強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百五十四話「であいとわかれのさかば」

「お待たせしました、お師匠様っ」

 

 シャルロットがそう言って出てくるまでに何回アストロンをかけられただろうか。

 

(まさか一日に何度も鉄の塊にされることがあるなんてなぁ)

 

 世の中何があるか解らないだな、ではなくて。

 

「急に場所を変えようと言ったのはこちらだからな。むしろ『急かすことになってすまん』とこちらから謝るところだ」

 

 鉄塊化呪文《アストロン》が解けても片腕をきっちり元バニーさんに拘束されたまま俺は軽く頭を下げると、では行くかと声をかけた。

 

「はいっ」

 

 元気に応じたシャルロットが空いた腕に抱きついてくるが、まぁ元バニーさんが既に抱きついてるし部屋に入るまでその格好だったので、驚きはない。

 

(むしろ「やっぱりなぁ」と言うか、「まぁ、こうなるよなぁ」と言うか……狭いところ通る時とか結構めんどくさいんだけど)

 

 おそらく、シャルロットか元バニーさんのどちらかが先行し横向きになって通り抜けるのだろう。

 

(流石にこの部屋に来た時みたいに二人並んで強引に腕を引っ張ってく形じゃないと……思いたい)

 

 借り物の身体のスペックが高いからこそ何とかなったが、元の身体だったらあれは確実に階段を引き摺られていたはずだ。

 

「とりあえず、まずは宿を出ることだな。シャルロット、部屋の鍵は?」

 

「大丈夫です、かけました」

 

 念のために投げた問いへ即座に答えたシャルロットは元バニーさんと並んで歩き始、って、ちょ。

 

「ではいきましょう、お師匠様」

 

 と声がしたと思えば俺は引っ張られていた。

 

「そ、外に……出たか」

 

 何がシャルロット達を駆り立てるのか。あっという間に宿の入り口前に辿り着き。

 

「しかし、やはりチラホラ人はいるな」

 

 左右を見回し、ぼそりと漏らす。気合い入れてお洒落でもしてくるかと思えば、ほぼ変わらずビキニ姿のままだったからこそ人目にさらすのは避けたかったが、是非もない。酒場に入ればこの数倍以上の視線が突き刺さることだろう。そう考えれば今更だ。

 

「外に出たから目的地を伝えておく。目的地はルイーダの酒場だ」

 

「るっ、ルイーダさんの? ……ミリー?」

 

「し、知りませんっ。そ、そのそう言うことが出来るお店だったなんて」

 

「は?」

 

 割り切って目的地を明かしたとたん何故かシャルロット達が騒ぎ出し、俺はあっけにとられた。

 

「いや、何を驚いているか知らんが、商談などで他所には聞かせられん話をするスペースが無くては冒険者斡旋所を兼ねる酒場として問題だろう?」

 

「えっ?」

 

「しょ、商談?」

 

「ん? ああ。まぁ、防音性に優れた部屋だしな、別に商談以外に使ってはいけないという決まりもない」

 

 事実、このあと行おうとしてるのも商談ではなく説得なのだ。

 

「お、お師匠様。それはそうですけど……」

 

「案ずるな。店主の許可は取ってある、おそらく」

 

「「ええええっ?!」」

 

 何か抵抗があるようだったので安心させるために明かした言葉に返ってきたのは驚倒せんがばかりな二人分の叫び声。

 

「何故驚く? 事前に借りるのだから用途も説明しておかないと先方とて快く貸せんだろう?」

 

「ちょっ、お、お師匠様……ですけど、さっきアリアハンに来たところだったじゃないですか、どうやって……」

 

「一緒にルーラで飛んできた者が他に居ただろう? こんな事も有ろうかと前もって頼んでおいた、ただそれだけのことだ。ルーラの呪文の移動に時間がかかるのは知っているな? 話はその時にした」

 

 そもそもシャルロットと鉢合わせたところから計画に狂いが出ていた訳だが、想定外の事態に備えておいて良かったとつくづく思う。

 

(これなら、辻褄も合うし、後は酒場へ向かえば良いだけ……)

 

 スミレさん達の事はルーラが使えるから便乗させて貰ったお知り合いとでもすればいい。

 

(っと、そうだ。あのバカップルの事も伝えておかないとな)

 

 うっかり、ポルトガからシャルロットへ会いに来た男女のことを忘れるところだったが、はずみで思い出せたのだから結果オーライ。

 

「それと、だ。シャルロット、実はポルトガでお前に会いたいという男女と会ってな」

 

「あ、あう……え? ぼ、ボクに?」

 

「ああ。バラモスに呪いをかけられていたらしいが、お前がバラモスを倒したことでその呪いが解けたらしい。是非ともお礼がしたいというのでな。確か、ポルトガで借りた船に乗ったまま俺の後を追い、ルーラで飛んでいたから、そのうちこのアリアハンへ来るだろう」

 

 ルイーダさんの酒場を選んだのはその二人と引き合わせる事も鑑みてだと俺は補足し。

 

「もし、先に酒場にいるようならあちらとの話が先、出来れば先であって欲しいものだが……」

 

 説得はいつ終わるか解らない。中途半端なタイミングで来訪されては待たせることなるかも知れないし、空気を読まず説得中に乱入なんてこともあり得る。

 

「ともあれ、ここで立ちつくしていても始まらん」

 

 行くぞと促し歩き始めて暫し、元々距離もあまり離れていなかったこともある。

 

「さてと……」

 

「ミリー」

 

「は、はい」

 

 あっさり辿り着き、両腕を拘束されたままどうしたものかと扉を見つめていた俺におかまいなく、両隣の二人は俺を引っ張りつつ入店を果たすのだった。

 

 




いよいよ酒場に到着した三人、果たして主人公は説得を始められるのか?

次回、第百五十五話「三名様御入店で~す」

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