強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第九十九話「強いられる選択」

(心を痛める、かぁ)

 

 シャルロットの方はその言いようにも納得はいった。だが、国王の方が心を痛める理由が分からない。

 

(表面的にシャルロットに同調しただけとか?)

 

 それとも平和になったら囲い込もうと思っていたのに逃亡されて意気消沈したとかだろうか。

 

(表向きは同調しておきつつも中身は全く別なんて有りそうな話だけど)

 

 シャルロット達が大魔王ゾーマの存在を話して仕舞って、原作同様無気力になったのを俺の逃亡にかこつけて誤魔化してる可能性だってある。

 

(まぁ、推測は色々出来るけど、まず決めておかなければいけないのは、このまま謁見するか否か、か)

 

 この話の流れからするとさっき再会した船長はアリアハンまでの伝令として呼ばれてたのだと思う。

 

(予定通りエジンベアに向かうならさっさと姿を現さないと拙いよな)

 

 船長が居なくては船は動かせないのだから、その船長がアリアハンまでルーラで飛んで行ってしまうと、出航が二日遅れてしまう。

 

(あの老人が空を飛んで行く姿は見てないし、俺が船を借りに来たことは伝えてある)

 

 王命とかには逆らえないだろうが、アリアハンに飛べと言われたなら俺が船を借りたいことぐらいは伝えてくれると思いたい。

 

(その上で俺が姿を現せば、アリアハンへ連絡はされるだろうけどエジンベアには行ける筈)

 

 城に来る前話をしたカップルのこともある。

 

(元々アリアハンへ行く予定はあったんだし、後日アリアハンへ寄るって言っておけば――)

 

 おそらくこの場は何とかなる。

 

(そして一週間有れば、シャルロットと再会することになっても心の準備には充分。だいたい時間的余裕も無いんだ)

 

 迫られた二択だが、実質的にはほぼ一択に近く。

 

(ここで逃げた場合、岬の座礁船を直して船を確保したとしても動かす船員が居ない。シャルロットにお礼のしたいカップルも送り届けられないし、ここに手が回っていたって事はまず間違いなくイシスにも捜索の手は伸びてるからあっちでも追っ手を気にしなきゃいけなくなる訳で……)

 

 ハンパな逃げ方をしたツケってことなんだろう。

 

(逆に言えばシャルロットに会う覚悟さえしてしまえば後はほぼ予定通りに行く訳だし、なりふり構って支障をきたすよりはなぁ)

 

 透明化呪文(レムオル)の効果時間が切れるのを待ちつつ、城の中から現れた面々の死角に回り込んだ俺はもう決断していた。いや、そんな男らしい物ではなく、半ば諦めただけなのかもしれない。

 

「トロワ、すまんな」

 

「おお、ヘイル様――」

 

 呪文の効果時間がやっと終わり物陰から出た俺を待ち受けていたのは、アリアハン王の使いと名乗った男性からの事情説明。内容の方はさっき隠れて聞いていたのとほぼ同じであり。

 

「話は理解した。だが、こちらも目的があって旅をしている。シャルロットには手紙を残しているし、別れた知り合いと日時を決めて合流するという約束がある。急にアリアハンへ戻れと言われても応じかねる」

 

 アリアハンへお戻り下さいと言う要請にはまず首を横に振った。

 

「で、ですが……」

 

「勘違いするな。すぐには無理と言っただけだ。既に他者としてしまった約束を撤回しようにも連絡手段がないし、アリアハンへは一度立ち寄る予定がある。八日だ、八日後に俺達はアリアハンに立ち寄る予定になっている。話があるのならその時でよかろう?」

 

「……承知致しました」

 

 早まって食い下がろうとした王の使いも、足を運ぶとこちらが約束を持ちかけたことでそれ以上食い下がるのは下策と見たのか、すんなり引き下がり。

 

「なら、この話はこれまでだな。それで、国王への謁見だが……」

 

「はっ、はい。お会いになるそうです。どうぞこちらへ」

 

 門兵の方へと視線を戻せば、奥を示され。そこからは驚く程すんなりと事は運んだ。

 

「……船長はエジンベアへは?」

 

「生憎と行ったことがありませんでな、申し訳ない。立ち寄ったことが有ればルーラの呪文でお送り出来たのですが」

 

 出航準備中の船の上で聞けば、船長の老人は俺へと頭を下げ。

 

「いや、船を借りられただけでもありがたい。そもそも詫びるのは俺の方だ、愚問だったな」

 

 そう、船長が口にしたように立ち寄った事があるならわざわざ船を出さずともルーラの呪文で飛んでいけば良いのだから。

 

(これで一つを除いて予定通り事は運ぶ)

 

 同行する旨を伝えに来たカップルは旅の支度をして戻ってきますと言い残して立ち去り、トロワは食料を積み込み、空いた波止場の一角でムール君の下着を作っている。

 

「さて、と……そろそろ飯時、か」

 

 せっかくの大きな町だ。旅の身の上、まともな食事にありつけるのは何処かの町や村に立ち寄った時だけなのを鑑みれば、たまには贅沢するのも良いだろう。

 

(まぁ、この国は屋台の料理も悪くなかったけど……あ)

 

 いつかシャルロットと食べた白身魚の揚げ物を思い出し、気づく。

 

(そう言えば、この国の料理がうまい店とか知らないわ。うーむ……)

 

 少し考えた後。

 

「船長、この町で料理のうまい店というと何処になる?」

 

 俺はすぐさま隣の船長を頼ったのだった。

 




主人公は決断し、船は出航準備に入った。

次回、第百話「船出」

料理がどうのこうのと書いたら何だかお腹が減ってきました。

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