アイズ達が来るの待っている間、ガレス達は奮闘していた。
「突貫、しますッッ‼︎‼︎」
透明のジャンプ台を思いっきり踏み込んだブラムは、盾を前に構えて突撃した。斬撃ではないので、芋虫に当たっても中から腐食液は出ない。
数十頭にも及ぶ芋虫の群れを、ほんの一瞬せき止めたブラムの後ろから、ベートが不壊属性の双剣で芋虫を掻っ捌いた。
「テメェクソガキ‼︎囮すんなって言ったろ‼︎」
「いやこれ盾役でしょこれ!ていうか僕の近くにいると……」
直後、飛竜がブラムに向かって突進してきた。
「うおわあっ‼︎」
とばっちりを食らう前に回避するベート。ブラムは食い荒らされたが、すぐに生き返った。
ブラムに突撃した飛竜達に、芋虫が突撃していく。
飛竜と砲竜、芋虫、冒険者の三つ巴の戦闘の中、ティオネが声を張り上げた。
「ここらへんの階層っていつもこんなことが起きてるの⁉︎」
「知るかッんなもん!」
ご丁寧に返したのはベートだ。魔剣を装着した銀靴の氷蹴と不壊属性の大斬撃の連携で、竜を仕留めていく。
その後ろで、ガレスが砲弾バリの突撃をしながら武器を振り抜き、あらゆる敵を駆逐していった。
芋虫の習性のために、迂闊に詠唱できないレフィーヤに、ブラムがアイコンタクトした。僕がいるからこの辺を焼き払え、と。
それを受け取ったレフィーヤが魔法を詠唱。それが終わるまで、レフィーヤを守るティオネ。
ブラムの引きつけたモンスターを、不壊属性の大剣で斬り裂いていくティオナ。
それぞれがそれぞれの働きをする中、再び階層からモンスターが産まれようとする。
「砲竜……!まだ来るの⁉︎」
「そいつも引きつける」
ブラムは透明のジャンプ台を出し、モンスター達のわずかな隙間を素通りして、その壁に向かった。
モンスターが産まれたのを確認すると、上に向かって飛び上がった。それを追う飛竜達と、そこに砲撃する砲竜。
「馬鹿、ブラム‼︎上に行ったら私達何も出来ないよ⁉︎」
「大丈夫っす、死に慣れてるんで」
なんか凄いことを言った直後だ。
「【ウィン・フィンブルヴェトル】‼︎」
大吹雪の魔法が放たれ、モンスターを全て氷漬けにした。
さらに、矢のように空中を疾走してくる金髪の剣士が、氷漬けになったモンスターを打ち砕いた。
「アイズさん‼︎」
「リヴェリア!ね
現れた仲間の姿に、レフィーヤとティオネの声が飛んだ。
さらに、フィン、椿、ラウルとその他三名のサポーターも駆けつけてくる。
「団長〜〜〜っ⁉︎」
「喜ぶのは後だ!残存するモンスターを掃討する‼︎」
俄然元気になるティオネをほぼほぼ無視して、フィンは団員達に指示を出した。
全員でモンスターたちと戦い、辺りには死骸の山が積まれた。
「ふぅ……これで、粗方片付いたか?」
「いや、まだ上!」
ティオナが上を指差した直後、ボトッと腕が落ちて来た。言うまでもなく、ブラムの腕だ。
「これ、無事って分かってても心臓に悪いわね……」
「慣れないよね」
直後、上空から血、細胞、内臓、骨、眼球、歯、チャイナ服などが降って来て、ブラムの体を作っていった。
「あー、あのモンスターマジ息くっさい……」
「ブラム、『跳躍』は出来るか?」
「はいはい」
上空のさっきまで自分を食ってたモンスターに向けてジャンプ台を出し、それを使ってアイズとティオナがモンスターを斬り裂いた。
降りて来たアイズに、レフィーヤが聞いた。
「アイズさん、大丈夫でしたか⁉︎」
「うん、平気……みんなは?」
「ガレスのおかげで何とかなったよ」
「え?僕のおかげじゃないの?」
「テメェ褒めると調子に乗りそうだから褒めねえんだよ」
「酷い………」
なんとか58階層を攻略し、一同は未到達領域目前となった。そんな中、フィンが顎に手を当てて考え事をしているのに気付き、ティオネが質問した。
「団長?どうかしましたか?」
「【ゼウス・ファミリア】が残した記録によれば、59階層から先は『氷河の領域』……」
「は、はい。いたるところに氷河湖の水流が流れ、極寒の冷気が体の動きを鈍らせると……」
「第一級冒険者の動きを凍てつかせるほどの恐ろしい寒気……なら、その階層を目前にしている僕たちのもとに、どうして冷気が伝わってこない?」
「何かあるってのか」
「わからんが……【ゼウス・ファミリア】の誇張とは考えにくいのう」
フィンの分析に、ベート、ガレスと呟いた。
「僕が見てきましょうか?」
「いや、良いよブラム。とにかく、総員3分後に出発する」
直ちに準備を済ませ、休憩を終えるパーティ。武器を装備し、隊列を組んだアイズ達は大穴へ足を踏み入れた。
「寒い、どころか……」
「蒸し暑い、ですね」
階段を下りながら、ティオナとレフィーヤが呟いた。
「今から僕たちが目にするものは……誰もが、神々でさえ目撃したことのない、未知だ」
フィンの言葉で、全員は59階層に足を踏み入れた。
そこには、氷河などなかった。
目の前にあったのは、不気味な植物と草木が群生する、変わり果てた59階層の景色だった。
「………これは、24階層の」
チャイナ服のプラムが呟いた。
天井や地面、壁からは無数の蕾が垂れ下がっている。
「音、が………」
階層の中央付近より響く、奇怪な音響。
何かが咀嚼しては、何かが崩れているような甲高い声音。
「僕が先に行きます?」
「いや、良い。全員で行く」
ブラムが聞いてみたが、いくら不死身でも一人で行かせる気にはならなかったのか、フィンはそう指示した。
一同は一本道の密林を、ブラムとベートを先頭にして進んでいく。
歩き続けること数分、密林が消え、視界に一気に広がった冒険者たちの目に、それは飛び込んだ。
荒野と見粉う海藻の中心には、大量の芋虫型と食人花、そして巨大植物の下半身を持つ女体型だった。
「『宝玉』の女体型か」
「寄生したのは『タイタン・アルム』、なのか?」
ガレスとリヴェリアがぼそりと呟いた。
その女体型に。芋虫は口の中にある極彩色の魔石を差し出し、それを貪欲に取り込んでいた。
魔石を吸収されたモンスターは次々に灰へと朽ち果てていく。
「………まさか、」
ブラムが気付いた。自分達が歩いてきた灰色の大地は、尋常ではないモンスター達の死骸であると。
直後、上半身を起こす女体型、そして女体型の上半身から、蛹から羽化するように女の身体が生まれた。
『……ァアアアアアアアアアアッ‼︎』
歓喜の叫びが迸った。全員が耳をふさぐ。
「うるさっ……」
「な、何だって言うのよ、アレ……⁉︎」
今だに続く余りの声量にティオネが呻く。
「………うそ」
そんな中、合図は一人立ち尽くした。耳を塞ぐのも忘れて、ただ愕然と。
『アリア……アリア‼︎』
自分に向かって嬉しげに『アリア』と叫び続ける異形の存在。
「『精霊』……⁉︎」
「『精霊』⁉︎あんな薄気味悪いのが⁉︎」
アイズの言葉にティオナが叫ぶ。
「……新種のモンスター達は、女体型をあの形態まで昇華させる触手に過ぎなかったのか」
フィンがつぶやく中、女体型は合図に向かって叫び続ける。
『アリア、アリア‼︎会イタカッタ、会イタカッタ‼︎』
「……っ⁉︎」
『貴方モ一緒ニ成リマショウ⁉︎』
その言葉に、アイズに振り返るティオナ達。
『………貴方ヲ、食ベサセテ?』
女体型は三日月のように口を歪めた。芋虫と食人花が勢いよく反転する。まるで、女体型に反応したように。
直後、ブラムが動いた。コンマ数秒で女体型の目の前まで飛び出した。
「こォッちだあああああああああ‼︎‼︎」
わざと、目の前で止まり、モンスター達を惹きつける。そこに食人花と芋虫が集まった。
一足遅れてアイズが飛び出し、他の冒険者達も走り出した。
「フィン、儂も前衛に上がるぞ⁉︎」
「どつせいつもとやることは変わらねえ、ブッ殺すッ‼︎」
「レフィーヤ、狙いは女体型、詠唱を始めろ!ラウル達は魔剣でアイズ達を援護‼︎」
「わ、わかりました!」
「はいっす!」
フィンの指示で、サポーター達も動き出す。
「突っ立って高みの見物というのもなぁ」
椿もまた、太刀を持ってモンスターの群れに突撃した。