強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百四十二話「てれれれてってってー」

「やあっ」

 

 すかさず放った素手での一撃を俺は原作で見たことがあった。

 

(あー、アークマージの攻撃モーションまんまだ)

 

 呪文が使えブレス攻撃まで出来ることを鑑みると要らない子と思えた白打も意外な場所に使いどころがあったと気づく。

 

(うん、本来味方の筈の灰色生き物(じゅもんやぶれすがきかない)系を相手にするって状況の方がイレギュラーな気もするけどさ)

 

 ただ、同時に思う。

 

「トロワにも武器、買ってやるべきかもなぁ」

 

 とも。当人がアイテムを色々作れるので、作っていないと言うことは不要なのかとも考えたが、原作でアークマージがごく希に落として行く宝箱からとある杖が手に入ったような気もするのだ。

 

「杖、か」

 

 店頭に並んでいて入手出来るモノで、そこそこ強いものと考えて思い至ったのは、復活の杖。名が示すとおり道具として使っても戦闘中なら不完全蘇生呪文(ザオラル)の効果がある一品だ。

 

(ただ、扱ってる店のあるのがアレフガルドの何処かだった気もするんだよな)

 

 クシナタさんを始めとしたアレフガルドに行った組の誰かに代理購入を依頼しないと入手は厳しいと思う。

 

「もしくは、シャルロット達に頼むかだな」

 

 会うことになってしまった以上、クシナタ隊のお姉さん達へこそこそアイテム調達を頼む理由は半ば消滅したと言っても良い。無断で逃げ出しておいて、逃げた相手へアイテムの手配を依頼するという厚顔無恥な真似が出来るならと言う話でもあるが。

 

「ありがとう、トロワさん。ミナっ」

 

「はいっ」

 

「ピギィィィ」

 

 とりあえず、模擬戦の方はトロワが殴りかかった間に体勢を立て直したクシナタ隊のお姉さんことミナヅキさんがもう一人のお姉さんの呼び声に応え、振り下ろした武器の一撃で気絶し、模擬戦は三人の勝利で幕を閉じた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……何だか、少し強くなれたような気がします」

 

「あたしも。じゃあ、ちょっと休んだら、はぐれメタル(あのこ)にも回復呪文をかけてもう一戦、ね」

 

「……ふむ」

 

 おなじみのファンファーレは鳴らなかったが、レベルは上がったと言うことなのだろう。

 

「トロワ、お前も修行に励むと良い」

 

「はい、マイ・ロード」

 

「ふっ、まぁ無理はするなよ?」

 

 元気に答える従者を気遣いつつ、くるりとビキニの乱舞する光景に背を向け、俺は鞄から紙とペンを取り出した。

 

「さて、と」

 

 作業には向かない場所だが、成長限界(レベルカンスト)している肉体の借り主である俺に、この部屋でやれることは殆どない。なら、シャルロットの説得内容を含め、今後のことへ思いを馳せるべきであり。

 

「……これも駄目だ」

 

 何枚羊皮紙を駄目にしただろうか。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……んう、もう……無理」

 

「そう、ですね。もう一回休憩しましょうか」

 

 ふと我に返るとクシナタ隊のお姉さん達の荒い呼吸やら妙に艶っぽい声、あと悲鳴なんかが集中力を削いで行く。

 

(わかっていた、筈なんだけどなぁ)

 

 俺が思う以上にこのトレーニングルームでの作業は困難だった。

 

(ときおり、よそみしてた おねえさん が ぶつかって きたり するし)

 

 出来るだけ周囲の音をシャットアウトし己が考えに集中していたとは言え、ぶつかられるまで気づかないというのは俺の未熟さを露呈するモノかも知れないけれど。

 

(だって、耳に毒なんだもん)

 

 指輪のお陰で紙切れの影響はほぼ無いと言っていいが、真っ当な状況だったとしても限度はある。

 

「ねー、スー様、それ何してるの?」

 

 なんてムール君追跡から戻ってきたスミレさんが質問してくる事はなかったが、木石でもない俺にとってお姉さん達の声はそれだけで充分に作業妨害用BGMとなり得たのだ。

 

(まぁ、一応の成果はあった訳だけどさ)

 

 そんなお姉さん達の声とは別に、トロワが俺へ直接話しかけてきた事があった。

 

「氷の息、か」

 

 アークマージが吐いてくるブレスの一段階上のものであり、それが使えるようになったという報告はアークマージもレベルが上がればちゃんと会得出来るモノがあると証明したのだ。

 

「他にも幾つか掴めそうなものがありまして……イシスを出るまでにはマイ・ロードへ必ず報告させて頂きます」

 

 自身の成長も嬉しいのか、どことなく誇らしげに語ったトロワは修行を続け、この日とんでもないモノを会得した。

 

「どうでしょうか、マイ・ロード?」

 

「上出来だ。呪文は確かに跳ね返った。では、次だな」

 

「はいっ」

 

 光の壁を作りだし、スミレさんのホイミやスカラを跳ね返して見せたトロワは頷くと、印の様なモノを組んでから、手を突き出し波動を放つ。

 

「スミレ?」

 

「スカラの効果が消えた。たぶん、スー様の言うとおり」

 

「そうか」

 

 あらゆる補助呪文の効果を無効化する、いてつくはどう。そして反射呪文であるマホカンタ。マホカンタの方は落とす杖を道具として使った時同じ効果があったため、それ程驚きはしなかったのだが、それはそれ。

 

(なんだろう、後はヒャド系呪文会得すれば劣化版大魔王なんですけど?)

 

 この分だと、ブレスももっと強いモノを覚えた上、ヒャド系の最強呪文まで覚えて大魔王に並びそうな気がしてしまう。

 

「しかし……」

 

 トロワがきれいなトロワで良かった。これで前のままだったら、マザコンで変態な劣化版ゾーマに貞操を狙われる様なものだったのだから。

 

(トロワのチートさ考えると、二回行動とか教えたらあっさり会得しそうだもんなぁ)

 

 手数までオリジナルに並んでしまえば、残るは呪文耐性と精神力及び生命力の差ぐらいだ。なんというか、アークマージおそるべしだった。

 




トロワ は レベル が あがった。
こおりのいき を おぼえた。
マホカンタ の じゅもん を おぼえた。
いてつくはどう を おぼえた。

アークマージを強化した結果がこれだよ。

と言うことは、エビルマージを強化すると……?

次回、第百四十三話「あれ? でもそれなら――」

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