはFFⅤの火のクリスタル関連のあそことか。

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