強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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強くて逃亡者読者の皆様、お待たせしました。

続きのお話、はっじまっるよー?


プロローグ

「貴様の相手は我が僕がしてくれよう。先程の貴様の顔、見物であったぞ。ではな、さらばだ」

 

 自称大魔王の骨に行く手を遮らせ、大魔王が背を向ける。

 

「くっ、あの時の対策をもっとしっかり講じていれば……あ」

 

 幾度目の後悔かは解らない。ベッドの中、目を閉じて浮かび上がった大魔王の姿に、気づけば俺はベッドシーツを握りしめていたらしい。ふと気づくと布の感触。

 

「んう」

 

 聞こえてきたのは、大人向けの縛り方で拘束され隣のベッドに転がった尖耳の女性が猿ぐつわ越しに漏らした音。

 

(うん、第三者が見たら「なんぞこれ」って説明を求められてもおかしくない光景だよなぁ)

 

 隣で縛られた女性の名はトロワ。俺がアリアハンにノコノコ現れたところへ単身で挑んだ大魔王ゾーマの元部下のアークマージであり、マザコンをこじらせすぎた変態娘である。

 

「孫が出来ればママンは喜んでくれる筈」

 

 と言う理由でことあるごとに俺の貞操を狙ってくるので、就寝中は縛らざるをえないのだ。こんな変態だがアイテムを作る面においては天才であり、諸理由により今は俺の従者でもあるが、未だにどうしてこうなったかはわからない。

 

(そもそも、ゲームの世界にトリップとか二次創作のお話の中だけにして欲しかったんだけどなぁ)

 

 ゲームとしてプレイしていた時の勇者一行の仲間、パーティーメンバーの一人の身体でいきなりこの世界に放り出された俺は、魔王討伐の旅に出ようとして最弱の魔物の群れによって死にかけていた女勇者ことシャルロットを助け、請われて師匠兼同行者となり、自称大魔王のバラモスを倒した。

 

(本来の予定だとその女勇者(シャルロット)がそこそこ力を付けた所で、逃げ出す筈だったんだけど)

 

 情が湧いてしまったことや、自分が原作知識を活かせば本来命を落とすはずの人を救えることに気づいてしまい、逃げ出せないまま先に述べたようにバラモスを倒すに至った。

 

(そして、バラモスを倒し故郷に凱旋すると原作知識から単身ノコノコ宣戦布告に現れるであろうラスボスを待ち伏せて単身で挑むなんて真逆の行動に出た訳だけど)

 

 結果として、俺は負けた。しかも大魔王に見逃される形で、だ。

 

(リベンジしようにも原作通りなら、ゾーマを倒せばもう一つの世界、アレフガルドに永久隔離されてしまうし)

 

 最初に窮地の勇者を救ったのは、成り行き。勇者の師匠になったのは、世界が自称大魔王に滅ぼされれば元の世界に戻る方法を探すなんて言っていられない為。

 

(けど、元の世界に戻る方法の一番有力な候補はこちらの世界に有る訳で)

 

 ゾーマに敗北した瞬間、長く一緒に過ごしてきた愛弟子やその仲間達との離別が、確定してしまったのだ。

 

(ゴメン、シャルロット……ごめんミリー)

 

 中でも弟子のシャルロットと親の借金で窮地に陥っていた所を助けた元遊び人の賢者ミリーは特に俺を慕っていてくれたが、大魔王を倒せば隔離されるからこれ以上一緒に行けないなどと言えるはずもなく、短い手紙を残し殆ど無断で勇者一行から抜ける形になった。

 

(もっと上手い別れ方が、あった筈なのに)

 

 世の中は思い通りに行かないし、本番は脳裏に描いたリハーサル通りにいかない。後悔だらけの酷い門出兼離脱によって変態娘と二人、シャルロット達の故郷を抜けた俺達が移動呪文のルーラで訪れたのが、黒胡椒で有名なバハラタという町だ。

 

(接触は、明日でいいよね)

 

 原作では、船を手に入れる引き替えアイテムが手に入る町と言うぐらいの意味しかないが、この町には原作で助けられなかった女性や少女を中心にシャルロットの冒険や俺の行動をサポートして貰うために作ったクシナタ隊のメンバーが幾人か滞在している。彼女たちにとって俺は命の恩人であるからか、概ね好意的であり、サポートして貰うという目的のため、俺の正体や原作知識について勇者一行に明かしていないことまで話してある。

 

(シャルロット達への償いのためにも、俺が元の世界に戻るためにも倒せば願いを叶えてくれる神竜へ会いに行く)

 

 その為にも彼女達の協力は必要だし、また俺が抜けた勇者一行の事も気にかかる。原作にない行動を俺がとったせいで発生したイレギュラーがシャルロット達の目的のハードルを上げることも充分起こりうるのだから。

 

「こちらの旅の同行者を増やし、勇者一行にも支援用のパーティーを派遣する」

 

 それが叶えば、後は時々勇者一行の様子を確認しつつこちらの同行者を強化するだけだ。町やフィールドの大きさ、人口などこそ矛盾しないようリアルっぽく調整されてはいるものの、登場人物もダンジョンや町の位置なんかも原作とほぼ変わっていない。よって、俺が会って挑む神竜の居場所は既にわかっているし、神竜の元へ至るダンジョンの入り口までならこの町へ飛んできたルーラの呪文で飛んで行けるのだ。

 

(つまり、こちら側の問題はないに等しい。シャルロット達の方に比べれば)

 

 あちらは俺のせいで単独で迎え撃って来るであろうラスボスが取り巻きを引き連れての登場になると言う可能性を作ってしまった。

 

(支援パーティーが居てくれれば、その辺りも何とかなると思うけど)

 

 絶対とも言い切れない。だからこそ時々様子を知らせてくれるよう頼むつもりでも有るのだけれど。

 

「……はぁ、延々と考えててもしかたないかぁ」

 

 寝不足で朝起きられなければ本末転倒だ。支援パーティーの方はシャルロット達の所在が解っている今の内に結成し、送り出す必要があるのだから。

 

「明日から本気出すって言うと、そのままずるずる言っちゃいそうでアレだけどさ」

 

 縛られていても貞操を狙う変態と同じ部屋で寝てると思えば、その手の怠け心は起きないと思いたい。

 

「何にしても、まずは明日だ」

 

 ポツリと呟い俺は身じろぎし、とりあえず羊の数を数え始めた。

 




今回はほぼ全作の説明。

明日から本気出す?

次回、第一話「さいかい」

……また、あなたに会えるんですね○○○さん。

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