強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百三十六話「急げ、間に合わなくなっても知らんぞーっ!」

「……何をしている?」

 

 この場合、かけて至極もっともな言葉はそれだろう。修行しているんだと返される可能性は大いにあったが、俺の知っている修行と違うのだから、問いかけは正当なものだと思う。

 

「えっ、あ……あー見られちまったのかい。ほら、修行だよ、見ての通りのね」

 

 そして、帰ってきたリアクションが、こちら。うん、ふざけてそう評しでもしない限り、こっちが馬鹿になりそうな程、元女戦士は平然としていた。腕輪の効果で性格がごうけつに変わってるからそんな反応なのかもしれないが。

 

「とりあえずそれは止め……っ」

 

 この後トロワ達もくる。流石にこの状況は頂けないと、制止するつもりだった俺の言葉は途中で途切れる。

 

「どうしたってのさ?」

 

「いや……この後他の皆が来るからな」

 

 変態行為にストップをかけたいとは思っている。だが、同時に思い至ってしまったのだ、この元女戦士が仰向けで発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)に責められていたのは、強くなり俺へ借りを返すためとやらではないかと。

 

(俺のために努力してるのを止めさせるとか……)

 

 良心の呵責を覚えてしまうのは、ひょっとして「やさしいひと」だからなのか。

 

(うん、優しい人というか、優柔不断というか、NOと言えない人っぽいよね、この性格)

 

 俺はむっつりスケベ以外の性格ならなんの問題も生じないと、つい先程までは思っていた。だが、間違いだったのだろうか。

 

(ここでもたつくとか……)

 

 このままでは、発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)に嬲られる元女戦士を俺が眺めているここにトロワやクシナタ隊のお姉さん達がやって来てしまう。

 

(拙い、だけど、無理矢理止めさせるのは可哀そ……だから、そんなこと言ってる場合じゃ無いんだって!)

 

 指輪で作られた性格へ声に出さず怒鳴りつけるが、軽くしかりとばしただけで良いならそもそも元女戦士にかけるつもりだった制止の言葉だって途中で途切れはしない。

 

(だあああああっ、我ながらめんどくさいぃぃぃっ!)

 

 時間はそれ程残されていないのだ。いつぞや変身呪文(モシャス)して着せ替え人形にされたから女性の着替えというモノにどれだけの時間がかかるのかはおおよそ把握している。故に、社会的死亡の時間、つまり俺の黄昏が近づきつつあることは分かっている。

 

(何か手は? 最悪、このモザイク処理必須の光景が隠れてトロワ達から見えなくなるだけでも良いんだ。何か、隠蔽する手段は……あ)

 

 かなりやばい状況に追い込まれたからか、俺の脳裏に閃いたのは、この状況に持ってこいのアイデアだった。

 

「まあいい、なら、修行を続けていればいい。ただし、無理はするなよ?」

 

「はん? 何を言っ」

 

 元女戦士は急に方針変換をしたことに理解出来ない様子だったようにも思えたが、それはいい。今すべきは、部屋の外に出ることだ、そして。

 

(えーと、ネームプレート、ネームプレート……)

 

 すぐさま振り返り、部屋名表示がどうなっているかを見る。

 

「ネームプレートを取り替えるか書き換えて、部屋を偽装する……何に出てきたトリックだったかな?」

 

 推理モノの小説か漫画、アニメで使ってた密室トリックだった気がするが、あの見られてはいけない元女戦士の特訓中部屋を隠蔽するのにはうってつけのアイデアだった。奇しくも先程まで居た部屋は、廊下にずらっと並ぶ部屋の一室。

 

「くわえて俺が部屋の入り口で待って居れば、な」

 

 外にいた理由は、中に誰も居なかったからとでもすればいい。

 

「後は、すり替えた後の部屋が魔物の調教部屋とかじゃなければいい」

 

 この確認は重要だ。以前の失敗を考えるなら。

 

「とにかく……思わぬところで時間を浪費してしまったし、さっさと行動に移らねば」

 

 俺が部屋を覗き込んでる、みたいなハンパな状況でトロワ達が来ても拙い。それはそれで覗きをやっていたという不名誉なレッテルと共に俺が終了してしまう。

 

「っ、良かった。ここはまともな部屋か」

 

 ドアを開け、隣の部屋を覗き込んだ俺は、安堵した。中は隣室とほぼ同じ作りのトレーニングルーム。おそらく、同じ様な部屋が並んでる区画なのだろう。

 

(これなら偽装もバレにくそうだしなぁ)

 

 コンコンと軽く壁を叩いてみるが、目的が目的だけに壁は厚そうで、隣の音も漏れては来なさそうだ。

 

「さて、後はプレートを変えてスミレたちを待つだけだな」

 

 作業中にやって来るのではないかと、こうしてほっと息を着いた直後に隣から声がするのではと言う疑念が湧いたが。

 

「スー様、お疲れさま」

 

 なんて言ってスミレさんが肩ポムするような破局は訪れず。

 

「いや、待てよ? あちらには賢者や魔法使いが居る。透明化呪文で……ないか」

 

 疑心暗鬼に駆られて気配を探ってみたが、それらしいものはなし。

 

「ふぅ、これでいい」

 

 今の内とばかりに偽装工作を終えた俺は胸をなで下ろし。

 

「あ、スー様、お待たせしましたー」

 

「マイ・ロード、お待たせしました」

 

 ビキニ軍団の声がしたのは、数分程後のこと、俺はひとまずやってのけたのだ。

 

 




たった一つの真実隠す、身体はカンスト賢者盗賊、中身はパンピーその名も――。

うん、なんでこんなしょーもない隠蔽にそこまで頭が回るんですかね?

次回、第百三十七話「違うよ! 俺は変態という名の盗賊じゃないよ、信じてよ!」

これまでの色々を考慮すると説得力は皆無というミステリー。

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