アイズ、ティオネ、レフィーヤ、ブラムはカドモスの泉に逃げ込んだ。
「ここは……!」
「カドモスの泉!……のはずだけど」
「簡潔に言います!僕とティオナさんがここに来た時はすでにカドモスの死骸しかなく、ドロップアイテムと泉水だけもらってさっきここを出ました!」
「よく分かりました!」
レフィーヤが答えた。で、後ろから芋虫が出てくる。
「来たわよ!」
「でも、攻撃したら破裂する……!」
ブラムは自分のメンバーを見回した。幸い、武器は誰も溶けてない。
「……レフィーヤさん」
「なっ、何⁉︎」
「魔法の詠唱お願いします。奴らを殲滅できるのはレフィーヤさんの魔法だけです。タゲは僕が取ります」
その的確な指示にレフィーヤもアイズもティオネも怯んだ。こいつ、こんなに役に立つっけ?みたいな。まるでフィンのようなオーラを感じた。そして、多少の期待が膨れ上がった。
「ブラム、私達はどうすればいい?」
アイズが聞いた。
「ヴァレンシュタインさんは、念のためレフィーヤさんを守ってください。ティオネさんは……」
そこで言葉を切るブラム。そして、さっきまでの真面目な表情から一転して、朗らかな苦笑いで言った。
「僕を守って下さい」
期待がトゥーンと音を立ててダウンした。
「な、何よそれぇ!」
「だ、だってぇ……僕も死にたくないですもん……」
「はぁ……さっきまでの団長オーラは何処へ行ったのよ……」
呆れるティオネ。
「けど、あんたらしいわね。いいわよ。その案、乗ってあげる」
「ありがとうございます……!じゃあ、行きます!」
ブラムはそう言うと、横に走り出した。まるで王蟲の群れのようにブラムを追い掛ける芋虫。
「ティオネ、気を付けて……!」
「分かってる!」
アイズはブラムを追った。良い感じにモンスターから逃げるブラム。それを守るティオネ。だが、それでも後の方からボス部屋に入ってきた芋虫は目の前のレフィーヤをロックオンしている。
「!」
「レフィーヤは詠唱を続けて!」
アイズが芋虫を相手に剣を構えた。すると、壁を走って芋虫から逃げてるブラムが、剣を壁に突き刺して止まると、大きく息を吸った。
「ちょっと、ブラ……」
「こォッちだァァアアアアアアッッッ‼︎‼︎‼︎」
思わずティオネが耳を塞ぐほどの大声。それがビリビリビリッとフロア内を響き渡る。すると、芋虫がギョロんとブラムの方を見る。
「あ、あはは……」
苦笑いを浮かべるブラム。一緒にいるティオネは冷たい汗を流した。
そして、ドドドドドドドドドドッッ‼︎‼︎と音を立てて突進してくる。
「「ほぉああああああああああッッ‼︎‼︎」」
ティオネとブラムは逃げ出した。
「ち、ちちちょっと!なんで一緒に逃げてんですか!守ってよ!」
「無理無理無理!あんな量相手に出来ないわよ!」
「さ、さっき乗ってあげるって言ったじゃないですか!」
「自分から狙われに行く人を誰が守るのよ!」
「はーあ……そんなんじゃ団長に嫌われちゃうんじゃないですかぁ?」
「なに、生意気言ってんだぁああああ!」
「ぐええ!ギヴギヴ!」
プラムの首を締めながら走るティオネ。
「ま、待て待て待て待て待ってお願い!今そんなんやってる場合じゃ……!」
すると、後ろの一匹が突進し、二人の背中をとらえた。
「キャッ!」
「うわっ……!」
ドテッと転ぶも、ブラムは受け身をとって体勢を立て直す。そして、逃走を始めた時は、ブラムが後ろから自分の肩にガンキャノンのようにティオネの脚を背負っていた。
「なんでこうなるのぉおおおおッッ⁉︎」
「ち、ちょっとあん痛ッ。下ろしなさ痛っ!なんて格好させるの痛っ!」
「わざとじゃないんです!てか言ってる場合じゃ……」
「ほわああああ!め、目の前に芋虫の口がぁああああ!痛っ!は、早く逃げなさい!」
「さっきから足がティオネさんの頭に当たってうまく走れないんだよ!」
「さっきから痛いと思ったらお前の所為かぁああああ‼︎」
「だから喧嘩してる場合じゃ……!」
「撃ちますッ‼︎」
「「えっ」」
レフィーヤの声が聞こえた。二人が振り返ると、魔法が発動された。
「『ビュゼレイド・ファラーリカ』ッ‼︎」
それが一撃で芋虫の群れを消滅させた。
「「ほぉあああああああッッ‼︎」」
ティオネとブラムが一緒に吹き飛ばされた。ギリギリ巻き込まれなかったものの、爆風を思いっきり受けて転がり転ぶ。
「! な、何の音だ⁉︎」
慌ててフィン、ベート、ガレスとラウル、ティオナがフロアに入って来た。が、五人揃って半眼になる。爆風で転んだブラムが、ティオネの胸に顔面を埋めていた。
「痛て……」
ムニュッとそれを掴んで起き上がろうとするブラム。その瞬間、真下で「ひゃんっ」と女の子らしい悲鳴が聞こえた。下を見ると、バッチリガッチリガッツリとティオネの胸を握っていた。
「………っぅ、うわあぁぁあああぁあっ⁉︎」
慌てて飛び退くブラム。すると、ティオネがユラリと立ち上がった。
「ぶぅらぁむぅ〜……私の初めては団長って決めてたのにぃ〜……何をやってくれてんのよォッ‼︎」
「ごっごごごごめんなさぁい!」
ガバッと土下座するブラム。だが、ティオネは許したとは言ってない、ブラムに飛び掛った。
「殺す!」
馬乗りになってコブシを振り上げた時、
「おい」
と、聞き覚えのある声が聞こえた。二人はその声のほうを見ると、ティオナとフィンが立っていた。
「………人を散々心配かけさせといて姉と不純異性交遊?良い度胸してるねブラム?」
「命令違反、単独行動、ファミリア内の不純異性交遊、始末書モノだな」
二人の顔が真っ青になる。
「ち、ちちち違うんですティオナさん!こ、これでも僕が考えた作戦のおかげで芋虫たちを一掃出来たんですよ!」
「だ、団長!不純異性交遊って……べ、別にそんなハッスルしたわけじゃないですよ!ちょーっと胸揉まれただけで……!わ、私だってブラムを守ったんですから!」
「ふぅーん?でも胸揉んでたよね?私の事好きだったのにその姉にちょっかい出してたんだ?」
「揉まれただけ?ティオネの胸ってそんなに安いモノだったのか?」
「「むぐっ……!」」
二人は黙り込んだ。
「とにかく、処罰は免れないぞ。特にブラム」
フィンがブラムを睨んだ。
「無茶をするな。他の者が助かればお前が死んでもいいという事はない」
「………ウッ。普段は囮にする癖に」
ジト目でフィンを見るブラム。すると、「ブラム」とティオナが真面目な声で言った。
「フィンは、ブラムを利用する為じゃなくて、本当にブラムじゃないと出来ないと思ってるから、囮を任せてるんだよ?」
「えっ?」
思わず声を漏らして、ブラムはフィンを見た。すると、フィンは頬をぽりぽりと掻きながらそっぽを向いた。
「ほら、違うじゃないですか」
「いや、察しなよ」
ティオナがジト目で見た。
「だから、そんな事言っちゃダメだよ」
「……………」
黙り込むブラム。そして、目を逸らしながら、ボソボソと言った。
「………………ごめんなさい」
「うんっ」
謝ると、フィンは微笑んだ。で、後ろからレフィーヤやアイズが合流した。
「あ、レフィーヤ。魔法すごかったわよ」
ティオネがそのレフィーヤを褒めた。
「あ、ありがとうございます……。でも、ありったけの最近力をつぎ込んだので…もう何もできないです……」
ヨロヨロするレフィーヤ。
「ヴァレンシュタインさんも、お疲れ様です」
ブラムが言った。
「うん。ブラムも、良い指示出してくれて、良かったよ」
「僕は、逃げ回ってただけですから」
「そんなこと言ったら、私はレフィーヤの前で立ってただけ……」
ズゥーンと凹むアイズ。
「ご、ごめんなさい!次は、もっと働かせますから……!」
「おいおい、次もある気でいんのか?」
「や、今のは……!」
ベートに茶々を入れられ、返答に困るブラム。それを聞いてガレスがガハハハっと豪快に笑う。そんな中、フィンが親指を顎に当てて考え事をしていた。
「団長?どうかしたんですか?」
ティオネが聞いた。
「いや、僕の考え過ぎだといいんだけれど……あの芋虫達はあくまで芋虫、つまり幼虫だ。もしかしたら、成虫が紛れ込んでてもおかしくない」
「あ、あの化け物の成虫って、一体どんなの……」
「それに、ブラムの攻撃対象が発動するのは、ブラムを感じ取ったモンスターだけだ。もしかしたら、何匹か逸れているかもしれない。急いでキャンプに戻って、武器を万全にしてから一匹残らず駆除しよう」
「はい!」
フィンの命令で全員はキャンプに戻った。