秋津洲ちゃれんじ   作:秋津洲かも

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秋津洲、ピンチかも!

「ど、どういうことですか!」

 

思わず、大きな声を出してしまう

 

開始から30分、第三法廷では秋津洲の聴取が続いている

 

「どういうことも何も、私は潜望鏡発見の話など初耳だ。むしろこちらは問う立場だ。

うむ、落ち着いてくれ。もう一度、聞く。いつ、どこで潜望鏡を発見した?」

 

正面の監査官、老人は顔こそ笑顔のままだが、その細めた目は油断なく

 

私の一挙手一投足を見ている

 

明らかに私の言葉に穴がないか隙がないかを見張っている

 

けれども私はこの場では事実を正確に相手に伝えるほかに手段がない

 

先ほどの証言に監査官と何か行き違いがあったのかもしれない

 

「時刻は0652、三浦半島沖南西約2マイルの位置で潜望鏡を発見しました」

 

「君は先ほど潜望鏡〈らしき〉と言わなかったかね?ここでの証言は録音されている。確認が必要かね?」

 

「い、いえ、確かに言いました。しかし、その後、そ、その目標に対し、高度を下げ何度も接近し、確認を行いました」

 

「それが間違いなく、潜望鏡だという根拠はあるのかね?」

 

押しが足りないのだろうか、老人は簡単には納得しない

 

二式大艇には自衛隊の哨戒機が搭載するようなカメラは装備していない

 

写真に残せれば決定的な証拠になるが、私のそれは妖精さんの目視、証拠能力のとしてはとても薄い

 

でもこれまでずっと一緒に出撃してきた大艇妖精さんを私が信じないで誰が信じるのだろう

 

「私の二式大艇の妖精は経験豊富で、これまで何度も潜望鏡発見の実績があります」

 

「ふむ、では仮に妖精が見たものが潜望鏡だったとしよう。そしてその情報を・・・どうしたのかね」

 

「横須賀提督に無線で伝えました」

 

「間違いないのかね?無線の先で彼は何と言っていた?」

 

「輸送船護衛部隊に潜望鏡の位置情報を至急伝えると言っていました」

 

「昨日、君に先んじて横須賀提督の聴取を行った。そこで彼は潜望鏡のことなど一切、話さなかった。となると可能性は3つ。ひとつ、君の言葉が流言であり潜望鏡など発見していなかった。ふたつ、君は潜望鏡を発見も横須賀提督に知らせなかった。みっつ、君の言葉は正しく、横須賀提督は潜望鏡の存在を知っていた上でそれを我々に隠した」

 

「無線機の調子が悪かったということはないのかしら?秋津洲さん」

 

「いいえ、確かに返答を得ました。護衛部隊に伝えると!」

 

私は確かに伝えた

 

この部分は監査官には言わなかったが、横須賀提督は私にこう返答したのだ

 

『秋津洲、よくやった』

 

本当に本当に久しぶりに私を褒めてくれたのだ

 

だからこそ私は提督の言葉をよく覚えている

 

「護衛部隊が横須賀提督から情報を得ていたのならば、深海棲艦に対し何らかの対処を開始するはずだが、そういった形跡は今のところ見つかっていない」

 

確かに妖精さんもそのようなことを言っていた

 

深海棲艦の魚雷攻撃を受けたとき、自衛隊の護衛艦は輸送船を前後に挟み、単縦陣の形となり、距離が開いていた

 

そして輸送船の左右にいた艦娘たちは、敵の奇襲当時、抵抗することなく輸送船への魚雷攻撃を許したと

 

しかし、誰か知っていたはずだ

 

私は横須賀提督にちゃんと伝えた

 

どういうことなの

 

なにかがおかしい

 

そ、

 

そうだ当時輸送船を守っていたのは自衛艦と艦娘

 

自衛艦が狭路の浦賀水道に入るまで、単横陣、つまり輸送船の左右に位置をとっていたのは、輸送船の横っ腹を敵の攻撃から守るため

 

もし魚雷攻撃や砲撃くれば、輸送船の代わりに自衛艦が攻撃を受け沈む

 

自衛艦は攻撃ではなく、防御、そのためだけに存在していた

 

妖精の加護無しの通常兵器では深海棲艦にダメージを与えることはできない

 

ならば深海棲艦への攻撃を担当したのは4人の艦娘

 

横須賀提督が私からの情報を得て、潜望鏡への警戒を伝える相手は

 

連絡指揮系統からすれば

 

その4人の中の旗艦に他ならない

 

知っているとしたら彼女だ

 

「護衛部隊の艦娘たちには、聴取を行ったのですか?」

 

私はこの部屋に来て初めて逆に監査官に質問をした

 

私はその答えが否であることを信じていた

 

きっと提督は監査官に潜望鏡の件ついては伝えることを失念していたのだ

 

私は提督へ情報を伝え、提督は護衛隊に伝えると言った

 

これは間違いない

 

提督から艦娘の旗艦に情報が伝わる

 

きっとこの事件の後処理やごたごたでまだ聴取を行っていないのだろう

 

 

 

「もちろん、聴取は行った。彼女たちからも潜望鏡の話は聞いていない」

 

そんなわけが

 

「艦娘の旗艦はどうなのですか?彼女なら知っているはずです!」

 

 

 

 

老人が答える

 

 

 

 

 

 

 

「彼女は轟沈した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府執務室

 

 

彼は恐怖に震えていた

 

もはや本当の真実が今後、歴史の中の真実になることはないはずだ

 

あの時、通信指令室には自分しかいなかった

 

秋津洲の無線報告を聞いたのは自分だけ

 

そして、私が情報を伝えた軽巡の艦娘は沈んだ

 

今頃、秋津洲は監査官から疑いの目を向けられているはずだ

 

だが少なからず疑われるのは自分も同じ

 

だがそれは権力をもってすれば押しつぶせる

 

もう後戻りはできない

 

あの時、呉鎮守府の提督から金を受け取ったときから

 

呉提督は海軍大学校の私の2期先輩にあたる

 

断れなかった

 

彼は自分の艦娘4人の不始末に責任をとるつもりはない

 

今回の輸送船沈没の責任を取るのは

 

輸送船の盾の役割を怠った自衛艦側になる手はずだ

 

私は欲しいものは何でも手に入れてきた

 

容姿や指揮の才能にも恵まれ、日本の顔、横須賀鎮守府提督の地位にまで昇りつめた

 

新しい艦娘が顕現したとき、私はその入手に資材も金も労力もいとわなかった

 

提督を生業としている者は清廉潔白ではいられない

 

誰かを優遇し、誰かに不幸を押し付ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、あとは秋津洲の口を封じるだけ

 

 

 

 

 

(続く)

 




もう少し、明るい雰囲気のお話が読みたいかも

秋津洲の活躍の日は近いかもかも?

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