強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百六十二話「おむかえ」

「ありがとうございました、マイ・ロード」

 

 迎えに来た手前、もう良かったのかと問うことも出来ない俺にトロワは頭を下げた。

 

「この子から話は聞いたわ。色々とお世話になったみたいで――」

 

「大したことはしていない、気にするな。ではな」

 

 トロワが何を吹き込んだもとい報告したのか、確認するのも怖くて頭を振ると、軽く挨拶をし、その場を去る。

 

(おばちゃんと言葉を交わすのは随分久しぶりのような気もするのに、そっけなさ過ぎたかな?)

 

 いや、そんなことはない。長々話し込んでしまえばシャルロット達が戻って来ただろうし、シャルロット達へ渡してくれと差し出したすごろくやり放題券(ゴールドパス)や装飾品は受け取って貰えたのだから。

 

「さて、この後のことだが」

 

「はい」

 

 ちらりと振り返ればすぐに返事をしたトロワを肩越しに見ると、ルイーダさんの酒場に向かうと告げた。

 

(まだシャルロットと鉢合わせる可能性は残ってるし、誰かを勧誘するとか聞かれる可能性がある場所でしゃべる訳にもなぁ)

 

 目的地だけでも告げておけば、説明は酒場に着いてからでも良いだろう。

 

「後のことは酒場に着いてから話す。一部、人の耳には入れたくない話もあるからな」

 

 せっかく人目につかない場所で預かって貰っているのに、もう一人の俺のやらかしたことなんかを他の宿泊客も通るかも知れない宿の廊下や階段では話せない。

 

(ただ、話す時は言葉選びも気をつけないと……遊び人のヘイルの方はトロワからすれば主人の名を騙って悪さをした男になるし)

 

 主を貶められたと激昂して暴走することも充分考えられる。

 

(後は、ルシアさんの方だけど……こっちもスカウトする理由がトロワには説明しづらいんだよなぁ)

 

 身体の持ち主が居た世界では冒険仲間だったかも知れないが、こっちのルシアさんとはほぼ面識が無く、さっき酒場のお客として顔合わせしただけ。

 

(「遊び人だから、賢者にするのに手っ取り早いし、素質のようなモノを感じる」とかでっち上げた方がまだスカウトの理由説明として受け入れられそうな気がする)

 

 そも、誘う理由に関してはトロワだけでなく、ルシアさん本人へ説明する分も居るのだ。普通、勧誘すれば理由は聞かれるだろうから。

 

(割と難しい問題なんだよな。可愛いからとかナンパっぽいのはまずNGだし)

 

 誤解される可能性がある理由は絶対に避けないといけない。

 

(無難に、「パーティーメンバーとして賢者が必要だから」とかそんなところかな)

 

 この理由でも元バニーさんに聞かれた場合、面倒なことが起こるんじゃないかと思ったが、他に妥当な理由を思いつけなかったのだから是非もない。

 

(流れからすると、まずルイーダさんのところに行ってもう一度個室を借りて、そこにルシアさんを呼んで貰う感じで……)

 

 トロワにはルシアさんが来るまでに説明をしておけばいいだろう。

 

「ここはルイーダの酒場。旅人達が仲間を求めて集まる出会いと別れの酒場よ。……それはそれとして、何の御用かしら?」

 

「ああ、実はな……ん?」

 

 部屋を借りたいと言おうとしたところで、ふと気づく。

 

(そう言えば仲間に加えたい場合って、原作ならここで話を持ちかければ済むんじゃ――)

 

 目の前に居るルイーダさんは冒険者の斡旋、つまりその道のプロフェッショナルだ。

 

「仲間に加えたい者が居る。ただ、当人に話を持ちかけたこともなくてな……当人が嫌ならば、無理強いする気はないのだが……」

 

「ふぅん、それで、その人はこの名簿に載っているかしら?」

 

 変則的な形ではあるが、モノは試しだ。申し出てみると、ルイーダさんは一冊の察しを取り出して開き、俺に見せた。

 

「これは?」

 

「連れ出しを希望する、もしくは仲間を募集している人のリストの一つよ。もし、この名簿に居ない人を仲間にしたいのなら、先に二階に行くと良いわ」

 

「成る程な……っ」

 

 原作で言うところの登録所をあたってくれと言うことだろう。納得して名簿に書かれた名前の羅列を視線でなぞると、ヘイルと書かれた名前に×ついていた。

 

「ああ、その人のことは……あなたの方がよく知ってるわね? こちらでも連絡があったから抹消しておいたのよ」

 

「そうか、済まなかった」

 

 あまりに酷い騙りについ連行してしまったが、もう少し冷静になるべきだった。ルイーダさんが処置してくれたから良かったものの、騙された誰かが呼びだして不在に気づかれたら騒ぎになっていたかも知れないのだから。

 

「それぐらい大したことじゃないわ。あなた達がしてくれた事からすれば、ね。それで、ご希望の人は見つかったかしら?」

 

「っ、すまん、もう少……あ」

 

 促され、謝罪しつつ名簿に目を落として二秒。何故か遊び人が固まった場所に探す名はあった。

 

「これだ。このルシアという女遊び人を……しかし、随分遊び人が固まっているな」

 

「ああ、そこはあなた達が魔王を倒したでしょ? それとあの子が賢者になったって聞いて、ここの遊び人の子たちが一斉に自分達の名前を書き込んだ時期があったのよ。第二のあの子を夢見て、ね。中には付き合いで書かされたとか、同室の娘に名前を書かれちゃった娘も居たみたいだけど」

 

「待て、それは色々拙いんじゃないのか?」

 

 前者はともかく、後者は最悪だろう。勝手にアイドルオーディションに書類を送られちゃったとかじゃ有るまいし。

 

 




次回、第百六十三話「彼女の答え」

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