ロキファミリアの囮役   作:杉山杉崎杉田

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59階層

 

 

アイズ達が来るの待っている間、ガレス達は奮闘していた。

 

「突貫、しますッッ‼︎‼︎」

 

透明のジャンプ台を思いっきり踏み込んだブラムは、盾を前に構えて突撃した。斬撃ではないので、芋虫に当たっても中から腐食液は出ない。

数十頭にも及ぶ芋虫の群れを、ほんの一瞬せき止めたブラムの後ろから、ベートが不壊属性の双剣で芋虫を掻っ捌いた。

 

「テメェクソガキ‼︎囮すんなって言ったろ‼︎」

 

「いやこれ盾役でしょこれ!ていうか僕の近くにいると……」

 

直後、飛竜がブラムに向かって突進してきた。

 

「うおわあっ‼︎」

 

とばっちりを食らう前に回避するベート。ブラムは食い荒らされたが、すぐに生き返った。

ブラムに突撃した飛竜達に、芋虫が突撃していく。

飛竜と砲竜、芋虫、冒険者の三つ巴の戦闘の中、ティオネが声を張り上げた。

 

「ここらへんの階層っていつもこんなことが起きてるの⁉︎」

 

「知るかッんなもん!」

 

ご丁寧に返したのはベートだ。魔剣を装着した銀靴の氷蹴と不壊属性の大斬撃の連携で、竜を仕留めていく。

その後ろで、ガレスが砲弾バリの突撃をしながら武器を振り抜き、あらゆる敵を駆逐していった。

芋虫の習性のために、迂闊に詠唱できないレフィーヤに、ブラムがアイコンタクトした。僕がいるからこの辺を焼き払え、と。

それを受け取ったレフィーヤが魔法を詠唱。それが終わるまで、レフィーヤを守るティオネ。

ブラムの引きつけたモンスターを、不壊属性の大剣で斬り裂いていくティオナ。

それぞれがそれぞれの働きをする中、再び階層からモンスターが産まれようとする。

 

「砲竜……!まだ来るの⁉︎」

 

「そいつも引きつける」

 

ブラムは透明のジャンプ台を出し、モンスター達のわずかな隙間を素通りして、その壁に向かった。

モンスターが産まれたのを確認すると、上に向かって飛び上がった。それを追う飛竜達と、そこに砲撃する砲竜。

 

「馬鹿、ブラム‼︎上に行ったら私達何も出来ないよ⁉︎」

 

「大丈夫っす、死に慣れてるんで」

 

なんか凄いことを言った直後だ。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】‼︎」

 

大吹雪の魔法が放たれ、モンスターを全て氷漬けにした。

さらに、矢のように空中を疾走してくる金髪の剣士が、氷漬けになったモンスターを打ち砕いた。

 

「アイズさん‼︎」

 

「リヴェリア!ね

 

現れた仲間の姿に、レフィーヤとティオネの声が飛んだ。

さらに、フィン、椿、ラウルとその他三名のサポーターも駆けつけてくる。

 

「団長〜〜〜っ⁉︎」

 

「喜ぶのは後だ!残存するモンスターを掃討する‼︎」

 

俄然元気になるティオネをほぼほぼ無視して、フィンは団員達に指示を出した。

全員でモンスターたちと戦い、辺りには死骸の山が積まれた。

 

「ふぅ……これで、粗方片付いたか?」

 

「いや、まだ上!」

 

ティオナが上を指差した直後、ボトッと腕が落ちて来た。言うまでもなく、ブラムの腕だ。

 

「これ、無事って分かってても心臓に悪いわね……」

 

「慣れないよね」

 

直後、上空から血、細胞、内臓、骨、眼球、歯、チャイナ服などが降って来て、ブラムの体を作っていった。

 

「あー、あのモンスターマジ息くっさい……」

 

「ブラム、『跳躍』は出来るか?」

 

「はいはい」

 

上空のさっきまで自分を食ってたモンスターに向けてジャンプ台を出し、それを使ってアイズとティオナがモンスターを斬り裂いた。

降りて来たアイズに、レフィーヤが聞いた。

 

「アイズさん、大丈夫でしたか⁉︎」

 

「うん、平気……みんなは?」

 

「ガレスのおかげで何とかなったよ」

 

「え?僕のおかげじゃないの?」

 

「テメェ褒めると調子に乗りそうだから褒めねえんだよ」

 

「酷い………」

 

なんとか58階層を攻略し、一同は未到達領域目前となった。そんな中、フィンが顎に手を当てて考え事をしているのに気付き、ティオネが質問した。

 

「団長?どうかしましたか?」

 

「【ゼウス・ファミリア】が残した記録によれば、59階層から先は『氷河の領域』……」

 

「は、はい。いたるところに氷河湖の水流が流れ、極寒の冷気が体の動きを鈍らせると……」

 

「第一級冒険者の動きを凍てつかせるほどの恐ろしい寒気……なら、その階層を目前にしている僕たちのもとに、どうして冷気が伝わってこない?」

 

「何かあるってのか」

 

「わからんが……【ゼウス・ファミリア】の誇張とは考えにくいのう」

 

フィンの分析に、ベート、ガレスと呟いた。

 

「僕が見てきましょうか?」

 

「いや、良いよブラム。とにかく、総員3分後に出発する」

 

直ちに準備を済ませ、休憩を終えるパーティ。武器を装備し、隊列を組んだアイズ達は大穴へ足を踏み入れた。

 

「寒い、どころか……」

 

「蒸し暑い、ですね」

 

階段を下りながら、ティオナとレフィーヤが呟いた。

 

「今から僕たちが目にするものは……誰もが、神々でさえ目撃したことのない、未知だ」

 

フィンの言葉で、全員は59階層に足を踏み入れた。

そこには、氷河などなかった。

目の前にあったのは、不気味な植物と草木が群生する、変わり果てた59階層の景色だった。

 

「………これは、24階層の」

 

チャイナ服のプラムが呟いた。

天井や地面、壁からは無数の蕾が垂れ下がっている。

 

「音、が………」

 

階層の中央付近より響く、奇怪な音響。

何かが咀嚼しては、何かが崩れているような甲高い声音。

 

「僕が先に行きます?」

 

「いや、良い。全員で行く」

 

ブラムが聞いてみたが、いくら不死身でも一人で行かせる気にはならなかったのか、フィンはそう指示した。

一同は一本道の密林を、ブラムとベートを先頭にして進んでいく。

歩き続けること数分、密林が消え、視界に一気に広がった冒険者たちの目に、それは飛び込んだ。

荒野と見粉う海藻の中心には、大量の芋虫型と食人花、そして巨大植物の下半身を持つ女体型だった。

 

「『宝玉』の女体型か」

 

「寄生したのは『タイタン・アルム』、なのか?」

 

ガレスとリヴェリアがぼそりと呟いた。

その女体型に。芋虫は口の中にある極彩色の魔石を差し出し、それを貪欲に取り込んでいた。

魔石を吸収されたモンスターは次々に灰へと朽ち果てていく。

 

「………まさか、」

 

ブラムが気付いた。自分達が歩いてきた灰色の大地は、尋常ではないモンスター達の死骸であると。

直後、上半身を起こす女体型、そして女体型の上半身から、蛹から羽化するように女の身体が生まれた。

 

『……ァアアアアアアアアアアッ‼︎』

 

歓喜の叫びが迸った。全員が耳をふさぐ。

 

「うるさっ……」

 

「な、何だって言うのよ、アレ……⁉︎」

 

今だに続く余りの声量にティオネが呻く。

 

「………うそ」

 

そんな中、合図は一人立ち尽くした。耳を塞ぐのも忘れて、ただ愕然と。

 

『アリア……アリア‼︎』

 

自分に向かって嬉しげに『アリア』と叫び続ける異形の存在。

 

「『精霊』……⁉︎」

 

「『精霊』⁉︎あんな薄気味悪いのが⁉︎」

 

アイズの言葉にティオナが叫ぶ。

 

「……新種のモンスター達は、女体型をあの形態まで昇華させる触手に過ぎなかったのか」

 

フィンがつぶやく中、女体型は合図に向かって叫び続ける。

 

『アリア、アリア‼︎会イタカッタ、会イタカッタ‼︎』

 

「……っ⁉︎」

 

『貴方モ一緒ニ成リマショウ⁉︎』

 

その言葉に、アイズに振り返るティオナ達。

 

『………貴方ヲ、食ベサセテ?』

 

女体型は三日月のように口を歪めた。芋虫と食人花が勢いよく反転する。まるで、女体型に反応したように。

直後、ブラムが動いた。コンマ数秒で女体型の目の前まで飛び出した。

 

「こォッちだあああああああああ‼︎‼︎」

 

わざと、目の前で止まり、モンスター達を惹きつける。そこに食人花と芋虫が集まった。

一足遅れてアイズが飛び出し、他の冒険者達も走り出した。

 

「フィン、儂も前衛に上がるぞ⁉︎」

 

「どつせいつもとやることは変わらねえ、ブッ殺すッ‼︎」

 

「レフィーヤ、狙いは女体型、詠唱を始めろ!ラウル達は魔剣でアイズ達を援護‼︎」

 

「わ、わかりました!」

 

「はいっす!」

 

フィンの指示で、サポーター達も動き出す。

 

「突っ立って高みの見物というのもなぁ」

 

椿もまた、太刀を持ってモンスターの群れに突撃した。

 

 


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