秋津洲ちゃれんじ   作:秋津洲かも

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二式大艇 (川西航空機 H8K)

加賀へ向け、秋津洲は全力疾走していた

 

脚の艤装は悲鳴を上げているが他の艦娘に比べればかなりの低速航行

 

潮風がほおに当たるのを感じると戦闘前の高揚と緊張は安らいできた

 

この演習はどのような目的を持っているのか

 

加賀から演習の申し出を受けたそのときから、秋津洲は自身が演習に勝利することなどありえない、それを念頭に置いていた

 

自分が誰よりそれを自覚している

 

私は負ける

 

ならばどう戦うべきか

 

いつも通り戦い、そして負けるだけだ

 

二式大艇は模擬弾とはいえ、加賀さんの艦載機にぼろぼろにやられるだろう

 

だからといって私にはまともな砲撃戦などできない

 

もうすぐこちらにも艦載機がやって来てハチの巣にされるだろう

 

 

 

だから

 

ここはみんなへの、提督への自己紹介の場だ

 

みんなに私が何ができて何ができないのか、正直に見せること

 

その結果、蔑まれたっていい

 

馬鹿にされたっていい

 

あたたかく迎え入れてくれたみんなにできる、私のできる限りの誠意

 

いつも通り、全力で戦う

 

 

再び海を駆けるこの機会をくれた提督、おじいちゃん、ありがとう

 

加賀さん、演習してくれてありがとう

 

 

私に出来ること、それは決まっている

 

 

 

 

 

 

 

零戦が二式大艇を目視した

 

二式大艇は雲一つない空へ向かい上昇を続けている

 

重力に逆らい、上を目指す巨大な機体は速度を失いつつある

 

零戦にとって対戦経験が無い相手ではあるがセオリー通り、後方の位置を確保するため周りこむ

 

攻撃意志が見られないことを確認し、艦娘攻撃用の天山、彗星は素通りさせ、零戦で囲い込む

 

万全を期すため、無線で他の零戦も呼びよせる

 

二式大艇は周囲を完全に囲まれてもなお、巨体を空へ押し上げている

 

他の方位へ向かっていた零戦も合流し、二式大艇を射程に捉えようとした時、

 

 

 

 

 

二式大艇は火の塊と化した

 

何が起きたかと理解する前に、次々と味方の零戦が撃墜判定を下され

 

とてつもない数の火線が空を埋め尽くしている

 

巨大な火を吹くハリネズミがその中心にはいる

 

戦闘機の機銃は前方のみしか発射できないが、このハリネズミは周囲のどこにいても狙いを定めてくる

 

同じ空にいた零戦はあと数機となった

 

この機体はやばい、とっさに離脱をかける零戦

 

なんなんだこれは?

 

第二次世界大戦時、零戦と同じように米軍が最も恐るべき相手とした航空機

 

当時、世界最高の飛行艇

 

航空戦艦ならぬ、戦艦航空機がそこにはいた

 

 

 

「きちょう、まもなくだんがんあとわずかです」

 

「わかったです。なにかにつかまるです!」

 

「「「らじゃー!」」」

 

 

機銃の嵐が止むと二式大艇は上昇を止め、突然機首を下へ、海へと向けた

 

残った零戦は機銃に警戒しつつも後を追いかける

 

プロペラ推力そして重力の力を受け、二式大艇はぐんぐん加速していく

 

速度計と昇降計の針がめまぐるしく回転する

 

海の青が迫ってくる

 

零戦はそれを追いかける

 

やがて二式大艇の機体はきしみ始めた

 

限界速度を超えれば最悪、機体は空中で分解する

 

海面が目の前に迫った瞬間、操縦桿を思いっきり引く

 

 

「あがれーーーーーーーーー!です!」

 

 

すんでのところで、正面から海面に突っ込むところだった二式大艇はそのままフロートを海面に着けていく

 

急ブレーキがかかった機体は前のめりになりながらもなんとか停止、着水は成功

 

後から追ってきた零戦は海面を避けるために早めに機首を上げ、二式大艇の上空を通過しようとする

 

 

 

「いまでーーーーす!」

 

「「「うてーーーーー!」」」

 

 

再びハリネズミと化した二式大艇から火が吹く

 

機体を立て直すため操縦桿を握るので精いっぱいの零戦はまたたくまに撃墜判定となった

 

 

「きちょうとしなのにむりするです」

 

「きぼちわるいですう」

 

「おなじくです」

 

 

顔を真っ青にした大艇妖精たちは機内でうずくまっている

 

やがて大艇妖精たちは肝心なことを思い出す

 

 

「こうしてはいられないです」

 

「あきつしまさんのところにいくです」

 

「「「おーーー!」」」

 

 

再び二式大艇は海を駆け空へと向かう

 

 

 

 

(続く)

 





戦闘シーンは大変かも!

次回、「秋津洲流戦場航海術」

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