「それでは、宣誓を行ってください」
「はい、えっと、私、横須賀鎮守府所属 水上機母艦 秋津洲はここに真実のみを証言することを宣誓しますかもっ、あっ!」
失敗を自覚
余計な語尾のせいで、周囲から厳しい視線を向けられている
も、もう一度最初から言ったほうがいいかも?
ここからは「かも」は禁止!
「まあ、いい。本日は先の輸送船護衛任務において、証言人 水上機母艦秋津洲のとった行動について不備がなかったか、これを聴取する」
海軍軍令部軍法会議第三法廷
海軍内で行われた不祥事などを裁く場所
証言台には緊張した面持ちで秋津洲、その正面に半円を描くようにして、監査官たちが座っている
「ふむ、そう固くならなくていい。我々は当時の状況を知りたいだけなのだ。形式にこだわる必要もない。楽にしたまえ」
正面、監査官の中でも一番年老いた、いや、老獪をにおわせる監査官が笑顔を浮かべる
言葉に応じ、秋津洲は、直立不動から休めの姿勢をとる
背後では両の手をぎゅっと握りしめている
「では、始めよう。まずは、秋津洲君、当時の出撃までの状況を聞かせてくれるかな?」
この老人は笑顔を崩さない
秋津洲にはそれが逆に不気味に思えた
「はい、当日は本来であれば、私は出撃しない予定でした。朝5時半過ぎに起こされて、直ちに出撃準備を行えと言われ、まず通信指令室へ向かいました」
「ほう、では本来は誰が出撃するはずだったのかね?」
「えっと、千歳さ、水上機母艦 千歳が出撃の予定でしたがカタパルトが不調と聞き交代しました」
「誰が君にそれを命じたのかね?」
「横須賀提督です」
「いいよ、状況を続けて」
矢継ぎ早の質問にうまく思考がまとまらない
「はい、ええと、通信指令室に着いたら、状況の説明を秘書艦の山城さんにしてもらいました。輸送船が湘南沖にいるので、横浜港まで周囲の警戒監視にあたれとのことでした」
「君はそれを聞いてどう思ったかね?任務遂行は可能かどうか」
「と、以前にも同じような任務をしたことがありましたし、私の二式大艇の能力ならば十分で完遂できると思って・・・う、いました」
しかし、任務を完遂することはできなかった
「大丈夫かね、当日の天候はどうだった?」
「当日は快晴で雲も出ていませんでした」
「ふむ、そうだね。海上にも霧は出ていなかった。日は昇っていたし、警戒監視に問題はない」
監査官は自分の席の前に設置されているディスプレイで何かを確認しながら言った
こう言葉を挟まれると何も言えなくなる
汗がにじむ
この部屋に入ってから何分が経ったのだろう
「出撃は何時頃だったか覚えていますか?」
変わって右の方向から質問が来る
「状況説明を受けてからすぐに出撃したので0600頃です」
「出撃してどこに向かいましたか?」
「鎮守府正面から出撃し、二式大艇が十分な離陸滑走を行える鎮守府の東2マイルの位置に向かいました」
「そこで、二式大艇を離陸させたということですね」
「はい、二式大艇をクレーンで海面に降ろして、飛行前作業を行い、南へ向け離陸させました」
「時刻は?」
今度は左から来た
「正確な時刻は覚えていませんが、0615頃だと思います」
「思いますとはどういうことかね?」
左は意地が悪い
「き、鎮守府からの移動距離と離陸作業時間から逆算するとおおよそ0615です」
「まあ、いいじゃないかね」
正面はまだ笑顔でいる
「何はともあれ二式大艇は離陸した、では次は飛行ルートと輸送船上空到着までだ。話を続けて」
「はい、離陸完了してからすぐに高度を上げ、三浦半島を横断、南下しました。飛行中の異常はありませんでした」
「輸送船の上空に到着したのは0630過ぎ、高度を200メートルに下げました」
「では警戒監視を開始したのも同時刻で問題ないね」
「1つ疑問があるのですが、よろしいでしょうか」
あ、女性の監査官もいる
全員、男性だと思っていたから少しほっとした
「秋津洲さん、あなたは事前に状況説明で大まかな輸送船の位置を知らされていたでしょうが、どのようにして輸送船を発見したのですか」
確かに大艇妖精さんによれば、輸送船は発見されにくいように喫水線に至るまで全体を深い緑に塗装され、甲板上も同じ色のシートかなにかがかぶさっていたらしい
「二式大艇は、航跡の白い波を目視し、それを追いかけていったところ、輸送船を発見しました」
「そう、ありがとう」
「次は、輸送船発見以降だ、話して」
「輸送船発見時、私は護衛隊の詳細な編成を知らされていませんでした。すぐに確認したところ、自衛隊の駆逐艦が2隻、艦娘は艦種までは分かりませんでしたが4人です」
「警戒監視を続け、三浦半島沖南西約2マイルの位置で潜望鏡らしきものを発見しました。 時間は0652です」
はっきりと覚えている
妖精さんが大声で報告してきた
それは時間の猶予が無いことを示していた
「そして君はどうしたのかね?」
「横須賀鎮守府に無線で潜望鏡発見を報じました」
「潜望鏡発見から横須賀鎮守府に伝えるまでの時間差はどれくらいか?」
笑顔の老人の隣に座る男が割り込んできた
「発見後、直ちに鎮守府に無電したので数分もかかってはいません」
「しかし、大艇妖精が発見し、君に伝えた、それを君が横須賀に送ったのだろう。多少時間はかかるのだと思うが間違いないのかね」
この男はなにが言いたいのだろうか
私も大艇妖精さんもそんなノロマではない
「そもそも君は無線で横須賀鎮守府の誰に連絡をいれたのだ?」
「横須賀提督です」
その瞬間、法廷の空気が変わった
老人の笑顔を作っていたしわは消え
目がぎらつき
瞬きもせず私をじっと見ている
数秒後、老人に笑顔が戻ると口を開いた
「こちらは横須賀提督から潜望鏡発見の話など聞いていない」
(続く)
今回は話数を増やしていくと矛盾が生まれていくことを学びました
そろそろちゃんとした設定を考えたほうがいいかも!