強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百十六話「お仕置き出来て経験値的にはしょっぱく半永久的に機能するホイミスライム風呂ってのを考えてみたんだが」

 

「まぁ、ロクでもないとは思っていたが……」

 

 痛む頭に思わず額へ手を当てる。ムール君の話してくれた内容はそれだけで充分すぎる程の精神攻撃だった。ちなみにきれいになったトロワは免疫がないのか三分の一にも達しないところでギブアップし、詳細を聞いたのは実質俺だけだが、本当に酷い話だった。

 

「そうなんだ。確かに何で男の人同士が」

 

「ストップ、それはもういい」

 

 おはなし を おもいだす ので やめてください、とは言えず俺は声と仕草でムール君の言葉を止めると、それよりもと続けて話題を変えることにした。

 

「下着の具合はどうだ?」

 

「えっ? あ、うん、すっごく動きやすいけど……」

 

「そうか、ならいい。モシャスして俺が確認にはいてみることも考えたが、実物を前にしない変身はイメージに引っ張られるところがあってな」

 

 当人にはいて貰って意見を求めるのがよいと判断したと説明すると、着替えの方ももう良いかと問うてみる。

 

「うん、いいよ。……一応、戻ったら修行するつもりだから下着はいたまんまだけど」

 

「お前にやった下着だ、そこは問題ない。強いて言うなら、後でトロワに礼を言っておいて欲しいと言うぐらいか」

 

「あ、ごめん。そう、だね……ありがとう、トロワさん。これなら問題なく修行に励めそうだよ」

 

「ん?」

 

 俺に言われてと言う形ではあるが、トロワに感謝の言葉をかけるムール君を見て、ふと気づく。

 

「ひょっとして、あの腐った僧侶少女と居たのは、それも理由か? 激しい動きに適応した下着が無かったから、と」

 

 模擬戦も激しい運動ではある。そして、激しい運動をムール君がした時の辛さは、俺自身も奥義伝授の際思い知らされているのだ。

 

(そもそも、身体能力だって低レベルって意味合いで一部を除く他の面々に遅れをとってたもんなぁ)

 

 落ち零れてしまった結果が、あの腐れ少女と一緒に過ごす流れに繋がったのだとすれば、落ち度があるのがどちらかは言うまでもない。

 

(まぁ、入り口であった踊り子のお姉さんのことを思い出すと修行をサボって良い理由にはならないんだけどさ、その辺はあの腐少女が強引に誘ったんだろうし)

 

 やっぱりあの僧侶には釘を刺す意味でもきっちりお灸を据えておくべきだろう。

 

(何がいいかな? モンスター格闘場って場所を考えると、モンスターを使ったお仕置きってのもいいなぁ)

 

 出来れば二度と変な気を起こさないぐらい凶悪なものをなんて思ったのは、決して八つ当たりからとかとかじゃないと思う。

 

(その結果、思いついたのが……触手付き水色生き物(ホイミスライム)風呂ってのは、あれだけどね)

 

 やっぱり、忌まわしい紙切れの影響が残っていたからなのか。

 

(……どうしても代案を思いつかなかったら、格闘場に居るクシナタ隊のお姉さん達の力を借りよう)

 

 あのおろちにさえトラウマを植え付けたお姉さん達なら、きっとあの腐少女だって更生させてくれる、そう思いたい。

 

「……とりあえず、着替えも済んだというなら格闘場の方に戻るか。その下着であれば修行を再開しても何の問題もないのであろう?」

 

「……そうだね。あっ」

 

 頷きつつもムール君は突然声を上げ。

 

「ん? マントなら格闘場まで貸しても構わんが……」

 

「や、そうじゃなくて……オイラの部屋もこの宿にあるからさ、服とってきてもいい?」

 

「……なるほどな」

 

 皆が泊まっていると聞いていたのに、何故思い至れ無かったのか。気恥ずかしさを隠しつつポツリと漏らした俺は、構わんと許可を出し。

 

「俺達は先に宿の入り口に向かう、合流はそちらでしよう」

 

「うん」

 

 追加の提案に返事を貰って実際に合流。

 

(……その後何のハプニングもなく格闘場の入り口までは戻ってこられたんだけど)

 

 誰に向けてか、説明のような独り言を胸中でしてしまった理由は他でもない。

 

「おや、もう戻って来たのかい? 安心しな。事情はあたいがちゃんと話しておいたよ」

 

 得意げな元女戦士が続けて放った言葉にあったのだ。

 

「『あんたがロクでもないことをやらかしたあいつを調教する』ってね」

 

 なに ぜんりょく で ごかい しか まねかない こと いって くれやがってるんですか、おまえ は。

 

「スー様、お久しぶりです」

 

 もちろん、ロクでもない発言をサラッとスルーして会釈してくれるおねえさんも居た。

 

「スー様、あの子を調教するって本当ですか?」

 

「私、カナメお姉様にだったら――」

 

「流石スー様、あたしちゃんちょっと尊敬する」

 

 うん、だけど大半が明らかに誤解をして下さっている模様であり。

 

「そんなスー様のためにあたしちゃんも考えてみた。ホイミスライム風呂とか」

 

 なんで紙切れの影響を受けた俺と同じ発想に至ってるんですかスミレさんと叫びたくて仕方なかった。

 

「ん゛ぅーっ、んん゛も゛ぅー!」

 

 縛られた上猿ぐつわされたまま元女戦士に担がれてるお仕置きすべき相手はまぁ、態の良いさらし者になってるがあれは自業自得だとしても。

 

(なんで おれ まで ふうひょうひがい うけない と いけないんですかね?)

 

 あれか、うっかりあんな部屋に入っちゃったのが悪かったのか。それとも、この元女戦士に頼んだのが間違いだったのか。

 

「……マイ・ロード」

 

 トロワの気遣わしげな視線が胸に痛かった。

 

 




次回、第百十七話「再エンカウント」

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