強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百二十五話「と言うかこの状況、俺、要らないんじゃね?」

「あん? おー、なんだ今日はツイてるなぁ、おい」

 

 おそらくはロクでもない勘違いをしてるであろう、同性のクズはさておき、想定外の事態ではあった。

 

(このまま引き返す、ってのはないな……トロワにあー言っちまった手前、こそこそ戻るってのも格好悪ぃけど、それ以前にまだお互い透明のままだし)

 発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)風呂で強化されたあの元女戦士が町中ぶらついてる勘違い野郎に負けるとはとても思えない。

 

(まぁ、出る幕無いとはわかってるけどよ……)

 

 俺が透明のまま動いて勘違い男を物理的に懲らしめれば女性は助けられるが、自分が何もしてないのに目の前で男が倒されれば元女戦士の方は確実に訝しむ筈だ。

 

(せっかく消えてるのに自分から疑いの目を向ける様な材料作る訳にゃいかねぇ。ここは暫く傍観するっきゃねぇな)

 

 もちろん、無いとは思うが危なくなったら助けには行く。

 

「へへへ、どがふっ」

 

 まず必要なんて無いだろうけどなと思った直後だった、うすら笑みを浮かべたままの男が顔面に拳を叩き込まれて吹っ飛んだのは。

 

「きゃ」

 

「おっと」

 

 勘違い男に掴まれていたからかバランスを崩した女性を元女戦士は殴ったのとは別の腕で支え。

 

「まったく、同じ男でもえらい違いだね……」

 

「あ、あの、ありがとうございました。この人、しつこくて……」

 

「あー、いいよいいよ。実を言うとね、アンタとコイツの事は少し前から見ててね」

 

 嘆息した元女戦士に礼を言いつつ倒れた男に目をやった女性は、ハタハタ手を振った恩人のカミングアウトに「えっ」と驚きの声を上げる。

 

「昔、手違いからとある人にとんでもない言いがかりをつけちまった事があってね、同じ失敗はすまいとちょっと様子を見させて貰ってたのさ。悪かったね、もう少し早く助けることも出来たのにさ」

 

「いえ、そんなこと」

 

 もとおんなせんし の いう いいがかり に ものすごい こころあたり が あるのですが。

 

(とは言え、もう出てく様な必要皆無だしなぁ)

 

 一応、殴られた男が起きあがってどうのと言う展開も考え、倒れた男に目をやるがもう完全に伸びており。

 

「いい男だよ。とんでもない言いがかりを付けたってのにアタイをあっさり許してくれた上、自分が貰えた褒美を使って、アタイを苛んでたものから救ってもくれたんだ」

 

「素敵な、懐の深い人ですね」

 

「ああ。だから、アタイは今、その人の役に少しでも立てたらって思って――」

 

 女性と女戦士のやりとりが推定俺を賞賛する内容に変わり始め、俺は決意した。

 

「立ち去ろう」

 

 と。

 

(つーか、こう照れくさいってレベルじゃねぇぞ? これは)

 

 出来ることなら止めさせたいが、今出て行くのはいろんな意味で拙い。

 

(とりあえず、コイツだけ移動させるか)

 

 聴衆がせめて二人で済むように、俺は転がっていた男に近寄ると、無言でその身体を持ち上げる。

 

(会話に夢中な今の内、っと)

 

 ふん縛って更に人気の無い場所に転がしておけば、話の最中に起きあがって二人に何かしようと思うことも無いだろう。

 

(退散するための口実をくれたって一点についてだけはコイツに感謝してやっても良いいけどよ、長居は無用だな、ホントに)

 

 二人の会話内容が全く気にならないかと言うと嘘になるが、盗み聞きするのは精神的に耐えられそうにない。俺はその場をそそくさと退散すると、男を適当な場所に捨て、トロワと合流すべく来た道を引き返し。

 

「それでそれで、どうなったんですか?」

 

「せかすんじゃないよ! それで、久しぶりに会ったあの人は」

 

 うん、きたみち を ひきかえしたら、ふたり の まえ に もどってきちゃいますね。

 

(うあああっ、どうして気づかなかった、俺! ってか、まだ話してんのかよ!)

 

 シャルロットとか元バニーさん、クシナタ隊のお姉さん達ならまだわかる。

 

(けど、あの元女戦士と一緒に行動したことなんて……)

 

 数える程しかないはず。普通に考えれば会話のネタはとっくに尽きてる筈なのだ。

 

(いったい何を……いや、いけねぇ。今の俺は謎の透明荒くれ男。聞いたら内容に悶絶するとかそう言う危険性をしょっ引いても盗み聞きなんてありえねぇ)

 

 そうだ、今の俺は話題の主とは別人なんだ。そう思わないと精神的にきつい。そして、別人なら荒くれ男は盗み聞きはしない。

 

(そもそもトロワを待たせたまんまじゃねぇか。女を待たせるとか荒くれの風上にもおけねぇ)

 

 去ろう。可及的速やかに、まるで突風の如く。

 

「お話し中? あたしちゃんも混ぜて貰っていい?」

 

「ん、アンタは――」

 

 だから、新たなここにきて登場人物かよとか、しかもお前かよスミレさんとかツッコまない。足を止めたら長居してしまいそうな気がするが、それより何よりあの組み合わせは嫌な予感しかしない。

 

(耐えろ、去るんだ俺。巻き込まれたらロクでも無いことになる)

 

 放置しても酷い事になりそうだと言うのは、この際考えないでおく。

 

(別のことを、別のことを考えるんだ。そうだ、トロワに何を買うか考えねぇとな)

 

 どの宝石ならあのアークマージに似合うだろうか。

 




何だか不穏な空気っぽい?

けど、そんなことより大切なモノがあるっぽい?

次回、第百二十六話「端から見るとデートにしか見えないっぽいよ?」

さぁ、素敵なショッピングしましょ

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