強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百五十話「再会はさよならの序曲」

「ふっ」

 

 そんなこんなで数日が過ぎ、いよいよアリアハンへ旅立つ日は訪れた。目を閉じれば浮かんでくるのはムール君専用下着を身につけ同じ下着姿でムール君と向き合い行った奥義伝授。

 

「やはり、俺もまだまだだな……」

 

 何処か遠い目をしてしまう理由は語るまでもない。シャルロットの説得とかで頭一杯になっててすっかり頭から抜け落ちていたのだ、奥義伝授のことが。

 

(動揺して醜態をさらすことも表向き無かったし、自画自賛じゃないけど我ながら良くやった……よなぁ、あれは?)

 

 心の準備もなく始まって、だが指輪のお陰で下着姿に動揺することなく、無事あの盗賊専用奥義は伝授出来たと思う。

 

「後はムールが魔法使いなり賢者なりに転職してモシャスを覚えれば――」

 

 俺同様、他人に伝授出来るようになるだろう。もちろん、伝授側に熱意と才能がなければ会得は難しいと思うけれど。

 

(「会得出来たなら、やって見せてみろ」とか格好付けて三回パンツ剥ぎ取られたことも……何時の日か懐かしい思い出に変わるのかな?)

 

 うん、ないな。だれ が どう きいて も ただ の くろれきし です、ありがとうございました。

 

「ま、まぁ、いい。とにかく……出来る限りのことはやったのだからな」

 

 トロワも発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)との模擬戦を続け、冷たく輝く息を吐けるようになった。何だかますます成長を続けたらゾーマもどきになるんじゃないかという気もしてきたが、なんにしても精神力を消耗しないそこそこ強力な範囲攻撃を使えるようになったのは大きいと思う。

 

(時間が許すならここから転職させて、呪文のレパートリーを増やすのもアリだし、神竜との戦いについてくるなら、何度か転職させての各種ステータス底上げは必須……原作の神竜戦前提で考えた場合だけど)

 

 カナメさん、スミレさん、俺が所謂一ターン二回行動をした場合、それだけで六人分の戦力にはなる。

 

(時間がないならせめて二回行動だけでもマスターさせて、身を守りつつ自己回復して貰ってるだけでもいけそうな気もするものの、トロワ自身が納得するかって意味じゃ難しいだろうし)

 

 戦力になりたいとトロワが希望した場合、輝く息が神竜に通用するか不明であるが故にも転職は必須だ。

 

「と、こんな事を考えてる場合ではなかったな……」

 

 独り言が多くなる、別のことを考えてしまうどちらも出発が近づいているからこそだろう。

 

「マイ・ロード、お待たせしました」

 

「来たか」

 

 着替えを含む出発の準備を済ませたトロワの声に俺は振り返り。

 

「スー様、おまた」

 

「スー様、お待たせしました」

 

 気配や足音でわかっていた。やって来たのがトロワだけでないことは。

 

「前日に話した通りだ。シャルロットの説得の結果次第で俺はトロワとこの国に引き返すか別行動をとる。その場合、さいごのかぎの確保は頼む。スミレ」

 

「はいはい。何、スー様?」

 

「一応、説得の前に会いに行くつもりではいるが、その前にシャルロットと会ってしまった場合、船長と船に乗って居るであろうバカップルに伝言を頼む」

 

 船長にはスミレさん達と鍵探しに行って欲しいと、あのカップルにはルイーダさんの酒場まで来て欲しいと伝えてくれと俺は告げた。シャルロットの説得は人に聞かせられない内容の話をしなくてはならなくなる可能性が高い。となれば、必然的に話をする場所はあの酒場の商談用個室になる。

 

(オルテガ、シャルロットの親父さんのこととかも話すかもしれないもんな。シャルロットの家ではとても話せないし……)

 

 宿屋にすべきかも迷ったが、シャルロットと二人で宿屋に入って行くとよからぬ誤解を招く気がしたのだ。いつもの流れだと。

 

(こういう発想しちゃう時点で俺は世界の悪意に負けたのかも知れないけどさ)

 

 構わない、事が丸く収まるなら。

 

「話は以上だ。ここに来たということは、準備も出来ているな?」

 

「「はい」」

 

 幾つかの声が重なった。

 

「ならば、行くぞ」

 

 俺は声をかけつつ空を仰ぐと、呪文を唱える。

 

「ルーラっ」

 

 行き先は、アリアハン。呪文によって産まれた揚力は俺達を持ち上げ、再開の地へと運んで行く。

 

「いよいよ、か」

 

 眼下に広がる砂漠が後方へと流れ、高山、森、草原を経て海に出ることを俺は知っている。そして、海を渡った先におそアリアハン大陸があることも。

 

(とにかく、余計なことは忘れよう)

 

 今はシャルロットと会った後のことだけ考えるべきだ。パンツを剥がれたことは忘れよう、特に。

 

(こう、忘れたいこと程中々忘れられないものですよねー)

 

 軽い気持ちで見てしまったホラー映画の内容しかり、見て後悔した鬱展開小説しかり。

 

(事故だから、一回目に間違って握られたのはただの事故だから。そもそもモシャスで写し取ったムール君のあれだから俺のじゃないもんね、セーフだよね? って、思い出してるじゃねぇかぁぁぁっ!)

 

 そして忘れようとしたはずみで意識してしまい、逆に思い出してしまうこのぢごくループ。

 

「マイ・ロード?」

 

「いや、なんでもない。ふむ、何だかんだで到着まではまだあるか……」

 

 孤独な戦いを続ければ流石に気づかれるか。声をかけてきたトロワに頭を振ると前方へ視線をやり、それから更に時間にしておそらく数時間。

 

「あれは、レーベの村だった……なら」

 

 飛行を続け既に後方へ過ぎ去ってしまった村から前方へ視線を戻すと右手手前に塔を配した形で城と城下町が見えた。

 

「アリアハン……か」

 

 着陸の準備をしなくてはと思う中、目的地はどんどん大きくなり。

 

「っ」

 

 城下町の入り口に立つ人影を俺は見つけた。

 

「そうか、そうだったな……お前は」

 

 デジャヴを感じつつ、ポツリと呟く。黒いツンツン頭のその少女(ひと)は明らかに俺の弟子(シャルロット)だった。

 




何と主人公、ムール君にシャ○ニングフィンガー(隠語)されていた?

次回、第百五十一話「シャルロット」

やっぱシリアスオンリーはきついっす。ついギャグががが。

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