強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百四十七話「次の話」

 

「こうなってくると修行を終えた他の面々をダーマへ送るのも考えた方がいいやもな。遊び人は賢者になって貰わねばいかんだろうが」

 

 クシナタ隊のお姉さん達も性格は千差万別。中には勧誘を断れない性格のお姉さんも居たと思う。

 

(性格を変えるアクセサリーを持たせたとしても、転職の時に一度は外すもんなぁ)

 

 根本から性格を変えてしまう本の方なら問題はないが、有るなら自分で使いたいというのが正直なところだし、そもそも入手のツテが思いつかない。

 

「ともあれ、時間は無駄に出来ん。修行出来る者は続けるとして、次はシャルロットの説得、だな」

 

「勇者様の?」

 

「ああ。お前達には話していたと思うが、複数の理由から俺はゾーマを倒すためシャルロットと同行することが出来ん。それ故にシャルロットの元を離れたが、シャルロットは俺の行方を捜し、俺の所在を知った」

 

 そして、数日後、俺はアリアハンで再会することとなっている。

 

「その再会でシャルロットには俺の別行動を納得して貰わねばならん。だが、俺が別行動する理由の全ては明かせぬ。カナメは知っているだろうが――」

 

 俺が言外に示したのは、原作知識による今後の展開のことだ。ゾーマが倒されれば、アレフガルドと今居るこの世界との境目が塞がれ、二度とこちらへは戻ってこられなくなる。つまり、こちらの世界にいる神竜に願いを叶えて貰う事が出来なくなるのだ。

 

(最終的に原作通り、なんてなぁ)

 

 俺はさせたくない。それに、原作と違いこの世界には用意された選択肢が存在しない。よって、神竜への願い事も自由に決められる可能性が残されているのだ。

 

(ルビスが勇者ロトをアレフガルドにかっさらったのは後の災いと戦う者を、ロトの子孫を用意したかったから、だから――)

 

 シャルロットが子供を生んで、アレフガルドで育てるとか一定の条件さえ設ければ、神竜への願い事によってこちらの世界に戻ってこられるようにすることも可能だろう。

 

(それから、オルテガだな。原作通りゾーマ城で亡くなる場合のことも考えておくべきだ)

 

 原作ではゾーマを倒したデータで無ければ神竜には挑めなかった。だが、現実のこの世界でゾーマを倒した後に原作で言うところのセーブポイント、冒険の書を記録した場所まで巻き戻るかは全くの未知数なのだ。

 

「マイ・ロード、全てではないと仰いますと?」

 

「そうだな、お前にもいずれ話す日は来るかもしれん。だが、シャルロットを説得する前にお前へ話すことは出来ん。『何故ボクも知らないのに、トロワさんは知ってるの?』などとシャルロットが言い出す事態になれば、説得自体が危うくなるのでな、許せ」

 

「い、いえ。確かにシャルロット様の立場からしたならそう思われることになっても仕方ありませんね。承知しました」

 

「すまんな。さて、肝心なのはどう説得すればシャルロットが納得してくれるかだが――」

 

 疑問の声を上げたトロワに今は話せない理由を告げて納得させると、俺は再び本題へと戻る。

 

「建前として、願い事を叶えてくれる神竜に挑むメンバーを用意しておくことで、ゾーマとの戦いにおいて生じた被害の備えとすると言うモノがある。むろん、被害がないに越したことはないし、被害がゼロだったら願い事は別のことを叶えて貰えば良いだけだからな。例えば――アンの夫を生き返らせてくれ、とかな」

 

「っ」

 

 俺が何気なく例を示すと、トロワが息を呑んだ。

 

「神竜が叶えてくれる願いは最大で三つとも聞いている。この願いを叶えて貰うべく挑む神竜との戦いにシャルロット達が加わっていれば叶えて貰える願い事は三つだ。だが、勇者一行が別行動で挑戦に全く関わっていなかったら?」

 

「しゃ、シャルロット様達とマイ・ロードや私達で合計六つ叶えて貰えるかも知れない、と言うことですか?」

 

「まぁ、な。あくまで仮定の話だが」

 

 ついでに言うならこれは建前だ。一応、シャルロット達が自由に行き来出来るようにと願い事をしたなら、この願い事六つもあながちただの妄想では終わらないかもしれないが。

 

「勇者クシナタ一行も別にするなら九つまで増やせるな、この理屈だと」

 

 神竜がこれを認めてくれるか、という問題もある。だが敢えて俺は嘯く。

 

「俺はシャルロットを説得するに、これを別行動の理由とするつもりだ」

 

 だいたい、神竜へ挑むため勇者一行から抜けた、逃げ出したのだから全てが嘘ではない。

 

「トロワ、お前達が修行している間、俺はシャルロットをどう説得するかただ考えていた。そして、考え抜いた結果が、先程話したものなのだが、生憎俺はシャルロットではない。そも、主観と客観では見えてくるモノも違ってくるだろう。だからこそ、おまえとカナメにも意見を聞きたい。これでいけると思うか?」

 

 正直に言うなら、自信はない。今までもシャルロットのことに限らず、想定外に振り回されたことは色々あるのだ。

 

(シャルロットも俺の想定通り動いてくれる訳じゃないし)

 

 想定外の穴を埋めるためにも、他者に意見を聞く必要があった。

 

「忌憚なく意見をくれ。説得は必ず成功させなければならん」

 

 ここでシャルロットを振り切れなければ、原作ルートに俺まで引っ張られる可能性もある。ある意味で正念場だった。

 




次回、第百四十八話「準備調い」

シャルロットとの再会の時、来る?

うん、そこまで書けると良いなぁ。

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