強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百三十八話「『あれ、デジャヴ?』と容疑者は首を傾げており、イシス衛兵隊は詳しく事情を追求して行く方針で――」

「こっちは俺に任せてそれを――」

 

 つけろと言う後半を省略し、発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)とトロワの間に割り込み、身構える。

 

(勢いだ、こうなったら勢いで誤魔化すしかない)

 

 ついさっき最悪の状況を想像したばかり。投げた布地がパンツだったなんて酷いオチはないと信じ、俺は発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)を睨み付けた。

 

「従者を辱めた罪、償って貰おうか」

 

 指輪のせいか、ちょっと心が痛んだが、この発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)が加害者なのは疑いようもない。トロワのビキニだって、あれが襲いかかってくるってアクシデントがなければ耐えられたかも知れないのだ。言わば、ビキニの仇である。

 

「マイ・ロード……」

 

「トロワ、隠し終わったなら俺のフォローを頼む」

 

 変則的だが、これをある意味戦闘のようなモノとするなら、俺が発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)と戦って勝ったところで成長しき(レベルカンスト)ってる俺に恩恵はない。だから、トロワと一緒に戦ったことにすればトロワも恩恵を受けるのではないかと思い、振り向かずに声をかけ。

 

「お前のお相手の一匹だ。うっかり入ったのはこっちの落ち度だが、混ぜて貰うぞ?」

 

 ついでに元女戦士の変態修行のおこぼれにも預かるべく、参戦の断りを入れ。

 

(久しぶりな気がするけど、うまく言ってくれよ)

 

 床を蹴った俺は発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)へ肉迫すると片足を上げた。

 

「これが、俺のシュゥゥゥゥッ!」

 

「ピギィィィィ?!」

 

「ぐっ」

 

 吹っ飛ぶ発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)と足に残る衝撃に顔を微かにしかめた俺。本職の武闘家でないこともあるのだろうが、やはり発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)は反動も重みも違う。

 

「ごふっ」

 

「ビギッ」

 

 ただ、吹っ飛んでいった発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)が元女戦士に命中したのは、狙ってやった事じゃない、本当に。

 

「うぐっ、いい一撃じゃ……ないの、さ」

 

 元女戦士はよたよたと身を起こすが、棘つきの服を着てやたら凹凸のあるおろし金を滑らされるハメになった発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)の方は鳴き声さえ発せず、完全に伸びていた。明らかに戦闘不能だ。

 

(うーむ、発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)はともかく、巻き添え喰った方の人には回復呪文をかけてあげたいところだけど……僧侶の呪文が使えること明かして無いからなぁ)

 

 何にしても、ヒントは貰った。そう、発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)を沈黙させてこの騒ぎを収めるには、あのトゲトゲ服向かって残った発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)も撃ち出せばいいといいのだろう。

 

「ところで、その服の予備はここにあるか?」

 

 尋ねつつ、有るとは思っていた。あんな変態(ハード)なトレーニングをするともなれば、服が破れることだって普通は想定する。

 

(まぁ、原作では防具の破損とか無かったけどさ)

 

 あの元女戦士の修行法は常軌を逸してるのだから、原作知識を引き合いに出したりその上に胡座をかいていれば、足を掬われかねない。

 

「あ、ああ。有るには有るけど……どうすんのさ?」

 

「決まっている。床か壁に置いて、そこへ蹴り込む。またぶつ」

 

「っ、見くびるンじゃないよ! あたいが居るじゃないのさ。さあ、どんどん来な!」

 

 そして、おれ は どうやら また やらかして しまったらしい。

 

(なに それ。なんで、おこるの?)

 

 何が元女戦士の心を駆り立てるというのか。矜持かそれとも変態的な趣向か。

 

「ま、マイ・ロード。予備が有るのでしたら」

 

「いや、お前は良い」

 

 いいからね、張り合わなくて良いから。トロワにはきれいなトロワのままで居て欲しい。

 

(つーか、なんで こう なった?)

 

 いや、胸の内とは言え問うた俺がアホなのか。元女戦士と接することを鑑みればこの程度は充分あり得たではないか。

 

(何だか見知った顔に暴力振るうみたいで気は引けるけど、このまままごついてる訳にはいかな……あ)

 

 部屋は防音仕様、ドアは閉まっているというのに俺の優れた知覚力は、この時、それを捉えた、のだと思う。

 

(そう言えば、時間的にもそろそろスミレさん達、戻ってきておかしくないじゃないか!)

 

 拙い、急がなければいけない理由が出来てしまった。

 

「はぁ、はぁ……ホラ、さっさと来な! なんだったら、はぁ、二発一度にでも――」

 

 その上で、元女戦士からの最速。

 

「「ピ、ピィィ」」

 

 怯える発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)に呵責を覚える良心。だが、俺には、俺には時間が残されていないのだ。

 

「すまん」

 

 短く謝罪の言葉を零すと、俺は発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)向けて飛ぶのだった。

 




元女戦士にはぐれメタルをシュゥゥゥゥゥッ! 超、エキサイティンッ!

うん、本当にどうしてこうなった?

次回、第百三十九話「罪と罰」

何故だろう、あの元女戦士側からするとご褒美でしかない気がするのは。

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