誰が為に歯車は廻る   作:アレクシエル

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第35話「その罪を、償わせるのさ」

第35話

 

 

 

1.

 

 

 

 

 

太陽の光すら遮ってしまう程の眩い光を放つ魔法陣に全てを覆われた空からは、大粒の雪が降り注ぎ始めていた。

7月の終わり、それも間もなく深夜0時を廻ろうとしているにも拘らず、外の景色はまるでその真逆。

全ての魂が昇華され、生命の息吹がまるで感じられないこの世界だが、そこに唯一、自らの足で立つ者たちがいる。

 

佐倉 杏子。

美樹 さやか。

巴 マミ。

呉 キリカ。

 

その4人の魔法少女達よりも1つ上の次元へと到達した"悪魔"、暁美 ほむら。

 

そして、この世界ではない処からやってきた、"骸殻"を持つ男、ルドガー・ウィル・クルスニク。

 

彼ら6人は現在、0時を廻ったのを目安にして、ひとまず身を休めていた旅館の外に出て、空を見上げていた。

 

まるで漂白されたかのように、不自然なほど白い空の上には、黒く巨大で禍々しい球体が浮かんでいる。

カナンの地─────それは、かつてルドガーが目指していた約束の地でもある。

だが、アレは似て非なるモノ。異世界への入り口である事には変わりないだろうが、あくまでアレはその姿を借りているモノに過ぎないのだろう。

 

だというのに。

 

 

「ルドガーさん、見て。…これ、急に強く光りだしましたよ」

 

さやかが手に持っているのは、"カナンの道標"その一つ───"箱舟守護者の心臓"。

それはかつて分史世界で出逢った、今は亡き親友…もう1人の(・・・・)暁美 ほむらに、文字通り"心臓"として宿っていたものだ。

同じくルドガーが手にしている道標───"ロンダウの虚塵"と、"海瀑幻魔の瞳"も同様に発光している。

この2つは、かつて人魚の魔女が自らの魔力を増幅させる為のブースターとして使っていたものだ。

残る道標は2つ。"最強の骸殻能力者"と、"次元を切り裂く剣(エターナルソード)"。この5つが揃う時、カナンの地は顕現し、道は拓かれる。

だが、既にカナンの地は空に浮かんでいる。残るは、そこに至るまでの"橋"をどう確保するかだ。

 

 

「具体的に、これをどうすればいいんですか?」と、さやかが尋ねかけた。

「…5つの道標を、五芒星型に配置するんだ。そうすると道標は一つになる…はずなんだけど」

 

言いながら、ルドガーは2つの道標を雪が厚く積もった地面に置き、さやかもそれに従って道標を置く。

そして残る2つの頂点にそれぞれ、ルドガーとほむらが代わりに立ってみた。

悪魔となったほむらには、次元の扉をこじ開ける能力が備わっている。さしづめ、"次元を切り裂く剣"の代用といったところだ。

対して、ルドガーは現存する"最強の骸殻能力者"だ。条件的には、これで全て揃っている。

 

 

だが、それだけでは何も起こらなかった。

 

 

「………ダメか」

 

わかっていた、とばかりにルドガーは弱々しくぼやいた。

カナンの地を顕出させる為の手段としては間違ってはいないだろう。だが、問題はその後なのだ。

カナンの地へと赴く為には、強い骸殻能力者の命を贄として"魂の橋"を架けなければならない。

かつてルドガーは、実の兄であるユリウスの遺志によって架けられた橋を用いて、カナンの地へと入った事があった。

しかしこの世界には、骸殻能力者はルドガー以外には存在しない。

やはり、それしかないのだろうか。ルドガーの脳裏に、微かに嫌な思考が走った。

だが、アレはあくまでカナンの地を模したもの。仮にこの場でルドガーが自刃したとて、"橋"が架けられるとは限らないし、ルドガー自身にも目的がある以上、その手段を執ることはできない。

しかしこの場には、代用であるほむらを除けば4つの道標が揃っている。そのこと自体には必ず意味がある筈だ。

あと、何かひとつ。それさえあれば次へと進める。ルドガーはそう考えていた。

ならば、と。

 

「これを使ってみましょう」

 

漆黒の衣装へと衣を変えたほむらが手をかざすと、その掌の上にグリーフシードが現れた。

しかもこれはただのグリーフシードではない。"影の魔女・エルザマリア"───ほむら達が持つグリーフシードの中でも最も強力な魔力を秘めた欠片である。

今までの戦いから、強い魔力を持つ魔女は皆時歪の因子(タイムファクター)と同じ反応を示していた。

また、時歪の因子とは、魔女同様に骸殻能力者が行き着く最終地点でもある。つまり、強力な時歪の因子の反応を示したエルザマリアのグリーフシードならば、"魂の橋"を架けることができるのではないだろうか、と考えたのだ。

グリーフシードを五芒星配置の真ん中に置くと、重力に逆らって針の部分を脚にして、コマのように直立した。

そして、

 

「……!」

 

それに同調して、ルドガーの懐中時計が唸りを上げ始める。そしてほむらの方も、何かしらの変化を感じ取ったようだ。

 

「ルドガー、時計を出して!」

「ああ!」

 

ルドガーは懐中時計を、ほむらは掌の上にダークオーブを乗せ、揃って目の前にかざした。すると、

 

「……!? これは…」

 

五芒星配置の中央に立つグリーフシードから、どす黒い瘴気が滲み出始めた。

まさか、孵化してしまったのか? とルドガーは一瞬考えたが、すぐにそうではないと気付く。

滲み出た負のオーラは宙を漂い、朧げながらも少しずつ輪郭をとり、その上に複数の歯車が噛み合わさったような幾何学模様が浮かび上がる。

それはまさしく、かつてルドガーが目にした"魂の橋"と酷似していた。

 

「……ひとまず、成功みたいだな」

 

強いて言えば、ユリウスの強い遺志によって造られたかつての魂の橋と比べると、やや形状が不安定なところか。

恐らく、あまり猶予はない。もう数分もすればこの"橋"は崩壊、霧散してしまうだろう。

そしてこの先には、まだ見ぬ新たな世界が待っている。

 

「………みんな、いけるか?」

 

ルドガーは改めて、後ろを振り返って4人の魔法少女達に尋ねかけた。

その問いに最初に答えたのは、赤と黒の少女───杏子と、キリカ。

 

「なぁーに今更なコト聞いてんだよ、あん? アタシが怖じ気つくとでも思ったか?」

「君の行く所ならば、私はどこまでもついて行くよ」

 

それに続くように、さやかとマミも言葉を返す。

 

「まどかはあたしの親友ですから。ほむらにばっかりカッコつけさせませんよ?」

「大事な後輩だもの。放ってなんかおけないわよ」

 

もはや訊くまでもなかったか、とルドガーは肩を下ろし、いよいよ魂の橋へと向き直った。

ほむらから譲り受けた盾の格納庫を腕につけ、その重さを確かめる。

 

「………よし、行こう!」

 

そうしてルドガー達は、異界への扉へと足をかけ、踏み込んでいった。

 

これより先へ待つのは、まだ見ぬ世界。救済の魔女───そして、未だ素性のわからぬ"原初の魔女"と呼ばれる存在がいるのだろう空間へと、最後の決着をつけるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.

 

 

 

 

 

 

 

魂の橋を抜けて、体感にして数秒ほどだろうか。突如として、空気の流れが変わったのをルドガーはしっかりと感じとっていた。

 

「………えっ…!? ここ、まさか……?」

 

だが目の前に広がる景色は、ルドガー自身の目を疑わせるに充分過ぎた。

陽の光が差さず、淀んだ空気が広がる中に、人工的な建造物が大量に立ち並ぶ。

大広場からは四方に伸びる橋が出ており、それぞれ異なる場所へと通じている。そして橋の先に何があるのか、ルドガーはしっかりと記憶して(・・・・)いた。

 

王都イル・ファン──────それが、この街の呼称だった。

 

「…そうだ、他のみんなは。どこだ?」

 

いきなり予想外の場所に到着した事に対して困惑せざるを得ないのだが、すぐにルドガーは周囲を見回して少女達の姿を探してみる。

しかし、ルドガーの周りには誰1人としていなかった。魔法少女達はおろか、イル・ファンに住まう人々の影さえも。

それに、先ほどから鼻腔を擽るような微かな腐臭も気になる。エレンピオスとは異なり、微精霊の力を借りて光を得る建造物の照明も、その全てが火を灯していない。

精霊術の一種でもある骸殻を操り、自身もまた時の大精霊の眷属となった(と推測される)ルドガーには理解できた。

今いるこの場所には、一切の微精霊が存在していない。まさに"抜け殻"という表現が相応しかった。

 

「キリカ! さやか! マミ、杏子! どこだ! どこにいる!?」

 

ルドガーは中央広場からタリム医学校の方角へと足を進めながら、大声で少女達を呼び続けた。

だが一向に返事はなく、それどころか、奥に進むにつれて腐臭が濃くなっている気もしてきた。

恐らく彼女達もルドガーと同時にここへと飛ばされてきたのならば、まだ建物には入っていないだろう、と考えた。

イル・ファンは確かに建物が多いが、土地自体もかなり広く大きい。その上、ここは敵陣なのだ。

仲間を探すのならば、まず先に外を見て回る。何があるかもわからない建物内には入るはずはない、と考えたのだ。

医学校の周辺には誰もいないと判断したルドガーは、再び中央広場へと戻り、次にオルダ宮へと繋がるひときわ大きな橋へ向かった。

イル・ファンの奥にそびえ立つ荘厳だった宮殿も、この空間においては一切の光が灯されておらず、ただただ不気味なだけだ。

 

「………なんなんだ、ここは。分史世界なのか!? それとも……」

 

単に模倣しただけの世界なのか。

次第に気味が悪くなってきたルドガーは、オルダ宮の手前で引き返し、またも中央広場へ小走りで戻った。

生命の息吹がまるで感じられない。

外観こそリーゼ・マクシアそのものだが、ここの環境は荒廃しかけていたエレンピオスよりも劣悪だろう。

ひどく疲れたような感覚を覚えたルドガーは、膝に手をつき、ため息をついた。

先へと進まなければならないのに、いきなりこんな空間へと飛ばされ、立ち往生もいいところだ。

 

「…………はぁ……ん?」

 

その時、風も吹かないような中で遠くから微かな声が聞こえたような気がした。

彼女達のうちの誰かがいるのか、それとも敵か。そう考えるまでもなく、ルドガーの足は再び動き出し始めた。

声のした方角は、学術研究地区のあたりからだ。

 

「おーい! 誰かいるのか!?」

 

と叫びながら、ルドガーは学術研究地区へと駆けてきた。

橋の下には用水路があり、川水が満ちていた筈だが、その川も案の定枯れ果てている。

が、奥に立つ研究施設───ラフォート研究所を見上げてみると、唯一そこだけは淡い光が灯されていた。

そしてその建物の前には、マントのような黒衣を纏った少女───キリカが立っていた。

 

「キリカ!? ここにいたのか!」

「ルドガー…!? よかった、探したんだよ!」

「はは…完全に入れ違ってたみたいだな。でもよかった、ほっとしたよ」

 

ようやく仲間の1人と合流でき、ルドガーはひとまずの安堵を覚えた。

 

「他のみんなは知らないか?」

「…それが、テレパシーを飛ばしても反応がないんだ。君にも届いていなかったみたいだし、この空間ではテレパシーが使えないのかもしれない」

「…困ったな」

「それと、もう一個気になる事があるんだ。あの建物、灯りがついてるけど…中から何かの気配がするんだ」

「まさか、使い魔か?」

「ううん、これは使い魔の気配じゃない……似てはいるんだけど。なんとなくだよ、私にはこれが"人の気配"のように感じるんだ」

「……なんだって?」

 

人っ子一人見かけない故に、この空間にはそもそも人間が誰もいないのではないかと疑っていたが、その可能性が揺らいだことにルドガーは首を傾げる。

もしかしたら何らかの事情があって、このラフォート研究所に集まって避難しているのだろうか、とルドガーは考えた。

キリカの方もどうやら、この建物が気になっているようだ。腹を決めたルドガーは、腕に装備した円盤型の格納庫の調子を確かめてから、研究所の扉の前に立ち、自動機構の停止したソレを無理矢理こじ開けて中に入った。

すると、

 

「な……ッ!? そんな、ここは!?」

 

ルドガーの視界に映る光景は一転し、複雑な機構が目立つ研究所内ではなく、土の色をした建物が立ち並び、運河に分断されたかのような街並みへと変わっていた。

 

「……シャン・ドゥ…!?」

「ルドガー、これは…?」

「…俺にも、わからない」

 

ラフォート研究所へと入ったかと思った次の瞬間に、全く関係のない別の街へと飛ばされた(・・・・・)

しかも、この街はルドガーの知るシャン・ドゥとは良く似てはいるが、その雰囲気は記憶のものとはかけ離れていた。

シャン・ドゥは都会的なイル・ファンとは打って変わって、自然の豊かさが感じられる造りの街だ。

だが今立っているこの場所すらも、先のイル・ファン同様に薄暗く、本来のシャン・ドゥ特有の熱気が感じられない。

違いがあるとすれば、人どころか生物の気配すらなかったイル・ファンとは異なり、そこかしこから低くくぐもった呻き声のようなものが聴こえてくるくらいか。

 

「魔物か? こんな街の中に……いや、」

 

こうも瘴気にまみれているのならば、街中だろうと関係はないだろう、とルドガーは思い直した。

しかし下手に建物を探ろうとすれば、また先程のように違う場所へと飛ばされてしまう可能性もある。

キリカがちゃんと後ろから付いてきている事を確認しながら、ルドガーは慎重にシャン・ドウの街を奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

3.

 

 

 

 

 

 

「──────こりゃあ、どうなってんだぁ……?」

 

と、気だるそうに声を上げたのは杏子だった。

彼女は結界突入の際に、ルドガー達とは違う場所へと飛ばされてきていた。幸いなのは、その傍らには同じくベテランの魔法少女・マミがはぐれずにいた、という事ぐらいか。

 

「…魔女の結界……なんだよな?」

「という事、らしいけど……」

 

そこは、魔女結界と呼ぶには似つかわしくないくらい、あまりにも普通の街並みだった。それ故に、ひと気が全くない事が当たり前の筈なのに、それが違和感として際立つ。

杏子達は知る由もないが、リーゼ・マクシアにおいては、そこは常冬の街カン・バルクと称されるひとつの国だった。

右を向けば何やら巨大で複雑な構造物があるが、どうやらそれは上の階層へと行き来するためのエレベーター、あるいはリフトのようなものだとひと目で判別できた。

そして何より、彼女達は現在魔力で補ってはいるが、その街の外気温はまるで冷凍室にでも居るかの如く、異様なほど低かった。

 

「手分けして……といきたいところだけど、」

「他の連中ともはぐれちまってるんだ。下手に離れない方がいいだろ」

「じゃあまずは……このまま真っ直ぐ進みましょう」

「りょーかい、マミ」

言うと2人は手元にそれぞれの魔法武器を錬成し、待ち受けているだろう敵へと備えた。そこでふと、杏子がとある事に気づく。

 

「……なんか、妙だ」

 

その違和感は同じくマミも感じていたようで、

 

「…ええ。これだけ沢山の使い魔……って言っていいのか怪しいけど」

「使い魔だろうと何だろうと関係ねえ。…ただ、数だけはそれなりに隠れてやがんのに、まるで敵意を感じねえ」

「…とにかく、先へ進んでみましょう」

 

2人が立っていたのは、ちょうど十字路のように分かれている地点の中心だ。そこから正面、突き当たって右に伸びているような緩やかな坂道の方へと進んで行く。

恐らく、坂を登った先とあの巨大リフトの行き先は繋がっているのかもしれない、などと考えながらも、周囲への警戒を怠らない。だが、

 

「……襲ってこないわね」

「なんだ、襲われたかったのかい?」

「戦わないに越した事はないわよ。…でも、こんな事今までじゃ有り得なかった」

 

そう言うとマミは、左側にある建物の一角を指差した。

そこには、まるで背骨が高く突き伸びた風な骸骨型の魔物が、建物の影から2人を観察していた。

もっとも、ベテラン魔法少女2人の前にかかっては、それでは隠れていないも同然だったのだが。

 

「……なんというか、有り得ないけど…あれじゃあまるでヒトか何かみたいよ」

「ああ、全くだね。…ま、何もしてこないなら都合がいい。どんどん奥に進もうぜ」

 

なんとも気楽そうにぼやきながら、2人は常冬の街を先へと進んで行く。

坂を登りきると、今度は何やら妙に古風な、それでいて厳かな雰囲気漂う巨大な建築物が視界に入ってきた。

その隣には、先程の巨大リフトから通じるであろう乗り場があったが、様子を見る限り無人では機能しない造りのようだった。

 

「…城……か?」

「そのようね。…まるでファンタジーの世界にでもいるみたいだわ」

「ハッ、アタシらの存在もある意味ファンタジーだけどねぇ。どうする、行くかい?」

「とりあえず、様子を見に行きましょう。危険を感じたらすぐに出るのよ」

「言われなくても」

 

と、口では能天気だが、古風な城の階段を登りながらも周りをよく観察する。

城の傍らには、何かしら大型の動物でも飼育できそうな金網の檻があったが、その中身はやはりカラだ。

 

「さて、開けるわよ。よいしょ……と…」

 

やや重めの鋼鉄の城扉を、2人で左右へと引いて開いてゆく。魔力を使わなければ大人の男でも開くのにはひと苦労しそうな程の扉を開くと、その中は薄暗く、さらなる奥へとずっと伸びた回廊が視界に飛び込んだ。

そこに、2人揃って足を踏み入れる。その次の瞬間に、

 

「………な…え、ええっ!?」

 

薄暗い城内に立ち入った筈の杏子とマミは、いつの間にか全く違う場所へと立っていた。

そこは先程までの常冬の街よりもさらに暗く…完全に陽が落ちており、どこか田舎の農村区のような、木造の平屋とやけに高く生い茂っている林が奥に目立つ街だった。

そこはリーゼ・マクシアにおいては、ハ・ミルと呼ばれている地域だ。

本来のハ・ミルは霊勢の影響で常に朝靄(あさもや)の中にいるような気候なのだが、今は完全に真逆だ。当然ながら、2人の少女はそんな事を知る由もない。

 

「…私達、城の中に入った……はずよね?」 「幻覚……いや、こいつはそんなもんじゃねえ。飛ばされた(・・・・・)んだ、アタシ達が」

「……まさか、魔女のしわざかしら」

「かもしんねえな。この分じゃあ、他の連中もおんなじ目に遭ってるかもわからねえぜ」

 

ともかく、再度手掛かりを探すために更に奥へと進んでゆく。が、また何処かへ飛ばされるかもわからないので、2人は付かず離れずの距離を徹底するようにした。

お陰でいちいち扉を開けるのにも、それなりの警戒をしなくてはならないが、そうしてあちこちの建物を見て回った結果、幾つかの事がわかった。

 

「どうやらここは、だいぶ前にはまだ人が住んでたみてえだな」

 

使いっぱなしで放置され、そのままかなりの埃が被った家具。やけに荒れた家内や花壇。

何らかの騒乱があり、ここを離れざるを得なかったのではないか、と杏子は推論を立てる。

では、とマミが付け加えるように、

 

「ここにはさっきの街にいたような魔物がいないわね。…もし、住人達が魔物を恐れてここから避難したのだとしたら、ここは魔物の巣になっていたとしてもおかしくないわ。現に、さっきの街がそうだったんだから」

「エサがなくなって他に移動した…ってのも考えられるけど、ならなんでさっきの魔物共はアタシ達に襲いかかって来なかった? 他にヒトなんていなかったのに」

「…あくまで、さっきの魔物達の狙いはヒトとは限らないのかもしれないわね」

 

そうこうしながらも、いよいよ2人はハ・ミルの最奥に位置する林へと足を運んだ。

生い茂る背の高い木々の端々には梯子や架け橋が備え付けられており、時期になれば上に登って木の実等を採取したり、物見(やぐら)として使ったりするのだろう、と見て取れた。

 

「アレ、登ってみるかい?」

「遠慮しておくわ。何もなさそうだし……」

「そうかい。んじゃ次行こう」

 

特にめぼしいものはない。そう判断した2人は林に立ち入る事なく引き返そうと、後ろへ振り向いた。

だがそこにあるのは朝靄の中の農村などではなく、

 

「………おい、さすがのアタシもドキッとしちまったぞ」

「…同感よ。いったいどうなってるっていうの」

「まるでB級ホラー映画だな……」

 

2人が振り向いた先に広がる光景はまたも転移し、今度はそびえ立つ巨大な山と、麓にぽつりと立っている小屋のような建物が視界に飛び込む。

当然、もう1度振り返ってみてもそこに背の高い林はなく、ごく普通の森林と、遥か下へと伸びる石畳の階段があるだけだった。

 

「…アタシらをおちょくってんのか」

 

杏子はさも不機嫌そうな声でぼやいた。

未だ敵の正体は見えないまま。しかしこうもいたずらにあちらこちらへと飛ばされ続ければ、少なくとも杏子の方には不可解さよりも苛立ちが募るばかりだ。

 

「そう思わせる為かもしれないわよ、佐倉さん」

「…わかってる。けど、これじゃあいつまでも……」

「どこかにヒントがあるかもしれないわ。…それに、この世界は明らかに私達の知ってる世界じゃない。けれど、ただの魔女結界とも思えないわ。だとすれば、可能性としてひとつ浮かぶものがある。わからないかしら?」

「……それくらい、アタシにだってわかる」

 

つまりこの世界は、異世界からやってきた存在であるルドガーと関係しているのではないのだろうか。それが、2人それぞれが導き出した答えだった。

 

「………ふん、こういう肝心な時にアイツがいないんだからねぇ」

「とにかく、探しましょう。他のみんなも今頃、私達のようにどこかを彷徨ってるかもしれないわ」

「へいへい。んじゃひとまず………」

 

そうして2人は、諦めるでもなく、しかしはっきりとした道標がないままに、ただ前だけを見て進んでゆく。

楽観的に見えるかもしれないが、果たして以前の彼女達ならば今と同じ事を冷静に考える事ができただろうか。

ルドガーと出会い、過酷な戦いを何度も経験し、ある意味での覚悟を決めたその時から、少女達の精神は一歩上のステップへと成熟したのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

4.

 

 

 

 

 

 

リーゼ・マクシアにおいてル・ロンドと呼ばれている、ごく普通の街がある。日本でいうならば、それこそ結界に突入する直前までいた旅館街にも似たような雰囲気の場所なのだが、例に漏れずこの場所さえも瘴気によって薄暗くなっており、一見とても人がいるようには感じられない。

その街並みの中央に、彼女達はいた。

 

「…………この状況、どう思う? ほむら」

「どうもこうもないわ。邪魔をするなら纏めて吹き飛ばす。…けど、どうやらその必要もないようね」

 

その2人をぐるりと取り囲むように、餓鬼(グール)魔草獣(マンドラゴラ)といった、ほむら達が初めて目にする"魔物"が大量に沸いていた。

否、その魔物達の群れの中央に、いきなりほむら達が飛ばされて(・・・・・)きたのだ。

ちなみに、2人はつい先刻までカラハ・シャールという、繁華街の成れの果てとも言える場所を彷徨っていたのだが、とある建物に立ち入った瞬間にここへと転移させられたのだった。

 

「………どきなさい…!」

 

ほむらが低く大きな声で言うと、魔物達はまるで恐れを成したかのようにそそくさと、港へ続く方面への道を開いた。

 

「……………信じられないわ。まさか、こんな事があるなんて…」

「だよねぇ。…いくらなんでも、いきなり知らないところをあちこち飛ばされるだなんて」

「…さやか、私が言いたいのはそれじゃないわ。あの魔物達を見て気付かなかったかしら?」

「えっ…なに?」

 

そう言われて、さやかは今一度魔物達の方をよく見てみる。

魔物達……"彼ら"は、決してほむら達を襲おうとしたわけではない。凶暴性がなく、むしろある種の意識、あるいは理性のようなものが感じ取れる。

魔物達の一部はさやかの方へと近寄ろうとするのもいたが、ほむらが幅広く殺気を飛ばしているせいで、手足こまねいているようだ。

他の魔物達も同様に、やや怯えているかのように2人に近づこうともしない。凶悪な牙や爪、はまたま毒を含む花粉を備えているだろうにも関わらず、だ。

その姿はまるで、

 

「………なに、あれ。なんていうか、ヒトっぽいような…」

「"ような"じゃないわ。アレは元々はヒトよ」

「え、ええっ!?」

「考えてもごらんなさい。あなた達魔法少女は、絶望にまみれて最期の時を過ぎたら魔女になってしまう。…恐らく、それに近い"何か"。もしかすると、この街中に拡がってる瘴気のせいかもしれないわ」

「その、瘴気のせいで魔物になっちゃった…かも、ってこと!?」

「少なくとも、私にはそう思えたわ。ほんの微かだけれど、彼らからは"魂"の波長を感じられる。彼らに攻撃してはダメよ。この場に争いは必要じゃない」

 

そう言うと、ほむらは魔物の群れの隙間を突っ切って港の方へと進んでいった。

さやかは困惑しつつも、ちらちらと魔物達の方を振り返りながら追随してゆく。

もしかすると、あの魔物はさやかに助けを求めていたのではないか。

他の少女達と異なり、癒しの魔法を使う事ができる自分達ならば、彼らをあの姿から解き放つ事ができるのではないだろうか。そういった考えが脳裏をよぎるが、

 

「さやか、余計な考えは捨てなさい」

 

と、ほむらに頭から否定されてしまった。

 

「ここは魔女結界の中なのよ。もしかすると、影の魔女が造ったような分史世界かもしれない。どちらにしても、魔女を倒せばこの世界は消える可能性が高い」

「…でも、だからって!」

「ならあなたは、"あの世界"で誰かを救う事ができたのかしら? …助かったのは、呉キリカだけ」

「…………ッ…!」

「この際だからはっきりさせておくわ。この世界において私は、まどかを救う事しか考えてない。…もちろん、あなた達を守る事もちゃんと考えてる。けれど、今の私にはそれが精一杯なのよ。…あなたも、この世界から生きて帰りたいのなら、自分の身の丈を見直すことね」

 

随分ときつい言い方をするものだ、とさやかは思った。きっとそれは、杏子のかけた暗示によって感情が麻痺しているせいもあるだろう。

それでも、さやかは腹を立てる気にはならなかった。何故なら、ほむらは自身の身の丈を測った上でさやかに忠告をしたからだ、と理解できたからだ。

それに、とほむらはさやかには言わず心の中でだけ呟く。

 

(………あそこまで肉体が変質してしまったなら、もう治すことはできない。いっそ……いえ、やめましょう)

 

 

そして暗闇の街を下ってひたすらに歩いてゆくと、ほむら達はようやく遠目にあった港へと辿り着いた。

そこは厳密には港というよりは、港の廃墟と呼ぶ方が相応しいほどに古びた外観だった。

船は1隻もなく、湾の先には広大な海と暗雲が広がっているばかりだが、ある地点まで行くと暗雲のような何かがカーテンのように立ち込め、それより先の視界を完全に塞いでいる。

 

「……なるほど」

「どしたのさ、ほむら」

「少しだけ、この世界のカラクリが見えてきたわ。ただ漠然と歩いているだけじゃあ、このまま堂々巡りになるだけ。…でも、空間同士の間に"繋ぎ目"がある。例えば、そこね」

 

空に手をかざすと、瞬時に巨大な黒弓が錬成された。

ほむらは黒弓を強く引き、それから魔力を矢の形に再構成して、狙いを絞る。その矛先は、暗雲のカーテンへと向いていた。

 

「…敵でもいたの?」

「そうではないわ。よく見てなさい」

 

ドシュン! と、光をも裂くような勢いで矢は放たれ、そのまま真っ直ぐに暗雲の彼方へと飛んで行く。

さやかは、矢はそのまま虚空へと消えてゆくのではないだろうかと考えたが、直後に異変が起きる。

暗雲の先で音もなく閃光が弾けると、一瞬だけ暗雲が晴れ、その隙間からかすかに光の壁のようなものが見え隠れした。

 

「見えたかしら?」

「う、うん……あれ、何?」

「さあ、わからないわ。一種の障壁のようだけれど……この先に何か見られたくないものがあるのかしら。…どう、さやか。行ってみる価値はあると思う?」

「……どっちにしても、このままだと先には進めないんでしょ? いいよ、行こう」

「あなたなら、そう言うと思っていたわ」

 

ぱちん、とほむらが手拍子を打つと、瞬時に転移術式が発動する。2人はものの1秒足らずで暗雲立ち込める海上へと転移し、

 

「──────う、うへぇっ!? 落ちるぅ!? ちょ、ほむら!! いきなりこんなとこに跳んだらびっくりするでしょーが!!」

「安心なさい。私の力で宙に浮いているから、海に落ちる心配はないわ」

「そういう問題じゃなーい!」

「…ちなみに、この海はかなりの濃さの瘴気に侵されているわ。いくらあなたが水の中では自在と言えども、こんな海に入ればソウルジェムが数秒と保たない。覚えておくことね」

「そ、そういう事は先に言えー!! ばか、ばか!!」

「……あなたには言われたくないのだけれど…」

「うるさぁーい! なんだ、じゃああんた天然か!? 素なのかそれ!?」

 

とにかく、海だからといって迂闊に飛び込まないように気をつけなければ、とさやかは気を引き締めた。

そしてそのまま2人は宙を漂いながら、光の壁が隠されている暗雲…瘴気のカーテンの前まで接近する。

ほむらが軽く手を動かすと、そこから放出された魔力によって瘴気が少し振り払われた。

そしてその奥には、やはり光の壁がある。見たところその壁は、空間を分断してその上に造られたもので、単純に障壁というよりも、内から外へと溢れ出るのを防ぐ、或いは逆に外界からの進入を防ぐような造りに感じ取れた。

試しにほむらが1発、至近距離で光の矢を壁に向かって撃ち込んでみたが、どうやら壁はほむらの持つ魔力のさらに何倍もの密度の力で構成されているようで、かすり傷をつけるどころか一方的に打ち消されてしまった。

だが、その一撃を加えた際の壁の挙動で、ほむらは壁の原理を軽く理解する事ができた。

 

「この壁は、向こう側とこちら側を空間単位で分断しているようね。これを破るには、次元ごと壁を引き裂く必要があるわ」

「じ、次元ごと…? なんかすごいことになってるみたいだけど…あんたならできるんじゃない?」

「…今の私にはできないわ。まどかが魔女になった際に、私の魔力を大幅に持って行かれたの。…元々、この姿での魔力は私のものではなくて、円環の理(まどか)のものだったから、仕方ないわ」

「…んじゃ、元通りってこと?」

「いいえ、かろうじて。…完全に元通りならこんなことできやしないわよ。次元に干渉する能力が格段に落ちてはいるけれど、ちょっとの距離を跳んだりはまだできるし、戦いだってあなた達には劣らないわ。…でも、この壁はどうしようもないわね。並大抵の硬さじゃない。せめてルドガーがいれば、骸殻の力で壁に干渉する事ができたかも──────っ、さやか!」

「わ、きゃあっ!?」

 

何を思ったか、ほむらは魔力を更に引き出し、さやかを今浮いている場所から後方へといきなり転移させた。

─────直後、ほんの一瞬前までさやかがいた地点に、遥か空の上から光弾の雨が降り注ぐ。

 

「敵!?」

「………ええ。どうやら、ようやくお出ましのようね」

 

もう数秒反応が遅れていたら、光弾はさやかの身体をズタズタに貫いていただろう。

そして空の上から急降下して来たソレは、無機質な瞳と声で告げる。

 

『──────断界殻(シェル)ニ接近スル不穏要素ヲ発見。殲滅、開始』

 

ソレ、というよりも"彼女"は、まるで物語に登場するようないわゆる"妖精"のような姿をしていた。

左右対称で幾何学的な紋様をした薄く白い羽根と、長く尖った形をした耳、ほとんど白に近い長い金髪を持ち、淀んだ潮風に髪をたなびかせながら、ほむら達を静かに見据え、その手に新たな魔力を練り集める。

それを待つまでもなく、ほむらは虚空の上に無数の小さな魔法陣を展開し、そこから様々な種類のロケットランチャーの口を覗かせ、魔力を送り込んで同時にトリガーを引いた。

耳をつんざくような轟音と共に凶悪な弾丸が妖精に放たれるが、妖精は軽く手を横に薙ぐだけで、それらの弾丸を着弾手前で全て爆散させる。

 

『……!』

 

妖精とほむら達の間に硝煙のカーテンが広がり、ほんの僅かに視界を隔てる。

その一瞬の隙を突いて、ほむらはさやかを連れて遥か後方にある港まで、逆戻りするように瞬間転移した。

 

「───うぉっ、と………」

 

2転3転と急に転移させられて少し慣れたのか、さやかは今度は冷静に港に着地して、海の向こうを見やる。

 

「魔女、じゃない…何なの!?」

「……わからないわ。恐らく、あの壁……断界殻(シェル)と言っていたわね。アレに近づく者を排除する役割を持っているようよ。…構えなさい、来るわよ!」

 

ほむらが言い終わると同時に、白金髪の妖精が2人の眼の前に突然現れた。

羽根を使って飛んできたのではない。ほむら達同様に、空間を跳び越えて追いついてきたのだ。

 

(………弾幕を張ってから数秒でここまで…転移術式? それに、私達の魔力を追跡されてる。逃げても追ってくる、という事ね……なら、ここで倒すまでよ!)

 

先ずさやかが半月刀(サーベル)を2本構えて妖精へと斬りかかり、それを援護するようにほむらが火器の銃口を覗かせつつ、立体的な角度から攻撃を仕掛ける。

対する妖精は、自身の白金髪を触手か何かのように操り、さやかの剣撃を軽くいなす。

ただの髪の毛にしか見えなかったソレは明確な強度と鋭さを持ち、サーベルと共に火花を散らしつつも、さやかの身体を隙あらば貫ぬかんとしていた。

だというのに妖精はほむらの攻撃にも対応し、狙いを絞れないように、小刻みに転移によるステップを織り交ぜている。

 

ほむらは妖精に気取られないように念話を使ってさやかに指示を飛ばし、

 

『さやか、下がって。仕掛けるわ!』

『おーけー!』

 

それに応じたさやかは大きな一太刀を妖精に仕掛け、その直後に加速術式をほんの少し使い、数メートル後ろへと高速で跳び下がった。

そこに、ほむらの魔法による攻撃が展開される。

 

「喰らいなさい!!」

 

妖精の足元に魔法陣が展開され、そこから一千度はゆうに超えるであろう蒼白い焔が噴出し、妖精の身体へと直撃した。

 

『──────ッ!? 』

 

獣のような、布を裂いたような甲高い絶叫が港中に響き渡る。

普通の生物ならば、1千度もの炎で身を灼かれれば、骨すら残るか怪しいレベルで燃え尽きてしまうだろう。しかし妖精は苦しみもがきながらも、転移術式を用いて無理やり蒼炎の中から脱出し、獣のように獰猛な目つきで2人の排除を継続せんと睨みつける。そこへ、追撃がさらに加わる。

 

『──────っ、異常、確認。分析…ッ!!』

 

妖精が飛び出してくる位置を予測し、既に空中に置かれていた2本のサーベルが、妖精の身体に深々と突き刺された。

そしてそのサーベルは加速度的に熱を帯びてゆき、燃えるような赤色へと変わる。

かつて戦った人魚の魔女が得意としていた、サーベルによる爆撃を、さやかが再現したのだ。

当然ながら、熱を帯びてゆくサーベルが爆発するなどとは咄嗟に考えつくはずもない。

予想不可能の攻撃に困惑を抱きながら己の腹部を何度も見やり、そして、

 

『───ヒ、ッ……アァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

妖精が狂気に満ちた叫び声を上げたと同時にサーベルが爆発し、腹部をズタズタに破壊しながら爆炎が吹き上がった。

上半身は吹き飛ばされ、下半身はその場に力なく落ちる。が、相手は明らかに人ならざる存在。胴体が爆発で完全に破壊されたとあってもほむらは一切気を抜かず、力尽きた妖精の上半身めがけて再度蒼炎を放った。

 

「………うへぇ……やりすぎじゃない? ほむら」

 

あまりに凄惨な光景に、さやかがやんわりと苦言を呈する。

 

「情けをかけるような相手ではないわ。……この妖精、魂の波長が感じられなかった」

「えっ…てことは、なによ…?」

「恐らくは、分体(コピー)。まだ本体(オリジナル)がどこかにいるはず。…それに、コピーの方もきっとこいつだけじゃないわね」

「…何たって、そんな奴が……?」

「さあ、わからないわね。でも、あの断界殻とかいうの。よほど見られたくないようなシロモノなのかもしれないわ。……調べる価値はあるわ」

 

もしかすると、その先へと進む為の鍵となるかもしれない。

このまま普通に道を歩いていても、また唐突に転移させられてしまうだけだ。ならば、今ここで"断界殻"という手掛かりを探る方が建設的だろう。ただ、

 

「………その前に、アレを片付けなくちゃいけないわね…」

「…だね」

 

暗雲の空を2人並んで見上げると、雲の上から降下してくる影がいくつもあった。

そしてそれらは皆、たった今ほむら達が撃破した妖精と全く同じ外見をしており、その何処までも冷ややかな眼で2人を見下ろし、徐々に迫ってくる。

数にして7体もの妖精が、空の上からほむら達に狙いを定めていた。

 

「やれる? ほむら。あんた弱ってんでしょ?」

「愚問ね。そういうあなたこそ、どうなのかしら?」

「へへっ、今日のさやかちゃんは絶好調よ! まどかを連れ戻す前に、こんな所でやられてる暇なんてないよ!」

「ええ、全くもってその通りだわ。……行くわよ!!」

 

その掛け声と共に、悪魔は妖精を迎え討つべく、空高く舞い上がる。その背中を預けるは、水を従える青の魔法騎士。

ここに、2人だけの戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

5.

 

 

 

 

 

時同じくして、異なる位相にて彷徨っていた杏子とマミは、麓の小屋を裏口から抜け出た先にそびえ立つ霊峰の中で、リボンや多節槍を駆使し、崖や傾斜などの荒い地形を無視して上へと突き進んでいた。

その理由はごく単純なもので、

 

「おいマミ!! あいつら何処まで追ってきやがる!?」

「わからないわよ! …街じゃ襲って来なかったのに、何で急に魔物が!」

 

霊峰を駆け巡る2人を追い回していたのは、巨大な山猫のような、それでいて赤黒い炎を身に纏った姿をした大型の魔物だった。

魔物は久方振りの獲物を見つけたとばかりに、獰猛な牙をちらつかせながら2人を追い、その屈強な四肢を以って荒れた地形を難なく駆けている。

2人がこれに応戦するでもなく、下山するでもなく、ひたすらに上を目指して進んでいるのは、霊峰の頂上付近に強大な魔力のようなものを察知したからだ。

手をこまねいていてはまた何処かへと飛ばされてしまうと考えた2人は、何としてもまずはその魔力の正体を看破する為に頂上へ向かおうと考えたのだ。

加えて、魔物を撃退する為の戦いに有利な地点をも探しながら駆け上がっている。

ただ、2人はそれぞれの得意武器を駆使して地形を無視しつつ登っているのだが、魔物は所々で大跳躍を交え、霊峰をかすかに揺らしながら2人に肉薄してきている。

 

「そろそろやんぞマミ! キリがねえ!!」

「ええ、この辺りなら問題ないわね!」

 

2人は長い一本道に差し掛かり、脚力にブーストをかけ、プロの陸上選手のおよそ3倍もの速さで走り抜ける。

 

 

『フシャアァァァァァァ!!』

 

 

これについてこられる者はそうは居ない筈だが、魔物は眼光を更に鋭くしつつ脚に力を込め、2人とほぼ同速かそれ以上のスピードで距離を詰めてゆく。30…20…10…5メートルと、凶悪な前脚を振りかぶれば届きそうな程の距離にまで達したその時、

 

「今よ!」

「へっ、じゃあな! このままあの世へダイビングしてきやがれ!!」

 

杏子とマミは突如として、地面に飲み込まれるかのように瞬時に姿を消した。

 

『ガゥ!?』

 

目の前で獲物が消失した事に魔物は困惑したが、時速にして40キロメートルをゆうに超える速さで、しかもこのように荒れた地形では急には止まれない。

グリップの効いたタイヤで更地を噛んだならば、急停止することは十分に可能だろう。しかし、凶悪だがタイヤとは異なりグリップなどある筈ない前脚で、砂利だらけの荒れた地形の上ならば別だ。

そして山猫型の魔物もまた、滑りながら地面に飲まれるように消え───厳密に言えば、霊峰の頂上近い断崖から、大空へと向かってダイビングしていた。

 

『!! ガァァァァァァァァッ!!!』

 

そうして、先程まで存在していた砂利道が消滅し、リボンと多節槍で崖に引っ付いていた2人の姿が露わになる。

杏子が固有魔法を使い、崖の先に砂利道の幻を配置し、そこに引きつけて加速をつけさせた魔物を誘導し、崖から落としたのだ。

頂上が近いこの高さから落ちれば、例え強大な魔物だとしても地面に柘榴を散らす事は必至。ひとまず危機は回避したと言えるだろう。

 

「ったく、こんな回りくどい方法じゃなくたって、アンタの砲撃イッパツかましてやりゃあお陀仏だったんじゃねえの?」

「万が一、よ。あのサイズを吹き飛ばすとなると、砲撃もそれなりのものになる。…そんなものをこの山の中で撃てば、振動で崖が崩れてくるかもわからないもの」

「む……そりゃ面倒だな」

「でしょう? それに、頂上も見えてきたわ」

「…はぁ、結果オーライみたいに言うなよな。結構疲れたぞ…」

 

気を取り直して、崖の断面から砂利道へと再び戻った2人は、肩の荷が下りたかのようにため息をつきながら山頂へと歩いて向かう。

徐々に細くなる砂利道を奥へ奥へと進むと、山独特の冷えて酸素の薄い空気が、ますます染み渡る気がした。

そしてひときわ目立つ切り立った岩肌がある場所へと流れつき、淀んだ空の景色がいっぱいに広がった。

ここが、このニ・アケリア霊山の山頂である。

 

「………はぁ、これはすごい景色ね。私、登山なんて初めてだったけど…」

「ジョーク言ってる場合でもねぇだろ。景色なんかより、アレを見ろよ」

「わかってるわよ」

 

と杏子が指差した先には、岩肌の淵付近。そこに浮かぶ、"傷痕"のような異端の痕跡。

例えるなら、ほむらが以前使った次元に干渉する魔法にも似たような波動を感じる。

そしてソレの目の前に立つ1人の男と、主人を待つような格好でしゃがんでいる小型の飛竜(ワイバーン)の姿も同時に捉えられた。

 

「…………お前達は…?」

 

男はマミ達に気付いたようで、じっと虚空の傷痕を見つめていた視線をこちらへと移してぼやいた。

男の姿は、やや浅黒く丈夫そうな肌に、腰まで届く長い銀の髪を紐で束ね、マントの下に動き易そうな民族衣装。その腰元には、2本の長さが異なる剣が鞘に収められた状態で下がっていた。

 

「…ふ、人間の姿をした奴に(・・・・・・・・・)会ったのは久し振りだな。よくもまあ、この瘴気にまみれた世界で五体満足でいられたものだ」

「いいえ、残念ながら私達はこの世界の住人ではないの」

「……なんだと? まさかお前達、"エレンピオス人"か」

 

その言葉を放つと共に、男の眼には確かな憎悪が込められたのを、2人は見逃さなかった。

だが、マミと杏子の姿をまじまじと見て、すぐにその鋭い眼光を解く。

 

「……でもないか。エレンピオスの連中は、そんな服を身に纏ったりはしない。それに、俺やお前達と違って霊力野(ゲート)がないから、すぐにわかる」

「さっきから勝手に独りでペラペラ喋ってんじゃねえよ。アタシは佐倉 杏子。こっちは……」

「巴 マミよ。あなたは?」

 

言葉こそ乱雑に聞こえるが、そこは自分から名乗ることを忘れない杏子。それに続いてマミも名乗ると、男はようやく警戒心を解き、重い口を開いて名乗りだした。

 

 

 

「──────俺の名は"イバル"。()マクスウェルの巫子だ」

「元…マクスウェルの……?」

「…昔の話だ。ところでお前達は、どうしてここまで? ここはとても余所者が来るような場所じゃあないぞ」

「"ソレ"を調べにきたんだよ」

 

と、杏子はイバルの目の前にある"傷痕"を指差して言った。

 

「何しろこちとら、さっきからあっちこっち飛ばされ続けて、気がついたらこの山にいたんだ。んで、ヘンな魔力を感じたから調べに来たってワケ」

「飛ばされて…? なるほど。ここに飛んでくる直前は、どこにいた?」

「どっかの田舎みてえな村だよ。こう…やたらと細長い林があって……その前は、雪が降ってる街だったぜ」

「ハ・ミルとカン・バルクか。"飛ばされた"というのはある意味正しいが、正確じゃあない。そもそもこの世界はあちこちが虫食い状態で、欠損した空間同士が捻じ曲がった形で繋がっているんだ。故に、そういった現象が起こる」

「虫食い? それは、一体どういうことかしら?」と、マミも怪訝な顔をしてイバルに聞き返す。

「簡単な話だ。この世界はもうすぐ消え去ろうとしてるんだよ」

 

イバルは何かに対して、或いは己自身に対してか、嘲笑を浮かべながら言った。

 

「……元々、"あの男"には王の資質は有ったのかもしれないが、神たる資質(・・・・・)はなかったというワケだ。もうこの世界には殆ど人間のカタチをした者は残ってないというのに、この国のカタチを守る事ばかりに固執している。そしてそれも、もう間もなく消える。

じきに精霊力(マナ)が枯渇し断界殻(シェル)が消えれば、それと共にこの世界は滅びる。樽を壊された醸造酒(ワイン)のように、儚く溶けて消えるのさ」

「ほんっとよく喋るな、アンタ」

「許せ。こう見えて、久々に人間に会えて嬉しいのさ。さて、本題に入ろうか」

 

イバルは山の冷気から身を守る為のマントを広げ、"傷痕"を指して2人に告げる。

 

「コイツは"次元の狭間"。今は不安定な状態で入口も狭いが、十分な精霊力を流し込んでやれば、一時的にだが入口をこじ開ける事ができる」

「そこから、どこに繋がっているのかしら?」

世精ノ途(ウルスカーラ)。そこから"王の玉座"へと向かう。この世界が滅びる前に、この手であの男に償いをさせなきゃあならないからな」

「償い、ですって?」

「そうだ。我が主人(あるじ)、ミラ=マクスウェル様を手にかけたその罪を、償わせるのさ」

「!」

 

その名前には、マミ・杏子の両名が聞き覚えがあった。

以前、ワルプルギスの夜との戦いでルドガーが一時心肺停止に追いやられ、息を吹き返しかけた時に呟いた名前だ。

これで、この世界がルドガーに縁のある世界だと確信に至ったと言える。

 

「ついて来いとは言わないさ。これはあくまで俺自身の問題だからな」

「私達の目的は聞かないのね?」

「興味がないからな。余所者だというのなら、世界ごと滅びたくないのならさっさと帰るがいい」

「その帰り方がわからないから困ってるんだけど? …そもそも、私達はここに友人を捜しに来たのよ。そうしたら他の仲間ともはぐれちゃうし…」

「そいつは気の毒だな。もう身を以て知っただろうが、何処に飛ばされるかもわからんこの世界で人捜しは至難の業だぞ?」

「ええ。正直お手上げなのよ。…だから、このまま堂々巡りを繰り返すくらいなら、いっそ前に進もうと思うの」

「……ふん、勝手にしろ」

 

やれやれ、と深くため息をつきながら、イバルは腰に差した2本の剣を抜き、"傷痕"に正対して構えた。

意識を集中し、身体の底から精霊力を練り上げ、剣先からゆっくりと"傷痕"に流し込む。

マミ達は知る由もないが、微精霊が枯渇しかかっているこの世界で精霊力を練り上げるという事は、即ち己の命を削っているという事なのだ。

通常ならばこんな芸当はリーゼ・マクシア人でさえも耐えられない筈なのだが、かつて巫子として研鑽を重ね続けてきたイバルだからこそ、不可能を可能としているのだ。

ただし、それ相応の対価は支払われる。

 

「ぐ……っ、ギ…あぁぁァァァァァッ!!」

 

 

筋繊維を内側から引き裂いたような痛みが、イバルの左腕を襲う。

左手に構えた短剣を落としてしまいそうになるがどうにか堪え、それでもなお精霊力の放出を止めようとしない。

だが、このままでは"傷痕"を開ききる前にイバル自身の魔力が枯渇してしまう。そう判断した2人は、イバルの元へ駆け寄った。

 

「がぁッ……な、んのつもりだ……巻き込まれに、来たのか!」

「手伝いに来たのよ!」

 

イバルとマミ達では、それぞれ似通ってはいるが力のルーツが違う。

イバルの力はあくまで自然との調和によって生まれる力であり、同時に身体を構成している成分のひとつでもある。

対して魔法少女の力の源は"希望"や"願望"を抱いた魂の輝きそのもの。消費すれば魂をすり減らすという意味では共通しているが、実質異なる物同士だ。

だが、希望によって練られる力は、時に不条理を曲げる。

マミと杏子がイバルをフォローするように"傷痕"へ魔力を流し込むと、それまでかすかに揺らぐ程度だった"傷痕"が徐々に拡がり出した。

 

「ったく、グリーフシード何個分だこれ!?」

 

と悪態をつきながら、杏子は"傷痕"へと赤の槍を思い切り突き入れ、3人の魔力をその1点へと集約させる。

 

「うおぉぉぉぉぉあぁぁぁ!!」

 

イバルは吼え、双剣を"傷痕"へ向けて力強く、引き裂くように振り抜いた。

3人分の力を流し込まれて揺らぎ出した"傷痕"は、イバルの渾身の一撃によって、ようやく大きく口を開いた。

とはいえ、人1人ずつがようやく通り抜けられるという程度のサイズだが。

 

「やったわ!」

「よし……急げ! 数秒と保たんぞ!」

「へっ、上等!!」

 

痛みが走る左腕を押さえながら、まずイバルが先陣を切って"傷痕"へと飛び込んだ。

次いでマミ、杏子も"傷痕"の中へと飛び込んでゆく。その数十秒後に"傷痕"は稲妻のような閃光を何度か放ち、急激に収束していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

6.

 

 

 

 

 

シャン・ドゥの街並を奥へ奥へと突き進んでいた筈のルドガーとキリカは、今度は埃と機械油の匂いが目立つ施設の中へと飛ばされてきていた。

かつてリーゼ・マクシアが1つに(たば)ねられる以前に、ラ・シュガルと呼ばれた、ア・ジュール国と対立していた大国。その前線基地として建てられたのが、この"ガンダラ要塞"だ。

ルドガーの記憶では、国家間の対立がなくなりこの要塞もその存在意義を失いかけていたのだが、エレンピオスと対等に交渉を行う為の、新たな軍事兵器の開発拠点として使われていた場所だ。

2人はやけに広く機動兵器(ゴーレム)が等間隔に何台も格納された、連絡通路のような無機質な回廊を、まっすぐに進んでいた。

 

「………これは、ロボットか何かかい」

「うん、まあ…似たようなものだな」

 

ルドガーがふと注視したのは、格納されたゴーレムの殆どについていた外傷ないし泥汚れだ。

まるで有事に駆り出され、そのまま格納されて何年も放置されたかのような汚れの痕跡に、違和感を覚える。

違和感とは、言い方を変えるならばリアリティだった。

仮にここが何らかの意図によって造られた世界なのだとしたら、その目的は十中八九、ルドガー達を嵌める為だ。

無人の街、あちこちに立ち込める瘴気、ほぼ枯渇している微精霊……モデルケースを目的とするならば、これだけでもある意味十分と言える。

だというのに。このガンダラ要塞に格納されているゴーレム達には、明らかな戦闘の痕があった。

何と戦ってこのような外損や汚れが生じたのか。そもそも何故そのような戦闘行為が、ひいてはゴーレムが必要だったのか。そうして、ルドガーの頭の中にひとつの可能性がちらつく。

 

(……やっぱり、ここは…魔女結界じゃなくて"分史世界"の中なのかも)

 

魔女が模倣したリーゼ・マクシアではなく、正真正銘の"分史世界"。その可能性を、ルドガーは疑い出した。

だとするならば、このガンダラ要塞に配置されているゴーレム達は、本当に有事に投入されたのではないだろうか、と。

とすれば、このゴーレム達は一体何と戦っていたのか。

そうして試作しながら歩いているうちに、ガンダラ要塞の反対側の出口の前へと到着した。

通常ならばこの先はダラス街道へと通じているのだが、道筋通りの場所に出られる保障は当然ない。

 

「………どうする、ルドガー。もっとこの建物の中を調べてみるかい? それとも、この先に進むのかい」

「ああ。ここには時歪の因子の反応もないし…魔女についての手がかりもないだろう」

 

果たしてこの先はダラス街道へと続いているのだろうか。はたまた、どこか違う街へと飛ばされてしまうのだろうか。

重い扉を開くための機構に手をかけて外に出ようとした、その時、

 

「………ッ…!?」

 

 

ズドン、と激しい地鳴り音と共に建物中に得も知れぬ重圧感を感じた。

精神的な比喩などではなく、実際に押し潰されそうな、圧をだ。

ミシミシと強固な要塞が悲鳴を上げ始め、回廊に並んでいたゴーレム達も次々と膝から崩れ落ち、火花を上げる。

扉の近くにいたルドガーとキリカも、突如として襲いかかる猛烈な重力場に襲われ、地面に臥してしまいそうになるのを堪えていた。

 

「なん、だ!? 身体が重い!?」

「……これは、重力場を操作されて、る……!?」

「魔女…!? いや、これは……まさか、精霊術か!」

 

ルドガーは突然の外部からの攻撃を予測すると、懐から懐中時計を抜き出し、力を解放して骸殻を身に纏った。

フル骸殻のパワーで重力場に逆らって立ち上がり、破壊の槍を厚い扉へと投げ込む。

まるで薄い木の板に弓矢を撃ち込んだかのようにバキン! と扉が破壊されるのを確認すると、膝をついていたキリカを抱き抱えながら、空気の淀んだダラス街道へと空間跳躍で退避した。

 

『キリカ、大丈………くっ!』

 

その数秒後、メキメキと音を立てながらガンダラ要塞は押し潰され、完全に瓦礫となってしまった。

その上方には、波紋を表面に浮かべながら青黒く輝く巨大な球体があった。それこそが、精霊術の発動した痕跡だ。

 

『あれは……グラビティ…!? そんな、アレを使えるのは!』

 

ルドガーは、過去にその術式を目撃した事があった。もっと言うならば、かつての仲間だった、空間を司る大精霊が得意としていた術式だ。

しかも今空に浮かんでいる術式は、建物ごと本気でルドガー達を潰しにかかっていた。退避が僅かでも遅れていれば、要塞の崩落に巻き込まれていただろう。

そしてルドガーは、その術式を発動した張本人の姿を確かめるべく、遥か上空を見上げた。

そこには、

 

ミュゼ(・・・)…!?」

 

異形の精霊がいた。

羽根はどす黒く変質し、身体の半分も爛れたように黒くなっているのを、顔だけは長い髪で隠している。

その虹彩には狂気が宿り、どこまでも盲目的な彼女の本質を表しているようにも見える。

そして彼女は地表を冷たく見下ろしながら、

 

 

 

『──────骸殻能力者、発見。……くく、あははははっ!! 待っていてくださいマクスウェル様(・・・・・・・)! 貴方を脅かす全てを、この私が皆殺しにしてみせます!!』

 

 

 

 

その獰猛な羽根を羽撃(はばた)かせ、黒の鎧を纏うその姿へと、襲いかかってきた。

 




お待たせしました。
約半年ぶりの更新となります。

また更新再開してゆきますので、よろしくお願いします。

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