強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百十九話「みんなで、つくりあげるもの」

「ホイミスライムを増やしてお風呂にする」

 

 予想していた中でもど真ん中と言うべきか。

 

「却下だ」

 

 スミレさんの意見を俺は即座にはね除けた。

 

「……と言うか、まだ諦めてなかったのか、触手つき水色生き物(ホイミスライム)風呂」

 

 ここまで来ると何故拘るのかを聞いてみたいような気もしてくるが、きっとロクでもない理由だろうとも思え。

 

「まぁいい。誰か他にアイデアはないか?」

 

「うーん……」

 

「ちょっと、いいかい? あたいに一つ考えがあるんだけどね」

 

 さらりと流し、他者へ話を振ってみるも、挙手する者はおらず。

 

「ふむ、案のある者はいない、か」

 

 こう、元女戦士が挙手したような幻覚が幻聴つきで見えた気もしたが、俺は無理もないかと呟いた。

 

「ねぇねぇ、このお姉さん何かアイデアが有るみたいだよ?」

 

 だと言うのに、わざわざ触手で人の二の腕をつんつん突いて話しかけてくるのは、スミレさんが借りてきた生き物の一匹。

 

(そうですか、するー は させてもらえないんですね、わかります)

 

 提案者があのせくしーぎゃるだと言う時点でまともなアイデアじゃないことはほぼ確定と見てよいだろうが、ここまでされては流せない。

 

「何だか流されそうになった気もするけどねぇ。まぁ、安心しな。今回のアイデアにゃあ自信があるんだよ」

 

 そうですか。

 

(「おれ は いやなよかん しか しないです」って、しょうじき に いえたら、どれだけ き が らくだろうなぁ)

 

 遠い目をしたくなったが、現実逃避しても状況は変わらない。俺はただ心に鎧を着せ、衝撃に備えた。

 

「ベホマスライム風呂ならどうだい?」

 

 魔物のグレード上がっただけじゃねぇか。

 

「……俺はどこからツッコめばいい? スミレが借りてきたコイツらは結局どうするんだって所からか?」

 

 何の解決にもなってないんだから、俺の主張は正当だと思う、思うが。

 

「おっと、やっぱりそうくるかい? 大丈夫、その辺りも考えてるさね。まず、追加のホイミスライムを借りてきてホイミスライム風呂を作り、ベホマスライムも借りてきてベホマスライム風呂も作る。ベホマスライム風呂は上級者向けって訳さ」

 

 ひょっとして、こいつら と まとも に はなし を しようと おもったのが、まちがいでしたか。

 

「初心者向けと上級者向けとか、それは盲点」

 

「だろ? もちろんそれだけじゃないよ。ちゃんと罰になるかどうか言い出しっぺのあたいがまず体験して確かめてみ――」

 

「却下だ、却下。どう考えてもお前が入りたいだけだろうが!」

 

 予想通りというか何というか。

 

「じゃあ、スー様は何か代案有る? ホイミンさん達の仕事も有るもので」

 

「っ、それは……」

 

「人の案を取り下げるなら、代案を出すべきとあたしちゃんは思う」

 

 俺をじっと見つめるスミレさんの言は正論だからこそタチが悪かった。

 

(代案……触手つき水色生き物(ホイミスライム)に出番があってなおかつ無難なお仕置きかぁ)

 

 お仕置きと言われて真っ先に思いついたのは、クシナタさんのお尻ペンペンだが、生憎クシナタさんはここには居ない。

 

(まぁ、居ないなら他の人なりそれこそそこの触手つき水色生き物(ホイミスライム)が変わりにやってくれれば良いんだけどさ。調教がどうのって誤解を招いた後だってのがな)

 

 また誤解を生じさせてしまうんじゃないかと思うと、迷いが生じる。

 

(なら、それこそもっと良い案を思いつけばいいだけの話だけど)

 

 そう簡単に思いつけるようなら苦労はしない。

 

(トロワみたいにきれいになってくれればなぁ。もっとも、ホロゴースト借りてきて取り憑かせる訳にもいかないし)

 

 例え借りられて効果があるにしても、トロワのトラウマをほじくり出すような案は出せず。

 

「……ここは格闘場、傷ついた魔物達の治療を延々と行うというのでどうだ? まぁ、強制労働のようなものだな。そこのホイミスライム達はコーチ兼見張り役と言うことで」

 

「えー」

 

 出来るだけお色気方面と無縁になるようにと考え、絞り出した案に待っていたのは、スミレさんのいかにも不満げな声だった。

 

「スー様、手ぬるいとあたしちゃんは思う」

 

「あたいも同感だね。ただ回復呪文を使うだけじゃ、ちょっと激しい戦闘と変わらないじゃないのさ」

 

「っ、ならどうする? 『人の意見を取り下げるなら、代案を出すべき』なのだろう?」

 

 俺からすれば、たった今口にした案だって割と良くできたものだと思ったのだ。ダメ出しされて良い気がするはずもない、だから相手の言葉を利用してそっくりやりかえしたのだが。

 

「だったら、ベースはスー様の案で、それをあたしちゃん達が改修する」

 

「は?」

 

「スー様はそれが良いと思った。あたしちゃん達は手ぬるいと思った。だったら、スー様の案を罰として丁度良い具合の厳しさに引き上げれば問題はなくなる」

 

「なるほどね、良いアイデアじゃないのさ」

 

 あっけにとられた俺の前でスミレさんが胸を張れば、そんなスミレさんを元女戦士が賞賛し。

 

「じゃあ、ボク達はそっちのニンゲンの女の人がサボったらお尻をひっぱたけばいいんだね?」

 

「暇だったら時々くすぐっても良い。あたしちゃんが許可する」

 

 ああでもないこうでもないと議論を重ね、暫し後。魔改造された俺の案について確認する触手つき水色生き物(ホイミスライム)へスミレさんがとんでもないことを言っていた。

 

「ふっ、あたいらみんなで考えた罰だ。これであいつもきっちり更生してくれる筈さね」

 

 とりあえず、おまえ も こうせいしろ って いっちゃ だめ なんだろうか。

 

「……帰る、か」

 

「マイ・ロード?」

 

 罰は決めたし、見張りはあの触手つき水色生き物(ホイミスライム)達がしてくれる。よって、俺がとどまる理由はなかったし、何より精神的に疲れた。

 

(帰って、寝よう)

 

 ピンチを切り抜けた達成感を感じるような余裕もなく、寧ろ敗北したようにトボトボと、俺は部屋を出て宿に向かい歩き出すのだった。

 




 次回、第百二十話「で、気が付いたらトロワと同じベッドで朝を迎えていたりするんですね?」



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