強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百三話「顔合わせ」

「初めまして、ご主人とお弟子さんには大変お世話になりました」

 

 その発言へ即座にツッコミを入れたくなった俺は果たして間違っているのだろうか。

 

「ご主人?」

 

 色々言いたいことはあったが、まずはそこだった。

 

「えっ、違うんですか? 私の主人と呼ばれていらっしゃるので、てっきり」

 

「トロワは従者だ」

 

 サブリナさんの恋人の勘違いに嘆息しつつも俺は誤解を修正しておく。

 

(私の主人って、まさか旧トロワ……こういう勘違いをされること前提であの呼び方を?)

 

 トロワは元々バラモス軍の軍師を任されていたアークマージなのだ。あれが仕込みだったとしても驚きはしない。

 

「申し訳ありません、マイ・ロード」

 

 多分俺の思考を呼んだのであろうトロワが横から謝ってきて、俺は気にするなと宥めつつ、顔を上げトロワに向き直る。

 

「それで、この二人はバラモスに呪いをかけられていたらしい。まぁ、バラモスが倒されたことで呪いは解け、恩人である勇者シャルロットに礼をするためアリアハンへ渡る手段を探しており」

 

「そこでお二人と出会ったのですわ。ですが、ヘイル様もお人が悪いです。あの勇者シャルロット様の師であることを黙っていらっしゃるなんて……」

 

 サブリナさんは俺の説明を継ぐと、少量の非難の色を添えた視線で俺を見る。

 

(まぁ、ポルトガで謁見諦めて逃げなかった時点でね、うん)

 

 めのまえ の かっぷる に しょうたい が ばれること は よそうしてましたよ。

 

「ともあれ、サブリナはともかくカルロスとお前は初対面だからな。こうして顔合わせの席を設けた……と言う訳だ」

 

 トロワが酔いつぶれていなければ航海初日に顔合わせ出来ていたのだが、酒を勧めたのは俺。だからこそそのことを持ち出す気はない。

 

「本来ならヘイルさんにも何かお礼をしたいところなんですが」

 

「あいにく、差し上げられるモノは、この誘惑の剣ぐらいしかありませんの」

 

「それを俺に渡してはシャルロットへ渡すモノがなくなるのだろう? それに誘惑の剣は女性だけが扱える剣とも聞く、ならば俺には扱えんし、バラモスを倒したのはシャルロットだ。気持ちだけ貰っておこう」

 

 俺が腐らせるよりよっぽど良いし、酔っぱらうと変態なアイテム作成者(きゅうトロワ)になってしまうトロワを従者にしている俺の手元に置くよりはシャルロットが持っていてくれた方が余程安心出来る。

 

(混乱ではなく本当に持ち主に惚れさせる誘惑の剣の改良版とか作り出されたら洒落にならないし)

 

 トロワの技術力なら、冗談抜きで出来てしまいかねない。

 

(そもそも、ポルトガに来てばったり都合良くこの二人と会うとか、世界の悪意ってそう言う展開を狙っていたんじゃないだろうか)

 

 間違えてお酒を飲んでしまったトロワがこっそり貰った剣を改造。

 

(剣で誘惑された俺は気が付いたらトロワと一糸纏わぬ姿で一緒に寝て……)

 

 世界の悪意なら、それぐらいやりかねない。

 

(シャルロット達にはアンも同行してるだろうし……ありあはん で とろわ に てをだしてたこと が ばれてだいもんだい に なるんですね、わかります)

 

 危ないところだった、と思う。

 

(だが今回は俺の勝ちだ、世界の悪意)

 

 誘惑の剣がこちらではなくシャルロット達の方の手に渡れば手違いはほぼ起こりえない。

 

(誘惑の剣の詳しい情報を得てトロワが独自に再現しちゃうって展開も無いと思うし)

 

 俺の手元に有れば観察する時間も存在するかも知れないが、シャルロットに渡すとなれば側で見ることの出来るのは、アリアハンへ到着するまでの一週間足らずだ。

 

(しかも所有権はまだサブリナさん。シャルロットへのお礼の品にするなら――)

 

 普通、厳重に管理する。俺が見せてくれと言えば話は別だが、やはりトロワがあの剣を研究する機会はほぼない。

 

「さて、これで顔合わせも済んだな。シャルロットの師であることを聞いたなら俺達の旅の目的と日程もだいたい聞いていると思うが」

 

「はい。まずはこのままエジンベアに向かうのでしたよね?」

 

「ああ。その後、イシスに立ち寄り、数日あちらで過ごしてからアリアハンだ。まぁ、イシスは砂漠の国だからな」

 

 カルロスの言葉を肯定し、肩をすくめるとついて来ずにこの船で過ごしていても構わないと俺は続け。

 

「何にせよ、エジンベアにつくまではこのまま船旅だ。そして、到着後だが……あの国の人間は異国の者を見下す傾向があると聞く。俺は用があるから行かざるを得んが、同行者が多いのは都合が悪い。人数が多ければ目立つからな。相手がこちらを見下すような連中ではもめ事の種になりかねん」

 

 流石にレムオルを使っての壺泥棒を見られる訳にはいかないので尤もそうな理由をつけて二人で行く旨を伝えておく。

 

(トロワは絶対ついてくるだろうしなぁ)

 

 旧トロワでなければきっと問題はないと思う。

 

(いや、下手したら助けになるぐらいかもな。かわきのつぼを手に入れるためのパズル、解き方なんてもう覚えていないし)

 

 覚えてるのは、岩を押して運び、解くタイプのパズルだったことと、失敗した時は階段を上って降りれば状況がリセットされてたことぐらいだ。

 

(羊皮紙とペン、インク壺の用意は必須かな。原作みたいに失敗してやり直せる保証はないし)

 

 まずは紙上で解く。

 

(そして、上手くいったら壺を、と。そっちは二人で考えられるから良いとして問題はシャルロット達と再開した後での説明の方かな)

 

 船は進み、時は流れるが、考えておかなければいけないことはまだ残っていた。

 




せかいのあくい「解せぬ」



次回、第百四話「到着」

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