強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第十二話「洞窟を奥へと」

 

「戦闘は出来るだけ避けて行く。洞窟内であることを鑑みると魔物を迂回出来るような空間があるかは疑問もあるがな」

 

 やり過ごせない場合は仕留めるしかないが、その場合も俺がやると宣言して質問はないかとカナメさん達に問う。

 

「そうぴょんね、鍵の隠し場所まで解ってるならもう道は決まってると見て良いぴょん?」

 

「もっともな質問だが、それがやや微妙でな。洞窟の構造が以前のモノとは崩落で変わっている可能性があるらしい。以前の構造であれば聞いているから、それを元に進むつもりではあるものの――」

 

 最悪の場合、崩落して塞がった場所を掘り起こす作業まで必要になるかもしれない。

 

「もう一つの選択肢として、地下墓地と繋がった部分から地下墓地の方に入り、中を抜けて村まで行くというものもある。まぁ、何処で地下墓地と繋がってるかが不明だからこちらを選ぶ場合、何処を通るかが行ってみないと解らない」

 

 下手をすると予備の鍵の隠し場所までの道がムール少年の言うちょっとの寄り道で済まなくなるんじゃないだろうか。

 

「一番嫌なパターンは鍵の隠し場所も本来の通路も地下墓地も全てが崩落で塞がってるってケースだが」

 

「スー様、いかにも有りそうな嫌なことを口に出すのは――」

 

「そうだな、すまん」

 

 俺もまだまだ迂闊みたいだ、考えすぎてフラグを立てかけてしまうなんて。

 

(けど、あんなでっかい魔物が居るぐらいだもんなぁ)

 

 横幅を取るトロルからすれば、崩落して道が塞がっていたなら、一大事。トロワと話した時に報告ぐらいすると思うのだ。

 

(有るとすれば簡単に片付けられる、報告しなくても問題ない規模ってとこだろう)

 

 そして、純粋な力比べをしたならこの身体はあの褐色巨人に勝てるスペックを持っている。

 

(だから、怖いのは既に崩れてる場所よりも崩落に巻き込まれるケースだ)

 

 落石のダメージ自体は防具で殺せても、埋まって窒息してしまったらどうしようもない。

 

(自分へのダメージ覚悟で至近距離から攻撃呪文をぶっ放すって最終手段もあるけど)

 

 使う機会はない方が良い。

 

(って、これもフラグになりかねない……うん、考えるのは止めよう)

 

 案ずるより産むが易しと言う奴だ。

 

「ひとまず、鍵の隠し場所に向かうぞ? 地下墓地通過のルートはあくまで最終手段だ。鍵を見つけてまずは鉄格子の所まで行く」

 

「「はい」」

 

「承知した。世話をかけるな」

 

 クシナタ隊のお姉さん達の声に続く形で答えたオッサンが頭を下げてくるが、ついて行くと決めたのは俺なのだ。

 

「気にするな。連れの訓練にもなるしな」

 

 しかも魔物を倒せば少量とはいえ、同行者に経験値が入るし、魔物がお宝を懐に忍ばせているかもしれない。

 

(まぁ、アンデッド系特にゾンビ系はあんまり見たくないけど、俺にはトロワが居るしなぁ)

 

 近寄りたくないって理由で呪文攻撃で一掃してしまい「こいつの呪文攻撃でした」と言って誤魔化す手もある。

 

「さて……と、いきなりか」

 

 オッサンの礼に応じて歩き出してホンの数分。俺が、魔物の気配を察知したのは、やはりというか何というか、先程褐色肌の巨人を倒した場所。

 

「マイ・ロード」

 

「ふ、あの死体が見つかったと言うところだろうな、おそらくは」

 

 先行するならついていきますとでも言おうとしたか、俺を呼ぶ変態娘に一度振り返って音は立てるなよとだけ言い。

 

(うーん、一匹見れば何とやら。たぶんトロルだと思うけど)

 

 あれはただでさえ場所を取る。

 

(死体と生きてるので二匹になるとちょっと狭いな)

 

 仲間の死体を発見すれば警戒だってするだろうし、迂回は諦めた方が良いだろう。

 

(倒せば死体の消えるゲームとは違う、解ってるけど死体が残るってホントに厄介だわ)

 

 経験値が入るなら皆殺しヒャッハーも一つの選択肢ではあったが、この死体が残るというのがかなりの曲者だった。

 

(ジパングの洞窟だったら煮え立った溶岩に放り込んじゃえば良かったけど)

 

 あそこはそもそもこの洞窟より幅があった。

 

(こっちは代わりに無茶苦茶涼しいけどね)

 

 まぁ、溶岩の煮えたぎった洞窟と比べれば殆どの洞窟が涼しくなるが、それはそれ。

 

「へべっ」

 

「ふぅ……やはりこの程度か」

 

 気配を殺して忍び寄り、爪で突き刺せばそれだけで褐色肌の巨人は断末魔を上げ、棍棒を取り落として崩れ落ちる。

 

「しかし、やはり問題はこの巨体だな。海に捨てるのも面倒だが横に並ぶと通行の邪魔でしかない。いっそ積むか?」

 

 俺のちからならおそらく重ねることは可能だ。

 

(可能なんだけどさ、今気づいたけど……人型の魔物二体重ねるってあれだよね?)

 

 何処かの腐った僧侶少女が大歓喜というか、うん。

 

(きっと「重ねる」とか言う言葉のせいだ)

 

 邪魔にならないように積もうと思っただけなのに、一度連想してしまうとそのイメージがぬぐい去れない。

 

「マイ・ロード? どうされました?」

 

「いや、何でもない。何でもないが、胸を押しつけるな」

 

 とりあえず、通行の邪魔っぽくはあるが、二体横たわっていても間を通り抜けるぐらいのことは出来る。

 

(進もう、奥へと)

 

 精神的疲労を覚えつつも俺はオッサン達と合流すべく、死体を残して引き返す。

 

(しかし、一つ学んだな。この洞窟、死体を長時間放置しちゃ駄目みたいだ)

 

 死体とそれを発見した生きたトロルで道がふさがりかねない。

 

(最初の失敗はムールと会って話をして時間をかけたからだけど)

 

 同じ失敗はもうすまい。そう思った矢先だった。

 

「ん?」

 

 脇を通り過ぎようとした岩の影にそれを見つけたのは。

 

 




おや、主人公が何か見つけたようだ。

次回、第十三話「決意ってしてみたけど果たされないこと意外に多い」



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