強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百二十三話「城下町で」

「……疲れた」

 

 拍子抜けする程うまくは行ったのだと思う。

 

(いや、疲れたけどその甲斐はあったと見るべきだよなぁ)

 

 部屋に戻るとトロワは眠ったままで荷物が荒らされている様子もなく、今度こそドアに鍵をかけて部屋を出た俺は、その足でムール君の部屋に向かい、鍵を使ってムール君の部屋に侵入。起きたムール君から事情を聞き、俺の部屋で寝たのは夢だったのではないかと自室で寝ていたことを指摘し、納得して貰ってから再び自室に引き返し、今に至る。

 

(しっかし、やっぱあの腐った僧侶少女、本当にロクなことしないなぁ)

 

 話を聞いたところ、ムール君が部屋にやってきた理由の半分ちょっとは、恋愛相談の様なモノだった。

 

「あの腐った少女の吹き込んだ色々が間違いなら正しい恋愛ってどういうモノなのか教えて欲しくて」

 

 と、まぁそんな動機だったようであり、残りは奥義伝授に相応しい強さの目安を聞きたかったとか貰った下着の履き心地と感想なんかが理由だったそうだ。

 

(まぁ、同じベッドで寝てた理由については結局聞き出せなかったんだけどね)

 

 深く踏み込めば、こっちも墓穴を掘る可能性があった。だからやむを得ず、正しい恋愛についてはアリアハンで再会するだろう魔法使いのお姉さんと元僧侶のオッサンカップルにでも話を聞くと良いとアドバイスしておいた。もちろん、両方ついてるという素性は隠すよう釘を刺した上で。

 

(彼女居ない歴が年齢+憑依時間の俺に語れる恋愛論なんてないし、知ったかぶりすれば絶対ボロが出るもんなぁ)

 

 だから、話を聞けそうな知り合いを脳内検索してみたのだが、俺と面識があってカップルもしくは夫婦になってる人もしくは魔物となると、ムール君に勧めたシャルロットパーティーの二人の他、おろちとマリクの夫婦、エピちゃんのお姉さんと元バニーさんのおじさま、戦士のライアスとクシナタ隊のアイナさんに今も船でイチャイチャしてるであろうポルトガ出身バカップル位なのだ。

 

(片方が鬼籍に入ってる、もしくは行方不明も入れるなら、シャルロットのお袋さんとトロワの母親であるアークマージのおばちゃんやムール君の村で別れたオッサンも数にはいるけどさ)

 

 その中から選べと言われると、実際推薦した二人を除けばライアスとアイナさんのカップルぐらいしか残らないと思う。

 

(夫婦のどちらかがなくなってる人に話を聞きに行けなんてのは論外だし、ムール君の村で別れたオッサンに至ってはあの後どこに行ったかわかんないもんな)

 

 色々旅をしてきたつもりで居たが、思ったより頼れる人は少ないと新たな驚きを覚え。

 

(あ、サマンオサの戦士ブレナンとその奥さんって夫婦も居たか。うーん、少ないと思ってるのは単に思い出せてないだけだったりするんだろうか)

 

 可能性はあるものの、近い将来ほぼ確実にあえるという意味でシャルロットパーティのあの二人を選んだのは無難な選択だと思えた。

 

(シャルロット達と再会をした時、ムール君があの二人の相手をしててくれれば、俺はシャルロットと元バニーさんだけを相手に話をすればいい訳だし)

 

 四人相手にするより二人の方が話もしやすいだろう。

 

(まぁ、会った時話すことはまだ纏まってないんだけどさ)

 

 まだ時間はある。

 

「とりあえず、今日はトロワと買い物に出かけて、感謝の品やら何やら買いに行かないとな」

 

 昨日モンスター格闘場の前で元女戦士がやらかしたことを鑑みるに、変装は必須になるだろうけど、それはそれ。

 

(寧ろスミレさん達の目を気にしなくて済むし)

 

 良い機会かも知れない。

 

(別にご機嫌取りって訳じゃないけど、元バニーさんとかシャルロットの分のアクセサリーも買っておこっと)

 

 突然逃げ出したのだ、謝罪の一つもすべきだろうし、手ぶらで謝るよりはよっぽど良い。

 

「んぅ、……マイ・ロード? おふぁようございまふ」

 

「ああ。目は覚めたようだな。朝食が済み次第、変装して城下町に繰り出すぞ?」

 

 あくび混じりで挨拶するトロワへ応じると、俺は鞄へ手を突っ込む。

 

「町へ?」

 

「そう、城下町へ、だ。作成するアイテムの材料や既に作った下着に使った布と糸、買っておくモノはいくらでもあるが、お前一人を残して俺が買い物に出るわけにもいくまい? まぁ、昨日の騒ぎを考えるとお互いに自分とわからない格好で出歩かないといかんだろうが」

 

 盗賊という自分の職業を鑑み、次に顔を隠しても不自然ではない素性を考えるなら、やはり魔法使いがベストだろうが、顔を隠すというともう一つ思い至るモノがある。

 

「あらくれ」

 

 そう、あらくれ者だ。肌色を欠片も露出しないフルフェイスな角つきの黄色い覆面(マスク)に首から上と反比例するようにバンドみたいなものを付けただけのほぼ裸体を晒す上半身。もちろん下半身はちゃんとズボンをはいている。

 

(あの特徴的な覆面さえ手に入れれば簡単に変装出来そうだよなぁ)

 

 何より顔をきっちり覆って視線とかも悟られにくくしてくれるところが良い。紙切れの影響でうっかり女性の胸とかお尻とかに目がいってしまっても、あのマスクならきっと誤魔化して課してくれるに違いない。

 

(モシャスで適当な人に変装してマスクを購入して、上だけ服を脱いでから覆面を被れば――)

 

 あっという間にあらくれものの出来上がりという訳である。そして、俺はそれをやった。

 

 

 




主人公の次なる変装はなんとあらくれ。

ビルダーズの影響でも受けたのか?

次回、第百二十四話「まかり通る」



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